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セルロースナノファイバー
セルロースナノファイバー(CNF)は植物からとれるセルロース(パルプ)を化学的・機械的処理により数ナノー数十ナノメートルに微細化したナノ繊維。〝ナノ〟まで解繊した機能性材料として実用化が進む一方で、強度を目的とした構造材料では〝ナノ〟まで解繊しないセルロースとしての利用が広がっている。植物由来のため生産、廃棄における環境負荷が小さく、リサイクルしても機能が低下しない。カーボンニュートラル(温室効果ガス排出量実質ゼロ)実現に欠かせないバイオマス素材として、存在感を高めている。
CNF LCAで環境優位性 実証
環境負荷下げる投資カギ/東京大学 未来戦略LCA推進機構 教授 菊池 康紀 氏
カーボンニュートラルの実現に大きく貢献する新たな材料の一つとして期待されるCNF。新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)では早期の社会実装を目指し2023年-24年の2年間、CNF材料のLCA評価プロジェクトとして、評価手法の検討と評価が行われている。実施者である東京大学未来戦略LCA推進機構(UTLCA)の菊池康紀教授に、LCA(ライフサイクルアセスメント)の重要性やCNFへの期待を聞いた。
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東京大学 未来戦略LCA推進機構 教授 菊池 康紀 氏
ー先生の専門は化学工学およびLCAです。
「環境省のNCVプロジェクトでLCAを担当したのが、CNFと関わったきっかけ。もともとプロセスシステム工学が専門で、石油などの資源から化学物質を生産するまでの工程や化学プラントの設計などについて環境影響評価を行っている。この分野では少なくとも90年代からLCAが使われていた。化学物質は作っただけでは価値が分からない。例えばCNFの競合になる炭素繊維は、航空機産業で燃費向上やCO2削減効果がある。しかし炭素繊維を作る化学産業としてはCO2を排出するだけ。そこでLCAを使い、化学物質が使われる場所でのCO2削減効果を評価する必要がある。環境負荷削減貢献量を示すのにLCAは極めて大事なツールだ」
ーLCAの重要性が高まっています。
「環境配慮型の製品を市場に展開する上では必須の方法論であり、共通言語化されはじめている。化石が原料の大半を占める素材系の化学物質では、『バイオ化』や『リサイクル由来』にしていく、そもそも『プラスチックをやめる』など、さまざまな方向から化石依存を減らすための技術開発や社会システムの検討が行われている。CNFはその選択肢の一つとして重要な素材だが、競合となる素材はたくさんあるので、LCAで比較していく必要がある。昨今は〝グリーンウォッシュ(見せかけの環境配慮)〟のリスクも高い。LCAは自分たちの取り組みが本当に環境に配慮しているかを確認するとともに、世間に正当に評価してもらう手段になる」
ーCNFへの期待は。
「CNFはプラスチックの強化繊維として使え、極めて重要な立ち位置にある。繊維強化にはガラス繊維や炭素繊維があり、それぞれの機能がある。しかし全般的にはセルロースの繊維であれば圧倒的に軽くなり、かつ混練もしやすい。バイオ化していくためには重要な材料で、今後拡大が期待される。セルロースは原料が多様なので、研究開発の幅が広がる点でも期待度が高い。食用から自動車まで多用途に検討できるのも魅力だ」
ー今後の展開をどうみますか。
「企業がCO2排出量を公表しなくてはいけなくなった時、環境負荷を下げるためにどれくらい投資をするかが議論になる。CNFが素材として議論の土俵に上がるためにLCAは必要。今後、LCA評価として結果を出した上で、より効果を高めるためにはホットスポット(環境への影響が大きい工程)を特定して削減していく。何もせずに『いつか採用してもらえる』わけではない」
ーコスト面で課題があります。
「現状は石油が安すぎるので、経済活動上はコストをかけてまでCNFを採用しようとはなりにくい。しかし気候変動リスクでは、将来の世代が負担するコストを増やしている状態。市場メカニズムで、いつ議論ががらっと変わるかわからない。そこに向けてデータを整備し、技術開発を進めなくてはならない。カーボンニュートラルは使える技術を全て使っても実現が難しい目標。必ずCNFが採用される時期は来るが、少しでも早めるためにLCAを使っていきたい」
万博でCNF紹介 実用化事例/将来技術
ナノセルロースの実用化と産業規模の拡大を図る業界団体のナノセルロースジャパン(NCJ)は、2025年大阪・関西万博で会員各社の実用化事例や将来技術を紹介する。期間は25年6月10日から16日までの7日間、場所はフューチャーライフエクスペリエンス(FLE)内。日本製紙の蓄電体や王子HDの燃料電池用高分子電解質膜なども展示する予定となっている。
小林満NCJ事務局長(王子HDイノベーション推進本部CNF創造センター長)は、「コロナ禍でNCJの運営だけでなく、展示会など人との交流が思うようにできなかった時期を経て、活動が活発に戻ってきた。大阪・関西万博に向けて、今年と来年は全力で活動するべき重要な局面」として取り組む。
NCJはこのほかナノセルロースの利活用に必要な最新の知見・技術を紹介する「ナノセルロース塾」を開催している。今年からはこれまで新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が開催していた人材育成講座を引き継ぎ「第1期ナノセルロース・実習コース」も実施する。