-
業種・地域から探す
建設機械
建設現場の人手不足問題などを背景に、建設機械の遠隔操作やデジタル変革(DX)対応といった高付加価値化が進んでいる。コマツは情報通信技術(ICT)を活用して建設現場の生産性向上を目指す「i―コンストラクション2・0」の取り組みを加速、タダノは移動式クレーン遠隔操作システムの本格的な運用を目指す。日立建機は豪州の鉱山で超大型油圧ショベル向け運転支援システムの実証試験を開始している。コベルコ建機は複数のゼネコンなどと共同でショベルなど建機の遠隔操作に建設現場の施工計画を合わせた「K―DIVE」拡販に注力する。
建機DX-働き方改革
国土交通省は2023年8月に「i-コンストラクション2・0」の内容を公表している。施工の自動化、データ連携の自動化、施工管理の自動化に取り組み、省人化や生産性向上とともに労働現場の安全確保、働き方改革を目指すとしている。
働き手となる生産年齢人口が40年には現在より2割減少すると見込まれる一方で、災害の激甚化、橋や高速道路などインフラの老朽化で社会資本整備と維持管理ニーズは今後さらに増えると予想される。国交省は40年度までに23年度と比較して、建設現場において3割の省人化、1・5倍の生産性向上が必要だと指摘。建設機械の自動化や自動施工は、これを実現するために不可欠となる。
コマツは08年に無人ダンプトラック運行システム(AHS)、13年にICT建機をそれぞれ市場投入し、16年4月からICT建機で「i-コンストラクション」対応のソリューションサービスを開始。ICT建機は全球測位衛星システム(GNSS)受信機で取得したバケット刃先の位置情報を施工設計データと照合しながら制御する、マシンコントロール技術を搭載している。
23年にはアースブレーン(東京都港区)と共同で、建設機械向けの遠隔操作システムの提供を開始。自動ブレード制御機能を搭載したICTブルドーザーと、ICT油圧ショベルの自動制御技術を組み合わせて遠隔地からの高精度作業を実現し、顧客の現場の安全性と生産性の向上に貢献する考えだ。
タダノは竹中工務店、アルモ(高松市)と共同開発した移動式クレーン遠隔操作システム「CRANET」の実証実験を開始した。香川県内に設置した専用コックピットから徳島県内の建設現場に設置したラフテレーンクレーン(RT)を遠隔操作し、材料の移動や積み込み、積み降ろし作業などを支障なく実施できることを確認した。
運転席周りに設置した複数のカメラ映像を専用モニターにリアルタイム表示することで、揚重物を目視確認しながら操作する従来の運転席と遜色のない作業環境を実現。また今回の実験では、市場に流通している既存のRTに簡単なレトロフィットを施した機種を使用した。将来的に同社の移動式クレーン全てに遠隔操作技術を導入することが可能となる。
竹中工務店は12月まで作業所で試験的に適用し、25年度中の本格的な運用開始を目指す。タダノは製品実装への研究開発を継続し、アルモはコックピットや通信システムのレンタル運用保守を担うとしている。
日立建機は鉱山大手リオ・ティントが西豪州で操業する鉄鉱石鉱山で、超大型油圧ショベル向け運転システムの実証試験を3月下旬から開始している。油圧ショベルの掘削や、鉱石の積み込み動作を支援するシステムを開発し、実用化を目指している。鉄鉱石や銅などの鉱物資源を採掘する鉱山現場では24時間365日を通じ安定した稼働が求められる。
油圧ショベルのオペレーターは周辺機械との接触や衝突に留意しつつ、鉱物資源を効率よく掘削し、ダンプトラックに積み込む作業を行っている。運転支援システムでオペレーターの負担軽減と鉱山現場の安全性、生産性向上、燃料消費量の削減を図る。システムの精度を向上させて、実用化につなげる。
コベルコ建機は「K―DIVE」を、重機の遠隔操作システムと稼働データを用いた現場改善ソリューションとして提案する。22年12月にサービスを開始、100社以上の企業から問い合わせがある。神戸製鋼所の加古川製鉄所で実証実験は完了、砂防ダムの無人化施工現場や大規模施工を想定した事前検証で効果を確認中。
東京・大崎の東京本社ブライトコア15階にデモ体験会場「品川リモートステーション」も開設した。コベルコ建機神戸トレーニングセンターにある重機の、遠隔操作が可能になっている。現場生産性の向上、遠隔操作による作業者の安全確保はもちろん、「だれでも働ける現場」にすることで働き方改革や組織の活性化につながるとみており、“コト”ビジネスとして収益化を目指す。ゆくゆくはコトビジネスと周辺ビジネスの合計で、全体収益の3割程度を狙う考えだ。
ユーザー新規投資手控え 建機DXで新たな使い方
世界での建設機械の売り上げは、高止まりから停滞傾向が続いている。これまで世界市場の成長をけん引してきた北米需要の伸びが一服し、欧州やアジアでは前年同期比2ケタの減少だ。景気の先行き不透明感でユーザーが新規投資を手控え、新車を買うよりも、現在持っている建機をいかに効率よく、長く使うか、そちらの管理が重要になってきている。
こうした新しい需要にも、DXの効果が見込める。効率よく建機を使用すれば摩耗や傷みも減らしたり管理したりすることが可能になり、作業者の熟練度の差による機械ダメージの増加が防げる。
自動施工技術は現在は道半ばであり、導入可能な現場条件が限られているため、さらなる技術進化と環境整備が不可欠だ。同一メーカーの操作はもちろん、異なるメーカーでもユーザーが同じプログラムで動作できるようにしなければならない。建設機械メーカーだけでなく、測量会社や飛行ロボット(ドローン)運行会社、建設会社の横断協力も必要になる。人工知能(AI)の活用やロボットの利用、大容量データを利用できる高速通信ネットワークの整備も不可欠になってくる。
課題は多いものの、建設現場の自動化が進めば生産性向上とともに賃金水準のアップも期待でき、有能人材の獲得につなげられる。雨の日など天候に大きく左右されることなく計画的に工事を進めることが可能になり、完全週休2日制の確保も図れる。DXや自動化で、建設機械メーカーの果たす役割と期待は大きい。