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建設機械(2024年2月)
2024年も建設機械各社が、電動ショベル開発や脱炭素の取り組みに力を入れる。世界規模でカーボンニュートラル(温室効果ガス排出量実質ゼロ)が推進され、国土交通省も産業部門の二酸化炭素(CO2)排出量削減に向け、23年10月より「GX建設機械認定制度」を開始した。また電動化建機は低騒音・低振動、排ガスを出さないといった利点があり、長所を生かした場面での活用が進む。一方で、車体価格が高額であることや充電インフラの設置問題などがネックとなっている。各社はカーボンニュートラルや電動化推進のため、関連企業などと連携し、共同開発を加速させる。
GX建機認定が始動
建機―電動化 加速/充電インフラに課題
コマツは23年12月に、コマツアメリカを通じて米国ミシガン州の電池メーカー、アメリカンバッテリーソリューションズ(ABS)を買収。同社の電池パック製造技術にコマツの知見を融合し、さまざまな建設機械や鉱山機械向けに最適なバッテリー開発を目指す。日立建機はスイス重電大手、ABBと共同開発してきた架線充電(トロリー)式の電動ダンプトラックの実証実験を今年半ばにザンビアの銅・金鉱山で始める。
コベルコ建機や住友建機も電動化建機の開発に力を入れる。各社そろって開発に力を入れるのは、世界規模で進むカーボンニュートラル推進の流れが背景だ。国内の建機からのCO2排出量は、産業部門の1・7%を占め、国交省も削減のため、電動化を後押しする。23年10月にスタートした「GX建設機械認定制度」では、コマツとコベルコ建機、竹内製作所、山崎マシーナリー(静岡県磐田市)の4社計15機種の電動ショベルが認定された。今後も引き続き認定機種を増やす方針。「ミニショベルやマイクロショベルを中心に、電動ショベルの利用成功例や導入メリットを施工会社に訴え、現場への普及を進めていきたい」と同省担当者は語る。
電動化建機の利点は従来型のディーゼルエンジン車と比べて発生騒音や振動が少なく、オペレーターの作業疲労が小さい点だ。排ガスを出さない長所は屋内工事や地下街といった閉鎖空間、食品や医療関係施設のような衛生性を要求する工事に向く。都市部の工事は道路の自動車渋滞を避けるため、夜間や休日に行われることが多く、この点も電動化建機の普及の後押し要因になる。
他方で普及へのネックになるのは、車体が高額であることと、充電インフラの設置問題。発電機を置きやすい都心やビル内などでは、充電インフラ問題をある程度解決できるが、山奥など交通不便な場所や、1日ごとに作業場所が変わる工事現場では充電器や発電機の設置は困難だ。
このため、足元での各社の製品は電池パックで、容量が減ってきたら取り換えが可能なマイクロショベルか数トンクラスのミニショベル、もしくはトロリーから直接、電源が取れるトロリーショベルや鉱山ショベル、鉱山ダンプトラックなどが中心だ。鉱山ショベルやダンプは車体重量もパワーも価格もミニショベルよりはるかに大きいが、ユーザーである国際鉱山開発大手がカーボンニュートラル実現のため、電動建機の導入に前向きなことが、商品開発の追い風になっている。
現場のゼロエミ実現/業界超えて共同研究
コマツは23年度を電動化建機の市場導入元年と位置づける。24年も取り組みをさらに加速させる中で、ABS買収がマイルストーンになると見ている。ABSは商用車と産業車両向けにリチウムイオン電池(LiB)をはじめとする電池パック製造を手がけており、鉱山機械や建設機械向けの電池開発も加速できると読む。
日立建機は施工現場のゼロエミッション実現に向け、客と共同研究する施設「ゼロエミッションEVラボ」を、5月に千葉県市川市に開設する。同ラボにはいすゞ自動車、伊藤忠商事、九州電力など他企業が参画し、電動の建設機械・機材が稼働する現場を再現したデモエリアを常設。建設現場のゼロエミッション実現に向けた課題や可能性を探る予定だ。
コマツと日立建機は両社ともカーボンニュートラル推進や電動化への研究を自社だけで行うのではなく、関連企業や周辺企業も巻き込んで総合的に進めて行こうとする姿勢が見て取れる。充電設備や仮設電源が近隣にない場所で建設機械を使う場合はどうするか、充電設備の効率的な運用や急速充電ができる次世代電池の開発なども関連企業と共同で研究を進め、解決していこうとの考え方だ。
この考えや姿勢は、他の建機大手でも共通する。電動化建機の先進地域とされる欧州でも実際には電動ショベルはさほど普及しておらず、国や自治体の政策支援や補助金で支えられている部分も大きい。LiBの場合、原材料や電池大手メーカーが中国で占められている地政学的な実情もあり、同国の依存度をいかに引き下げ、電池メーカーや供給体制も含めた国際共同開発を進めていくことも課題となっている。
こうしたこともにらみ、コマツやコベルコ建機などは電動化ショベルだけでなく水素燃料電池やバイオ燃料によるCO2削減やカーボンニュートラル研究も進めている。ただ、水素燃料電池ショベルはLiBの電動化ショベル以上に水素安定補給や冷却の問題があるため、実用化はまだ先と見られる。こちらも国による支援の方針で、普及時期や価格が大きく変動する可能性がある。
電動化ショベルやトロリー式ショベルの開発と別に、遠隔操作やデジタル変革(DX)ソリューションで現場で稼働するショベルやダンプの台数を最小限に制御し、カーボンニュートラル推進につなげようとの発想もある。コベルコ建機は重機の遠隔操作システム「K―DIVE」で作業効率化の研究を進めており、キャタピラージャパン(横浜市西区)は中大型油圧ショベルやブルドーザーに後付けできる遠隔操作システムを拡販し、人手不足対応や安全性向上効果をPRする。