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中部の工作機械(2023年7月)
工作機械業界にとって、熱気が和らぐ夏になりそうだ。日本工作機械工業会(日工会)が発表した1―6月期の工作機械受注額(確報値)は前年同期比15・7%減の7684億3700万円で、2021年1―6月期以来の8000億円割れとなった。市況が落ち着いているこの間に、中部の工作機械業界は、カーボンニュートラル(CN、温室効果ガス排出量実質ゼロ)や電気自動車(EV)の拡大といった産業界の新たな潮流に乗るべく布石を打っている。
産業界の新潮流へ布石―カーボンニュートラル、電動化
23年1―6月期の受注実績の内需は同19・9%減の2520億8300万円。外需は同13・5%減の5163億5400万円だった。ただ、比較対象の22年1―6月期は世界で受注が旺盛だったこともあり、日工会は「底堅さを感じられる」(調査企画部)との見方を示している。
また、日工会が実施した工作機械の受注見通しに関する調査によると、23年7―9月期の工作機械受注予測DIはマイナス4・1と、前回調査(23年4―6月期の同DI)から1・3ポイント改善した。23年7―9月期は受注が引き続き緩やかな減少傾向が続く見通しだが、「増加の割合が前四半期に続き上昇しており、大きな減少にはならないと期待している」(同)という。
欧米での利上げや、中国の景気の不透明感などから、市場は調整局面に入っているものの、市況の波が頭打ちとなったわけではなさそうだ。そのような状況の下、中部の大手工作機械メーカーは、市況の反転に備え、新たな施策や製品を打ち出している。
新規事業で成長を加速/オークマ、新CNC搭載機種拡充
オークマは25年度に売上高2500億円(22年度実績は2276億円)、営業利益率は13―15%(同10・9%)などを目標とする新たな3カ年中期経営計画を策定した。同社は30年度に売上高を3000億円にする長期ビジョンを掲げており、新中計は「土台作りの位置づけ」(家城淳社長)だ。高精度と省エネルギーを追求した工作機械の高付加価値化や自動化関連の製品・サービスの展開、中堅・中小事業者を支援する「ものづくりコンサルティング」などの新規事業で成長を加速する。
オークマは「寸法精度の安定性」と「エネルギー消費量の削減」の両立を自律的に行い、加工時の二酸化炭素(CO2)排出量を削減する工作機械を「グリーンスマートマシン」と定義し、市場に投入している。23年度から、そのラインアップを整備しつつ中核となる新コンピューター数値制御(CNC)装置「OSP―P500」の搭載機種を拡充。25年度に新CNCへの全面切り替えを完了させる計画だ。
また、工作機械にロボットとストッカーなどの周辺機器を加え、加工対象物(ワーク)の脱着、計測などの作業を自動化する加工セルを制御可能な「スマートツインセル」の展開を強化。これを軸に中堅・中小企業が求める工程集約や自動化のニーズに応える。さらに、製品納入後の加工改善提案や、生産工程の改善支援なども行う「ものづくりコンサルティング」へと展開していく。これらの施策によって、単価の引き上げや収益力の向上につなげる青写真を描いている。
販売面では「グローバルに顧客基盤を広げることで、需要変動への耐性を強化していく」(家城社長)考え。30年度の目標に「グローバル70」を掲げ、海外受注高比率を70%(同67%)に高める。その前段階として25年度の国内受注を850億円以上(同819億円)に増やした上で、米州での受注を国内レベルに伸ばす計画だ。
現地ニーズ対応製品を提供/ヤマザキマザック、インド工場本格稼働
工作機械の需要拡大が予想されるインド市場の取り込みに注力するのはヤマザキマザックだ。インドのマハーラーシュトラ州プネー県に工作機械の新工場を建設し、6月28日にオープニング式典を開いた。同工場の本格稼働にあたり、顧客や代理店関係者ら約300人を招き、式典と工場見学ツアーを実施した。
