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中堅・中小企業/独自色を生かし 事業を展開
自動車、半導体製造装置、工作機械などに加え素材産業も発達する中部地方。産業界をリードする大手企業が多数立地すると同時に、中堅・中小企業のすそ野も広い。各社は独自の技術と製品を持ち、得意分野では大手を凌ぐ実力派も多数存在する。こうした産業界構造が同地方の強みとなっている。企業が生み出す新たな価値は、地域の産業や経済、生活などの持続的発展を支えている。
省人化、生産性向上
ロボットや産業機械などに使用される高精度歯車の専門メーカー永田鉄工(愛知県豊川市、林臣充社長)は、歯車研削盤の保有台数が国内最多クラス。今年、本社工場にスイスのライスハウアー製で小径砥石(といし)を搭載した歯車研削盤「RZ160KWS」を導入した。
同機は段付きギアの加工用に開発された専用機。通常は複数のギアを別々に加工してから組み合わせる段付きギアを一体で加工できる。搭載する砥石は直径120ミリメートルで、段部分でもワーク干渉せず高精度な加工を実現する。さらに11月には同社製歯車研削盤「RZ260」を導入する。今後も積極的に投資をする構えだ。
投資の手緩めず
自動化設備に欠かせない回転運動を直線運動に変換するラック・ピニオンシステム。中でも、加茂精工(愛知県豊田市、今瀬玄太社長)が手がける「TCG(トロコイドカムギア)」は、バックラッシ(歯車間の遊び)がなく、高精度、長尺・高速化が可能という特徴を持ち、自動化設備の部品として高い信頼を得ている。
クリーンな環境でも、高精度かつ長尺を実現できるTCGの強みがニーズとマッチし、電気自動車(EV)用の電池製造設備への採用が増加している。これに対応し、2020年6月にTCG専用の出雲工場(島根県出雲市)を新設、稼働した。12月には大型枠番用TCG専用減速機「NSPシリーズ」を発売しTCGはラインアップが揃った。
増産に対応
フォークリフトのレンタル事業を手がけるスズヒロフォークリフト(愛知県豊田市、鈴木宏延社長)は、本社事務所を同市内で移転し、併設するフォークリフトの整備工場を拡張した。労働環境を改善する設備を導入し、整備士の安全性や快適性を高めた。
新本社の敷地面積は約2000平方メートルで旧本社の約2倍。整備ブースを拡充し、整備用2柱リフトを新たに導入。整備時に発生するブレーキダストなどの粉じんを吸い込む集塵機も8台採用した。整備士がダストを吸引するリスクを抑えて、安全性を向上させた。
フォークリフトは自動運転化や電動化が進み、それらの流れに対応できる整備士の確保が課題となっていた。手狭な旧本社では整備ブースの確保や環境改善に必要な設備の新設が難しかったため、移転に併せて大幅な設備増強に踏み切った。
森岡産業会長 松浦 美千穂氏/朝会議で次世代トップを育成
日本の産業を下支えする中小企業は、大株主と経営が一致する同族経営企業が大勢を占める。しかし、後継者の不足や不在によって事業承継問題が増加している。こうした中、非同族経営で事業承継しつつ業績拡大も果たす企業が注目されている。2022年に「グッドカンパニー大賞」優秀企業賞を受賞した冷間鍛造部品製造の森岡産業(三重県川越町)での取り組みを松浦美千穂会長に聞いた。
フラットな仕組みが強み
―創業時から非同族経営企業です。
「ルーツは明治期に創業された配合肥料商社。第二次世界大戦時の統制経済によって、事業展開が困難になった。生き残りをかけ、軍需産業への参入を図ったのが創業のきっかけ。数人が出資して会社を設立以降、オーナーのいない企業として代を重ね、来年80周年を迎える」
―製造業は投資額が大きく、事業資金の確保も課題です。
「個人の大株主がいない半面、名古屋中小企業投資育成が大株主になっている。会社規模が小さかった時代には同社からの出資は信用の裏付けになり、資金調達の場面で力になった。現在は、安定株主として経営の健全性につながっている」
―オーナー家がないだけに、次世代経営者の育成は重要です。
「『だれでも社長になれる会社』を標榜している。その土壌となるのが全部門の課長以上の管理職から役員まで参加する『朝会議』だ。週に一度の会議で、品質や納期を含め全社の状況について情報共有し、合議制で対応策や方針を決めていく。課長登用は30代後半から。この年代から経営判断の場に身を置くことで、経営者としての資質が養われる。トップは内部から選任していくという当社の伝統的な考えから、幹部研修にも力を入れている」
―業績が好調です。
「主力事業は冷間鍛造技術を駆使したネジの製造。中でも特殊品を得意としてきたが、収益性の向上が長年の課題だった。きっかけとなったのは15年ほど前、自動車のパーキングブレーキに組み込まれる新機構部品の受注に挑戦し、成功したことだ。これにより、10年前は年間売上高が55億円程度だったが、前年度は同80億円を超えるまでに成長した。当時は、複雑形状かつ高精度の精密部品で、ブレーキに使用される重要保安部品の量産に二の足を踏む意見も出た。しかし、幹部全員が参加する会議で問題点を丹念につぶしていき、受注につなげていった。フラットな場で意見交換できる当社の強みが生きた」