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中部の金型産業
金型は「産業のマザーツール」とも呼ばれ、工業製品の量産に欠かせない。自動車、工作機械、精密機械など、製造業の土台を支えている。中でも金型の主要な需要先である自動車産業が集積する中部地区は、金型産業も盛んな地域。しかし、電気自動車(EV)化による部品点数の減少により苦境に立たされている金型メーカーも多い。業界全体で新たな取り組みを進めることが、重要となっている。
製造業の基盤技術 人材確保が急務
金型は製品の大量生産に欠かせないモノづくりの基盤技術(サポーティングインダストリー)。自動車産業を中心としたモノづくりの一大集積地である中部地区では、金型産業でも存在感を発揮してきた。
日本金型工業会がまとめた資料によると、日本の金型生産高は約1兆778億円と中国、米国に次いで世界3位。しかし構成比は7・8%と減少傾向にある。また金型の輸出額が前年比7・2%減の1942億円に減少する一方、中国や韓国からの輸入額は増えているのが現状だ。2024年は13・4%増の1416億円となった。日本の金型メーカーは高精度かつ高い品質で国際市場でも評価されてきたものの、近年では海外メーカーの量産性に押されている傾向がある。同工業会によると、海外の金型メーカーがM&A(合併・買収)により規模を巨大化している一方、国内のメーカーはほとんどが中小企業と企業規模に大きな差があることが一因だという。
こうした状況の中、人材不足や経営者の高齢化などで事業者数の減少も進んでいる。経済産業省が公表している経済構造実態調査と経済センサス活動調査によると、直近35年間で最も金型製造業数が多かったのは1990年。当時1万3000事業所あった国内の金型メーカーは、現在では約3割の4357事業所に減少した。小規模メーカーにとって厳しい状況が続いている。
同様の傾向は中部地区でも見られる。北陸を含む中部地区で金型製造を営む事業所数は約1400事業所で、うち6割弱が従業員10人以下の小規模メーカーだ。統計に含まれない3人以下のメーカーも多く、事業継続のため業界全体として人材の確保が急務となっている。
【インタビュー】 日本金型工業会 中部支部長 松岡 寛高 氏
地域・業界で協力体制 ワンチームで国際市場生き抜く
2024年7月に日本金型工業会中部支部長に就任した松岡寛高氏(七宝金型工業〈愛知県津島市〉社長)は、金型業界のつながりを強化する取り組みを進めてきた。就任から1年、大きく揺れ動く中部地区の金型産業の現状とこれからを聞いた。
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日本金型工業会 中部支部長 松岡 寛高 氏
—中部地区の金型産業の現状と課題は。
「トランプ関税の影響で、自動車向けを中心に非常に厳しい状況にある。中部支部の会員は約8割が自動車関連。工業会としても迅速なサポートが必要になる。また人材難も顕著だ。金型工業会では全国の支部長を中心に、金型業界を稼ぐ産業にするための『戦略会議』を開いている。私は金型業界全体で連携し、企業同士がパートナーシップを組むことを目標にしたワーキンググループにも所属している。こうした取り組みは中部地区でも重要になる」
—中部支部長として重視したことは。
「『自他共栄』を掲げ会員のみでなく、地域の金型企業のつながり強化に取り組んでいる。セミナーや会社見学会に会員以外も参加できるようにして交流を深めることで、新規会員の獲得にもつなげたい。金型企業の多くは10人程度と小規模で、単独では人材確保や海外展開などが難しい。地域や業界で協力すれば拠点や人員をより効率的に活用できる。企業間連携は七宝金型工業の社長としても取り組んでおり、自社や協力会社の海外拠点を通じて現地に拠点を持たない企業の進出を支援してきた。今後は支部長として中部地区に拡大する」
—日本の金型生産量は減少しています。
「国内市場は縮小傾向で、仕事量の確保には海外展開が不可欠だ。しかし繁忙期の仕事量に対応できず、海外メーカーに流出した仕事も多い。ライバル企業同士が協力できれば取りこぼしも減り、国内に仕事を取り戻せるだろう。得意分野が近い企業同士の連携は公平性をとるのが難しく、まだ実現できていない。国ごとに担当を分けるなど、連携しやすい方法を探していく」
—国際市場で生き抜くには。
「日本の中小企業は経営者と現場が近く、技術やアイデアを経営に生かしやすい。柔軟に動ける中小企業同士がタッグを組み、業界全体でワンチームになれれば、海外メーカーにない大きな強みとなる。今後、ギガキャストが広がれば到底1社では対応できない物量になる。その前に連携体制を整えることが必要だ」