同社が海外に工場を建てるのは13年に中国・遼寧省に設置して以来のこと。現地ニーズを反映した製品を迅速に提供する体制を整えるために、約10年ぶりに海外工場の新設に踏み切った。
生産するのはインド市場専用の立型MC「VC―Ezシリーズ」。この製品は日本で開発したが、インド市場に適合する仕様を織り込んだ。中小規模の顧客にも受け入れられやすいよう価格を抑えつつ、停電が起きやすい現地の電力事情を鑑み、加工中に電力供給が止まっても、機械や加工対象物を傷つけないように保護する機能などを標準装備する。また、装置の一部に冷却装置も設け、暑い気候でも安定して稼働できるようにした。
工場稼働前の1月19日に、インド南西部のカルナータカ州の州都で同国有数の工業都市であるベンガルール市で開幕した工作機械展示会「IMTEX」。ここに出展したヤマザキマザックは、会場内で同州に隣接するマハーラーシュトラ州に工場を新設することを発表。併せて、「VC―Ezシリーズ」も初披露し、来場者の注目を集めた。
「反響は大きく、お客さまの投資意欲の高さを実感している。今回の出展は総じて成功だった」とヤマザキマザック関係者は語る。日工会の調べによると、インドで22年12月に、日本製の工作機械受注額が過去最高額を記録するなど「勢いが目立つ」(稲葉日工会会長)。同社は新工場で、この勢いを自らの成長に取り込むもくろみだ。
グループ一体化を推進/ジェイテクト、JIMTOFで披露
一方で、激変する市場に対し、ジェイテクトはブランド統一化と事業部間やグループ会社間での連携を強化する取り組み「ワンジェイテクト」を推し進めている。
22年11月に東京ビッグサイト(東京都江東区)で開かれた日本国際工作機械見本市(JIMTOF)でワンジェイテクトを前面に押し出した。「単独ではできなかったことをワンジェイテクトで実現していく。JIMTOFは、そのスタートだった」と工作機械・システム事業本部長の荒井義博経営役員は振り返る。同社は見本市の西館、東館の双方にブースを設け、同事業本部だけでなく、グループ会社の技術や製品も集結させた。
西館ではジェイテクトフルードパワーシステム(愛知県岡崎市)の省エネルギー型油圧ユニットや、研削加工時の必要電力を抑えるジェイテクトグラインディングツール(同)の立方晶窒化ホウ素(CBN)ホイールといったカーボンニュートラル(CN、温室効果ガス排出量実質ゼロ)関連の製品をPR。
工作機械の実機展示が中心の東館には「JTEKT」のロゴが輝く機械を並べた。旧来の「TOYODA」や「Koyo」は見当たらない。隣にあるジェイテクトマシンシステム(JMS、大阪府八尾市)のブースとの間に仕切りはなく、両ブースを一体化させた。
22年10月に「光洋機械工業」から社名変更したJMS。以前の製品はKoyoブランドだったが、出展した新型の広幅円筒研削盤「C6040E」のロゴはJTEKT。デザインも白と黒の筐体に赤いラインを入れるジェイテクト本体の製品に合わせ、外見上は本体製品と見分けがつかない。
姿形だけでなく、技術もワンジェイテクトの結実だ。JMSの得意とするセンターレス研削盤の両持ち式構造の砥石軸に、ジェイテクト本体の円筒研削盤の主軸台や心押台、振れ止めなどの技術を融合。これで全外径同時研削を実現し、電気自動車(EV)向けモーターシャフトの量産に適応した。
「すぐに使いたい」という声が上がるほど来場者の反応が良かったのは、研削物の検査工程を自動化するシステムを、研削盤の中に搭載する新技術の提案だ。これは自動車部品事業の助言を基に開発した。
JIMTOFで一体化の成果を大々的に披露したジェイテクト。荒井執行役員は「ワンジェイテクトをもっと深め、お客さまのご期待にスピーディーに応えていく」と強調する
工作機械市場は踊り場にさしかかったものの、熱気が舞い戻る時を見据え、中部の大手工作機械メーカーは攻めへの備えを着々と進めている。