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革新性・挑戦意欲に富む経営手腕発揮
知事賞に小出社長 圧延ロールなど製造・修理
千葉県優秀企業経営者表彰は1996年に「千葉県ベンチャー企業経営者表彰」として創設された。主催は千葉産業人クラブ(白鳥豊会長=白鳥製薬会長)。千葉銀行と、ひまわりベンチャー育成基金の協力を得て、千葉県と日刊工業新聞社の後援で運営している。
アントレプレナーシップ(起業家精神)を発揮して事業を発展させている、もしくは生み出している経営者を表彰することで、千葉県経済の活性化を後押しするとともに、経営に関する新しい考え方や、意思決定のヒントとなる情報を広く発信するのが目的だ。
現在は最も優れた経営者に「知事賞(最優秀経営者賞)」(副賞50万円)を贈り、「優秀経営者賞」(同10万円)を3人に贈呈。同時に創業10年未満の経営者を対象とした「ひまわりベンチャー育成基金賞」(同10万円)も選んでいる。
28回目となった今回は応募から書類選考(1次審査)を経て12人を選定。各社を訪問してインタビュー調査した上で、2月に最終審査会を開催した。
審査員は、ちばぎん総合研究所の前田栄治社長と、千葉県商工労働部の飯田卓也課長、千葉大学の武居昌宏副学長、千葉県産業振興センターの中村耕太郎理事長、千葉県産業支援技術研究所の山田満所長、千葉銀行法人営業部の齊藤成部長、ひまわりベンチャー育成基金の今泉光幸副理事長、千葉産業人クラブの白鳥会長が担当した。産学官金のそれぞれの視点から意見が出され、厳正な審査が行われた。
知事賞に輝いた小出ロール鐵工所の小出社長は6代目。同社の創業は1914年(大3)で、鉄鋼や製紙業界を中心とし、製造ラインに必要な圧延ロールやシャフトなどの製造や修理を手がける。電機や非鉄、化学、食品業界などさまざまな業界で使用されている。ロールの中でも重量が最大で뗢の大型品を得意とする。グループ会社に小出運輸と小出ロールエンジニアリングがあり、製造と物流、出張工事の3部門が一体となるワンストップサービスを可能にしている。
一方、優秀経営者賞となったのは、東総食肉センター(千葉県旭市)の小川晃一郎社長と、千葉石油(同茂原市)の安藤順夫社長、フクダ産業(同流山市)の福田力也社長だ。
東総食肉センターは豚肉の日本三大産地である千葉県で、と畜場を併設する同県最大級の食肉処理センター。日本人の食生活が変化し、豚肉の消費が伸び続ける中、特に豚部門の最大処理頭数は全国トップクラスだ。と畜場を併設している加工・パッケージラインがあり、一体的なライン処理が可能で、コストと衛生・鮮度面で優位性がある。
千葉石油は出光興産系の石油卸・小売業者で、本社のある茂原市や千葉市、四街道市などでガソリンスタンドを展開。自動車整備工場も運営する。創業は1907年(明40)で、115年以上の歴史があり、その中で地域と信頼関係が培われている。安藤社長は4代目に当たる。またガソリンの価格競争が激しいことから、ガソリンスタンドとガソリン販売を起点に事業の多角化を進める。
フクダ産業は医療機器メーカーで、肺機能検査装置の開発・製造を手がける。また約20年前から社会問題となっている睡眠時無呼吸症候群の治療機器も輸入・販売する。需要が大きく増加する前から取り扱っており、現在の業績に寄与している。医療機器の大手企業と販売面で連携しており、全国の医療機関に呼吸と睡眠に関する医療機器を提供できる。
ひまわりベンチャー育成基金賞を受賞したのは、リンクメッド(千葉市稲毛区)の吉井幸恵社長だ。同社は吉井社長が10年以上にわたって研究してきた放射線を利用したがん治療薬の研究開発の事業化を目指している。特殊な電子(オージェ電子)を発し、がん細胞のDNAを効果的に攻撃できる。また陽電子放射断層撮影(PET)診断で治療薬の集積箇所が分かるため「見える」治療が可能だ。さらに多様ながん細胞に結合できるため、さまざまながんに応用できる。
知事賞(最優秀経営者賞)/小出ロール鐵工所
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唐津プレシジョンと共同開発した「高精度CNC大型ロール研削盤」
代表取締役 小出 明治氏
小出ロール鐵工所はロールやシャフトなどの製造・修理事業を手がける。京葉臨海地域をはじめ、千葉県に製鉄や製紙、電機、非鉄、化学、食品などの関連事業所が集積していることから、これらをメーンターゲットに事業を展開する。現在では事業を全国に拡大している。
