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コンクリート構造物の長寿命化
地方における効果的・効率的メンテナンスの実現に向けて
【執筆】 山口大学大学院 創成科学研究科 講師 山田 悠二
地方では財源や人材の確保が深刻な課題となり、安心・安全なインフラの存続が危ぶまれている。課題解決のためには、構造物の点検・診断の効率化を図る支援技術やシステムの開発、地域特性を理解し維持管理に従事できる技術者の養成が急務だ。ここでは、山口大学社会基盤マネジメント教育研究センターが実施する、メンテナンスエキスパート山口(ME山口)養成講座と戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)での取り組みを紹介する。
地方におけるインフラメンテナンス
安心安全で活力ある社会生活を維持するためには、インフラの存在が不可欠だ。わが国のインフラは高度経済成長期に建設されたものが多く、更新時期を迎えたインフラが急増している。市町村が管理する橋梁は日本全体の7割を占める。そのうち老朽化に伴う損傷などによる通行止めや車両重量などの通行規制が実施されたものは、約2000カ所に及ぶ。地方におけるインフラの適切な維持管理と長寿命化は喫緊の課題となっている。
しかし、十分な財源や人材が確保されておらず、地方公共団体、特に市町村ではこの問題がより深刻だ。これを解決するために、構造物ごとの点検・診断の効率化が可能となる支援技術やシステムの開発、そして地域の特性を理解した上でインフラの維持管理に従事できる技術者の養成が急務となっている。
筆者が所属する山口大学社会基盤マネジメント教育研究センター(吉武勇センター長)では、インフラメンテナンスにおけるリカレント教育を目的としたME山口養成講座を実施しており、これまでに282人の修了生を輩出した。また、SIPの課題の一つである「スマートインフラマネジメントシステムの構築」のサブ課題「地方自治体等のヒューマンリソースの戦略的活用」にも取り組んでいる。
ME山口養成講座
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現場実習状況の例(トンネル実習)
ME山口養成講座では地域のインフラ再生を担う中核的人材の育成を目的として、「インフラメンテナンス技術者養成のための教育プログラムの開発と拡充」および「養成講座修了者(ME山口認定者)のフォローアップ教育体制の構築」を行っている。養成する人物像は、インフラ再生に関する俯瞰(ふかん)的な技術力を持つ地域のリーダーとして活躍でき、地域のインフラ再生を支える後進技術者の育成に貢献できる人材だ。
本講座は橋梁やトンネルの維持管理について、座学、現場実習(写真)、グループ演習からなる全28コマで構成され、実務に必要な知識と技術の習得を目指したカリキュラムとなっている。また、現場実習やグループ演習では、業種や所属が異なる受講者でグループが構成され、業種や所属の垣根を越えたネットワーク構築に大きく貢献している。
養成講座をすべて受講し、その後の修了認定試験に合格した者には、「社会基盤メンテナンスエキスパート山口(ME山口)」という資格が授与される。ME山口は「公共工事に関する調査及び設計等の品質確保に資する技術者資格登録規定(2014年国交省告示1107号)」に基づく技術者資格登録簿(参考文献①)に登録されている。また、2023年4月より試行的導入として、山口県が発注する業務の総合評価競争入札においてME山口が加点評価の対象となっている(参考文献②)。
ME山口養成講座の修了後、希望者は「ME山口の会」へ入会できる。ME山口の会ではインフラメンテナンスに関する活動や自己研鑽(けんさん)のための講習会を行っている。
また、愛媛、岐阜、新潟のMEや長﨑の道守、舞鶴の社会基盤メンテナンス教育センター(iMec)の関係者との定期的な意見交換やシンポジウム(五大学+一高専人材育成連携コンソーシアム主催)を通じて、県外の同様の組織との人的ネットワークも構築されている。
ヒューマンリソースの戦略的活用に向けた点検データ循環モデルの構築
SIPにおける取り組みの一環として、地方自治体での維持管理の効率化・高度化を目的とした点検データ循環モデルの構築と住民通報システムへの展開を実施している。本テーマは「社会基盤マネジメントプラットフォーム(インフラデータ管理・流通システム)」と「住民通報システム」の開発を行うことにより、点検データの有機的な活用を実現し、質の高いデータ蓄積を可能とする。これとともに、インフラマネジメントのスパイラル的な高度化を目指す(図1)。
社会基盤マネジメントプラットフォームは、自治体の定期点検結果である調書などの維持管理に活用できる詳細なデータをオープンデータ化し、流通させるもの(維持管理に関わるデータ・情報発信の場)だ。
住民通報システムは地域住民が対象施設の損傷を施設管理者へ通報する、もしくは損傷の確認を可能とすることを主とする(図2)。同システムのユーザーは一般住民、メンテナンスエキスパート(ME)などの施設に関する知識を持つ者、施設管理者を想定している。特にMEの活動をさらに活性化させることを開発の目的としており、MEを起点とするヒューマンリソースの戦略的な活用を指向している。
地方のインフラマネジメントに向けて
地域生活に密着した社会インフラを今後も維持していくためには、地域に根ざしたMEを守っていく必要がある。そのためには、構造物の劣化進行を見逃さない「プロの目」を養成することが重要であるとともに、地域のヒューマンリソースを戦略的に活用するためのシステムの運用がカギを握る。今後もインフラメンテナンスに関わる人材育成や支援システムの開発を継続することで、山口県のインフラマネジメントに貢献することを目指し、同様の問題を抱える地方のモデルとなるよう努めていく。
【参考文献】
①国土交通省,公共工事に関する調査及び設計等の品質確保に資する技術資格登録簿,2025
②山口県土木建築部技術管理課,土木関係建設コンサルタント業務の総合評価方式による競争入札について(試行),2025
