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自動車産業②/脱炭素で注目 グリーン燃料
自動車産業は脱炭素化の潮流により、これまでの事業構造を大きく変えようとしている。米国や中国では電気自動車(EV)シフトが急加速し、完成車・部品各社は電動化対応を強化。動力の転換や省エネ技術なども駆使し、二酸化炭素(CO2)削減を進めている。そんな中、CO2を排出しない新たなグリーン燃料として期待されているのが、合成燃料だ。ガソリンの代わりとして既存の内燃機関を活用できる可能性もあり、製造技術も含め実証が進んでいる。
車両電動化でCO2排出減/トヨタ「全方位戦略」、 日産「 30年までにEV19車種」
自動車産業での脱炭素化の方法は、大きく二つ。一つ目は車両の電動化による、走行時のCO2排出低減だ。中でも加速しているのがEV戦略で、トヨタ自動車が2030年までにEV販売台数を350万台に引き上げるとの目標を掲げるほか、ホンダは40年に世界の新車全てをEVと燃料電池車(FCV)にすると表明。日産自動車も30年までに19車種のEVを含む27車種の電動車を投入すると発表しており、電動車比率を55%に高める方針だ。
ただ、トヨタは電力事情の乏しい新興国なども念頭に、EVだけでなくハイブリッド車(HV)やプラグインハイブリッド車(PHV)も合わせて市場の特性やニーズに応じた電動化を進める「全方位戦略」を掲げる。当面の主役はHVやPHVになる見通しだ。
事業所・製造工程で排出減 メタネーションに脚光
もう一つの脱炭素化策が、事業所や製造工程などから排出されるCO2の低減だ。太陽光発電や風力発電といった再生可能エネルギーの導入や水素利用、排出されたCO2を酸素と反応させて燃料となるメタンを合成するメタネーションといった取り組みが大手企業を中心に行われている。課題はCO2回収技術、水素製造やメタネーションのコスト低減と大量生産技術、新たな燃料を使用するための生産設備やプロセス対応など。解決策を見つけるべく、デンソーやアイシン、豊田自動織機といったトヨタグループ企業が実証を進めている。
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その他の企業でも、設備の電化や地道な省エネ活動などを実施。同時に脱炭素化技術を新規事業に活用する動きも高まりつつある。例えば中央精機(愛知県安城市、牛尾理社長)は、東海大学と共同で排熱を利用して発生した音波の力を使い冷却エネルギーを生む「熱音響冷却システム」を開発。製品化を進め、24年度内の事業化を目指す。同社のアルミホイール熱処理工程で出た最大約250度Cの排熱から、同マイナス14・4度Cの冷却熱を得られ、牛尾社長は「排熱利用で二酸化炭素(CO2)削減に貢献できる」と自信をみせる。工場や船舶用の冷房装置などとして、システムを外販したい考えだ。
合成燃料の解説/既存設備で製造 人口原油
カーボンニュートラル(温室効果ガス排出量実質ゼロ)の実現には、脱炭素化エネルギーへの転換が不可欠だ。そこで注目が集まっているのが、合成燃料だ。
合成燃料はCO2と水素を合成して製造する液体燃料。いわば人工原油だ。CO2は工場から排出されるものを分離し回収するか、大気中から直接捕集する。水素は再生可能エネルギー電力で水電解を行いCO2を出さないグリーン水素を使う。燃焼時にCO2が出るが、もともと排出されたCO2を原料としているため大気中のCO2量は変わらず、脱炭素燃料と見なせる。
大きなメリットは既設インフラや設備を活用できる点だ。原油の精製設備で製造でき、石油の需要減で余剰となる製油所が有効活用できる。エンジンなど内燃機関もそのまま使用でき、輸送や給油などのサプライチェーンも変える必要がなく社会コストを抑えられる。さらに国内で工業生産できるため、石油のように中東など他国・地域への資源依存リスクを低下できる。議論の高まるエネルギー安全保障にも寄与すると期待される。
3月、欧州での決定が自動車業界に大きなインパクトを与えた。欧州連合(EU)が、35年に内燃機関車の販売を全面禁止するとの方針を転換し、合成燃料を使用するエンジン車に限り販売を認めるとしたのだ。日本が強みを持つハイブリッド車(HV)も認められることになり一筋の光明が差し込んだ。
「今の産業構造、社会環境を踏まえた現実的な提案がなされた」。トヨタの佐藤恒治社長はEUの決定についてこう話す。日本自動車工業会(自工会)も、欧州自動車工業会など各国の自動車団体と「50年までのカーボンニュートラル達成に向けた方向性を再確認した」との声明を発表した。
自動車業界ではEUの決定に対し、脱炭素化に向けた動力源の選択肢が増えたという点で歓迎の声が大きい。HVやPHVをゼロエミッション(排出ゼロ)化できるだけでなく、資源の逼迫が懸念される蓄電池使用量を、EVよりも少なくできる点もメリットだ。愛知県内のある中小部品メーカー首脳も「(これまでと同様にエンジン関連の)仕事として下りてくるため良いことではないか」と話す。
ただ、合成燃料の原料となるグリーン水素の調達コストやCO2の回収技術、流通量の少なさなど実用化への課題は多い。使用量の大きい航空・船舶業界なども交えた議論の活発化が期待される。