小出明治社長は製鉄と製紙に続く第3の柱として産業機械やエネルギー業界の顧客を新規獲得した。また出張工事やリバースエンジニアリング事業を確立するとともに、工場の加工機械の稼働状況をタブレット端末で管理できるITシステムを構築。さらに財務内容の改善も実現した。
コロナ禍の3年間で主要取引先の製鉄や製紙会社の業績が悪化する中でも同社の売上高や営業・経常・当期利益が横ばいに留まったのは、小出社長の新しい取り組みが寄与したためだ。
引き続き持続的な成長を維持するにはオペレーターの技術伝承がカギを握る。また従業員の定着率の向上には人材育成カリキュラムも必要になる。そのため長年にわたるモノづくりを通して身に付けた技術を企業として蓄積し、これを全技術者で共有する。
この仕組みの構築をテキストやデジタル変革(DX)などで技術を「社内の共通言語化」(小出社長)して実現する。これらを「教科書」(同)としてまとめ、高い技術力と課題解決能力を根付かせる。これが小出社長が進める同社の強みである技術力に磨きをかける現在進行形のプロジェクトだ。
今後は顧客の工場に出張し、製造ラインのロールの脱着や検査、加工後の組み立てをサポートするなどサービスの幅を広げる。ロールの摩擦状況を3次元測定器で読み取って検査したり、データを記録したりするサービスなどにも取り組む。
さらに2022年には唐津プレシジョン(東京都港区)と共同開発した大型研削盤「高精度CNC大型ロール研削盤」を導入。これによりエネルギー関連や金属箔の製造などに代表されるマイクロメートル(マイクロは100万分の1)オーダーの精度に対応できるようになった。
〝小出ロールクオリティー〟を実現し、積極的に新規分野の開拓を進め、高精度品の受注拡大を目指す。
優秀経営者賞/東総食肉センター
代表取締役社長 小川 晃一郎氏
東総食肉センターは、豚肉の産地である千葉県で、と畜場併設の県内最大級の食肉処理センターを運営する。食肉の仕入れや加工、商品開発、流通、販売を手がける小川グループの一社として、豚肉のと畜から加工、パッケージ化、出荷までを一貫して手がける。豚の最大処理頭数では全国でもトップクラスだという。と畜場併設の加工・パッケージラインを有し、コストや衛生、鮮度面で高い優位性を持つ。千葉県産のブランド豚肉も扱い、首都圏に供給している。
小川晃一郎社長は、大学卒業後に2年間、食肉大手のセントラルフーズ(東京都品川区)に勤務。2000年に東総食肉センターに入社し、11年に社長に就いた。
同社のほか、小川畜産ホールディングス、小川畜産食品などグループ企業の統括を行っている。経営理念として「絶対的品質主義」を掲げ、グループ各社の強みを生かした取り組みと、持続可能な開発目標(SDGs)を結びつけ、ステークホルダーと一体となり持続可能な社会の実現を目指している。
新事業にも意欲的に取り組み、自社グループの経営基盤強化に務めている。
養豚業者の高齢化や後継者不足で養豚生産量が減少する中、16年にOGAWAfarm(千葉県旭市)を設立し、養豚事業に参入。地場養豚業者の事業を承継することで自社の持続的発展県内の一次産業の維持発展にも貢献している。
また、官民ファンドである農林漁業成長産業化支援機構から出資を受けて20年にFarm plus(同)を設立。自社のブランド向上を目指し、ハムやソーセージなどの製造加工に進出し、製品開発を進めている。新事業には幹部人材を関与させ、次世代に向けた経営人材の育成も行っている。
優秀経営者賞/フクダ産業
代表取締役社長 福田 力也氏
フクダ産業は、約70年にわたり肺機能検査機器を設計開発、製造する医療機器メーカー。自社製品のほか、睡眠関連機器の輸入販売も手がける。国内で需要が増える前から睡眠時無呼吸症候群(SAS)の治療に使う装置(CPAP)を取り扱ってきたことも業績拡大に寄与した。フクダ電子と販売面で連携し、同社を通じて全国の医療機関に機器を販売する体制を構築している。
福田力也社長は、2006年に米ポートランド州立大学修士課程を修了後、環境コンサルティング会社のイー・アール・エム日本にて勤務。09年にフクダ電子に入社し営業職の経験を積み、その後、14年にフクダ産業に入社。16年に家業を引き継ぎ、3代目の社長に就いた。就任当時の売上高は37億円だったが、顧客対応や製品の品質レベル向上により、23年度には約88億円にまで増加した。
