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自動車産業①/次世代クルマ社会へDX加速
電動化やソフトウエアによる付加価値向上が進む自動車産業では、開発や生産の効率化、製品・サービス総出力といった基盤強化直結するデジタル変革(DX)が欠かせないものになってきている。トヨタ自動車といった完成車メーカーや、部品メーカーのデンソーやアイシンなど大手企業中心に取り組みが加速しているが、その波は中堅・中小企業にも押し寄せる。対策待ったなしの状況の中、各社はさまざまな工夫でDX化に挑んでいる。
トヨタ、独自車載OS検証/AI組み合わせ高性能応答
新たに佐藤恒治社長が着任し、新体制を発足させたトヨタ。その船出となった4月に公表したのが、次世代のクルマ社会の姿を描く「トヨタモビリティコンセプト」だ。この中では電気自動車(EV)戦略の本格化と合わせ、「自社基本ソフト(OS)をベースにしたDXの加速」を重要な柱の一つとして打ち出した。
トヨタ独自のソフトウエアプラットフォーム(基盤)「アリーン」は、ソフトの開発や評価を行うITツールや、クルマの機能やサービスを担う車載OSなどを包含する。2024年に一部開業を予定する次世代技術の実証都市「ウーブン・シティ」(静岡県裾野市)を主な舞台とし、技術検証と社会実装のサイクルを回す予定だ。
6月にはアリーンOSによる開発成果を一部披露。人工知能(AI)を組み合わせ、人と話しているかのような高速かつ高性能の応答が可能な、音声認識技術を実現した。
このほか開発現場でのDXも加速しており、シミュレーションや、仮想空間上に現実世界を再現する「デジタルツイン」による試作レスかつ高効率な設計を実施。また車両デザイン工程にAIを活用し、開発スピードを高める検討も始めている。
ソフト領域に技術者シフト/各社、人材育成を強化
トヨタグループの大手部品メーカーでも、DXに向けた動きは強まる。デンソーはハードウエアの技術者をソフトウエア領域に転換するキャリアシフト制度を導入。リカレント(学び直し)教育で、25年までに1000人を転身させる計画だ。
アイシンも全社横断組織の「DX戦略センター」を軸に、ITを活用した業務プロセス革新や、AI・データ活用による価値創出などを進めている。人材育成制度を整備したほか、「25年までに開発期間を30%短縮」という目標を掲げ、シミュレーションを開発に活用する「モデルベース開発(MBD)」などを取り入れている。
このほか、トヨタ系ではフタバ産業が生産現場のDXを加速。幸田工場(愛知県幸田町)で運用するタブレット端末から即時に生産情報を把握できるシステムの他工場への展開を始めた。岡崎工場(同岡崎市)では、ライン設計で3次元(3D)シミュレーションの活用を検討する。一連のDXにより25年度に工場の間接工数を、21年度比で半減させることを目指している。
また、ファインシンターはIoT(モノのインターネット)技術の活用などにより無人で24時間稼働し、不良品低減も図る「未来ファクトリー」を国内外で順次展開する方針。年々、重要性が増している人手不足を解消する手段としても期待がかかる。
デジタル技術を新規事業開発に生かしているのは東海理化。スマートフォンを鍵の代わりに使い、車両運用の効率化を図る「デジタルキー」の事業化を急ぐ。社用車管理サービスの「ビーキー」や、スマホを通じて予約や鍵の受け取りなどができるレンタカーシステムを展開中だ。
中堅・中小もDX推進「新価値創出」
生産現場や業務プロセスにおけるDXは、中堅・中小企業にとっても人ごとではない。トヨタの協力部品メーカーで組織する「協豊会」は、23年度の事業方針として「もっといいクルマづくり」や、「カーボンニュートラル(温室効果ガス排出量実質ゼロ)への取り組み」に加え、「新価値創出のためのデジタル変革(DX)推進」を事業の柱に据えた。池田育嗣会長(住友ゴム工業特別顧問)は「EV化などを見据え、対応を進めねばならない」と話す。
自動車のエンジンや変速機向けの熱間鍛造製品を手がける旭鉄工(愛知県碧南市、木村哲也社長)は、IoTを活用し消費電力の削減を実施。23年9月期までに、電力購入量を13年比3割削減することを目指す。改善のノウハウを組み入れた独自のIoT(モノのインターネット)モニタリングシステムを応用し、計測器を使用しなくても電力消費量を稼働データから算出する。
また、松田電機工業所(愛知県小牧市、松田佳久社長)は、同県春日井市の新本社工場でDXを推進。完成品や部品を自動で搬出入する自動倉庫や、無人搬送車(AGV)を導入。これまで人手で行っていた工場内の搬送・物流業務を20%効率化する。デジタル化による生産管理や設備保全、物流業務の最適化に加え、ノウハウの外部提供も視野に入れている。新工場では主力の自動車用スイッチの製造・組み立てを効率化するほか、EV向けの高電圧コネクターやケーブルなどの受注獲得を狙う。