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空気圧縮機は工場の電力消費の約2―3割を占めると言われ、その省エネルギーと環境負荷軽減の両立が喫緊の課題となっている。近年はカーボンニュートラル(温室効果ガス排出量実質ゼロ)やデジタルトランスフォーメーション(DX)の潮流を背景に、オイルフリー化、IoT(モノのインターネット)による稼働最適化、高温環境対応などの新技術が急速に進展している。ここでは、その市場動向と技術革新を概観する。
DXとグリーン化で変わる空気圧縮機市場
【執筆】日立産機システム グローバルエアパワー統括本部 アドバンストテック設計部 成澤 伸之/マーケティング・戦略企画部 岡田 成幸
空気圧縮機の重要性
産業用空気圧縮機は、工場において電気や水と並ぶ基幹インフラの一つである。誕生から100年以上を経た今日でも、圧縮空気は各種製造装置、ロボット、食品包装ライン、医薬品や電子部品の生産など、極めて幅広い分野で利用されている。自動化・省人化の進展によりその需要は世界的に拡大し、現代の産業を支える不可欠な設備となっている。
圧縮空気はクリーンで安全性が高く、電気や油圧に比べて取り扱いが容易である。そのため、多くの生産現場で基盤的な動力として採用されている。一部の大規模工場では電動化(脱エア化)の動きもみられるが、コストやメンテナンス性の課題から、中小規模工場での脱エア化は限定的である。こうした理由から、空気圧縮機は今後も工場の主要な動力源であり続けると考えられる。
その半面、エネルギー消費量は大きく、工場全体の省エネ施策において、空気圧縮機の効率的な運用は避けて通れない課題である。さらに、日本政府が掲げる「2050年カーボンニュートラル宣言」を背景に、二酸化炭素(CO2)排出量の削減が企業経営の中心的テーマとなった。この実現において空気圧縮機が果たす役割は大きく、運用改善や設備更新による省エネ効果が企業の脱炭素戦略に直結する。
グリーン化が進市場動向
こうした流れを受け、空気圧縮機市場では「グリーン化」が大きな潮流となっている。その方向性は大きく「高効率化」と「オイルフリー化」に分類される。
まず高効率化については、各メーカーがインバーター制御、高効率エアエンド・モーターなどを用いた高効率製品を市場投入している。しかし現場では、機器の高効率性が十分に発揮されていないケースも少なくない。空気圧縮機の効率は稼働条件に大きく左右され、いかに高効率機であっても無負荷運転(アンロード)の時間が長ければ、電力は浪費される。そのため、稼働状況を把握し運用を最適化することが重要となる。
この課題に対し、当社は設備監視サービス「FitLive」を標準搭載する空気圧縮機のラインアップを拡充した。これにより、遠隔地から容易に稼働状況を把握できる環境を整えている。
次にオイルフリー化の動きである。小型・大型を問わず市場のオイルフリー化が進行している。給油式空気圧縮機では、潤滑油を圧縮空気に混入させて潤滑・冷却・シーリングなどを行っており、吐き出し空気には微量の油分が残留する。また、潤滑油は定期交換が必要であり、多量の油が消費される。食品・医薬・半導体など清浄度が高いエアを求める分野では、潤滑油を圧縮工程に使用しないオイルフリー機への転換が加速している。
当社はレシプロ(ベビコン)、スクロール、スクリューの3方式による多彩なオイルフリー機を展開し、0・1キロ―770キロワットの幅広いラインアップで多様な需要に応えている。
さらに、地球温暖化に伴う設置環境の高温化も新たな課題である。空気圧縮機は多量の圧縮熱を発し、設置室内の温度は外気より高くなる傾向にある。外気温が上昇することで、室内温度がさらに上昇して、異常停止を引き起こす。
当社は以前からスクリュー圧縮機で周囲温度45―50度C対応を実現してきた。2024年に発売したオイルフリーベビコンRシリーズでは、レシプロ圧縮機で45―50度Cに対応。25年10月に発売したスクロール圧縮機であるオイルフリースクロールGシリーズでも、45度C対応を標準化した(ヒートセーフティーモードを使えば50度Cでの運転も可能)。独自の冷却技術により、高温環境下でも安定稼働を実現している。