会社の成長には社員の成長が不可欠と考え、社員教育に力を入れる。リーダーシップ研修やアンガーマネジメント研修、担当業務をより効率的に進めるための実務研修など、社員のニーズに合わせた研修を提供している。英語能力や品質管理、医療機器の専門的知識の資格に対して手当を支給し、資格取得を奨励している。
安心して働ける環境を整備するためにハラスメント研修にも注力しており、厚生労働省主催のハラスメント対策シンポジウムにパネリストとして参加した実績もある。
強みである呼吸や睡眠の領域での知識・ノウハウを生かし、最新の医療技術を搭載した医療機器を提供し、事業を拡大する。海外展開にも注力しており、22年に続き、24年もシンガポールで開催される国際展示会に出展する。
今後もフクダ産業の社名を世界に浸透させるべく活動を続ける。
優秀経営者賞/千葉石油
代表取締役社長 安藤 順夫氏
千葉石油は、1907年に創業し、出光興産の特約店として、千葉県内で出光サービスステーション(SS)を15店舗運営する。石油卸販売を軸に、新車中古車販売、自動車整備、レンタカーなどの自動車関連事業、福祉車両・用具レンタル、訪問鍼灸マッサージ店の運営といった健康・福祉関連にも進出し、経営の多角化を進めている。また、茂原市の地域貢献型大規模太陽光発電所(メガソーラー)に出資し、脱炭素化の取り組みも強化している。
安藤順夫社長は、大学卒業後に出光興産で2年間勤務し、91年に千葉石油に入社。09年に4代目社長に就任した。16年から千葉県石油協同組合の代表理事を務めるほか、茂原商工会議所副会頭、全国石油商業組合連合会理事など、地域経済、業界団体の要職を歴任している。安全思想の普及徹底や安全水準向上への貢献が評価され、21年度消防防災功労者として文化の日千葉県功労者表彰、22年度に安全功労者総務大臣表彰を受賞した。
11年の東日本大震災時は自社所有のタンクローリーをフル稼働させ、他社に先駆けて燃料を供給。「災害時こそ安定供給」という使命を果たすため、SS15カ所に自家発電機を導入した。19年の房総半島台風でも病院や公共施設の自家発電機、応援派遣された移動電源車や移動基地局車への燃料供給など、被災地の復旧に尽力した。社員教育では、資格取得を奨励し、社員の成長を支援するほか、顧客にさまざまな提案ができる関係性を構築している。また、SS部門や燃料油配送部門での中高年スタッフの活用などシニア人材の活躍を後押ししている。
今後は多様化する顧客ニーズに対応したサービスの提供で収益を拡大するほか、既存の経営資源を用いて脱炭素化に向けた新規需要を開拓し、成長につなげる方針だ。
ひまわりベンチャー育成基金賞/リンクメッド
代表取締役社長 吉井 幸恵氏
リンクメッドは、銅の放射性同位元素「銅64」を用いたがん治療薬を開発している。陽電子放射断層撮影(PET)診断で薬剤の集積効果を可視化し、がんの診断と治療を同時に行うことができる。また、ベータ線に加えて、細胞の殺傷能力が高い「オージェ電子」を放射し、がん細胞を効果的に攻撃できる。悪性脳腫瘍などの治療薬として実用化する計画で、国産放射性治療薬として初の国内での臨床試験を進めている。
吉井幸恵社長は、量子科学技術研究開発機構(QST)などで10年以上にわたり放射性治療薬の研究を続けてきた。この研究成果を基にQST認定ベンチャーとして2022年にリンクメッドを設立。知的財産権についてQSTより独占的な実施許諾を受けている。
国内で使用される放射性医薬品の多くは、海外の原子炉で製造された原料を用いている。同社は千葉市内で同医薬品を生産する計画で、供給面でも優位性が高い。治療薬の半減期が13時間であることを考慮し、大消費地である東京都内への交通アクセスが良い千葉市内への立地を決めた。
DBJキャピタル(東京都千代田区)、岩渕薬品(千葉県四街道市)、ペプチドリーム、大正製薬(東京都豊島区)などから総額9億3000万円の出資を受けた。新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の「ディープテック・スタートアップ支援基金/ディープテック・スタートアップ支援事業」に採択され、最大10億円の助成を受けることも決まっている。
26年に新規株式公開(IPO)、27年に薬事承認を受け、同年に実用化を目指す。悪性脳腫瘍のほか、肺がんや頭頸部がんなど他のがんの治療薬としての効能追加も目指す。45年には国内外で売上高3000億円まで事業を拡大したい考えだ。