DXが開く新時代の空気圧縮機運用
空気圧縮機の効率的な運用には、稼働状況の「見える化」が不可欠だ。これを支えるのがDXによるデジタル管理である。
当社の最新機種の多くには、IoT通信機能が標準搭載されている。携帯通信を利用した設備監視サービスFitLiveや、近距離無線通信規格「ブルートゥース」接続による「FitLiveコネクトアプリ」により、稼働データをリアルタイムに収集・分析できる(FitLiveコネクトアプリでは、ブルートゥース接続時のみデータ取得)。稼働時間、吐出圧力などを常時モニタリングし、効率的運転を可視化する。これにより、従来は現場確認や測定が必要だった情報を遠隔地から一目で把握できるようになった。
FitLiveは17年にサービス提供を開始し、21年には稼働レポート配信などデータ利活用型サービスを拡充した。24年には接続台数2万5000台を突破した(既設機の改造による接続を含む)。今後はAI(人工知能)分析による最適提案や予兆診断の領域へ発展し、蓄積データを顧客価値として還元する取り組みも進めていく。
製品寿命を延ばすメンテナンス
IoTの普及により、稼働状態の把握は以前より容易になっている。しかし、稼働状態を把握し、いったんは最適なシステムを整えても、その性能を長期間維持するには適切なメンテナンスが不可欠である。
メンテナンスにもデジタル技術の活用が進んでいる。稼働データを活用し異常兆候を早期に検出、計画的に保守を行うことで突発的故障を防ぎ、稼働率を高めることができる。
例えば当社のスクリュー圧縮機Gシリーズは、FitLiveを通じ、吸い込みフィルターの目詰まりの監視が可能になっている。フィルターが詰まると、圧縮機の吸い込み空気量が低下することで、吐き出し空気量も減少する。吐き出し空気量の減少は効率の悪化に直結する。
適切な監視と清掃・交換を行うことで、空気量減少や内部温度上昇を未然に防止できる。将来的には吸い込みフィルター以外にも、AIが稼働データから異常傾向を予測し、最適なメンテナンスを自動提案することも現実的になる。
また、リビルト部品やメンテナンスパックの活用も有効である。主要部品を回収・再構築・再利用するリビルトは、環境負荷を低減しつつコストを抑えるサーキュラーエコノミー(循環経済)の取り組みであり、定期交換部品をパッケージ化したメンテナンスパックは、運用効率を高める。当社はこうした仕組みにより、〝壊れてから直す〟から〝止めない運用〟への転換を加速している。
最新の製品群
最新の代表製品として、高周囲温度対応オイルフリースクロール圧縮機Gシリーズ1・5キロ―3・7キロワットが挙げられる。従来のスクロール圧縮機ならではの静音性を維持しながら、周囲温度45度C環境下でも安定稼働できる。新搭載のヒートセーフティーモードを使用すると、温度に合わせて自動で設定圧を下げ、50度Cまで動作できる。オイルフリーベビコン(レシプロ)Rシリーズでは、タンクマウント型で50度C、パッケージ型で45度Cまでの安定運転を実現し、過酷な設置環境下でも高い信頼性を発揮する。
設備監視サービスFitLiveも進化を続けていく。稼働状況のリアルタイム監視により、メーカー・販売店が迅速に支援できる体制を整備。安心で効率的な稼働管理環境を提供する。
さらに、圧縮熱を有効活用する排熱回収装置も注目されている。空気圧縮機が発する圧縮熱は通常、冷却風や冷却水によって取り除かれ、大気中に放熱されている。排熱回収装置はこの圧縮熱を回収し、温水として活用することができ、大幅な省エネが可能となる。
カーボンニュートラルとDXが融合する未来
空気圧縮機は動力源の枠を超え、「持続可能な生産を支える中核設備」へと進化している。オイルフリー化、高周囲温度対応、DXによるデータ活用といった技術革新は、省エネとカーボンニュートラルを両立させるカギとなる。
当社は空気圧縮機のほかにも変圧器、ポンプ、モーターなど多彩なプロダクトを手がける。製品ライフサイクルを通じたサポート、そして最新のデジタル技術により、生産性と環境性能の両面から持続可能な社会の実現に貢献していく。
