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炭素繊維強化プラスチック
CFRP業界の現状と最新トレンド
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近畿大学 理工学部 機械工学科 教授 西籔 和明
【執筆】近畿大学 理工学部 機械工学科 教授 西籔 和明
大阪生まれの炭素繊維で強化したプラスチック(CFRP)は輸送機器の軽量化材料の切り札として注目されている。しかし、なぜCFRPは多く使われないのか―その答えはたった一つ。使いにくいからである。使いやすいCFRPへ、低コスト化に加え、生産性、設計のし易さ、再利用性の向上へ、金属のような使いやすい材料と製造法へ、「CFRPものづくり」は今まさに変革期を迎えようとしている。その一つに熱可塑性CFRPがある。
毎春、世界最大規模の複合材料の展示会「JEC World(ジェック・ワールド)」がパリで開催されているが、本展示会前に発表されたJECコンポジット・イノベーション・アワード2026を受賞された11件のうち、熱可塑性CFRPや天然繊維、リサイクル炭素繊維など環境適合に関する課題が大半であり、欧州における環境適合化の重要度が明らかである。ここでは、環境適合化に対して特徴的な数件の受賞例を挙げる。
航空宇宙分野では熱可塑性CFRPの厚肉部品の成形と接合技術、および熱可塑性CFRP航空機部材のリサイクル技術、自動車用途では天然繊維複合材料による生産時および製品寿命時の二酸化炭素(CO2)排出量削減、およびガラス繊維強化熱可塑性樹脂によるバッテリーハウジングの圧縮成形技術が受賞。
船舶分野ではCFRPプロペラによる燃料節約、極低温で強靭(きょうじん)な熱可塑性CFRPによる液体水素用軽量タンクの開発、鉄道分野ではガラス繊維強化熱可塑性樹脂による電化設備用カンチレバーの開発、スポーツ分野では熱可塑性CFRP製の自転車フレームの開発など、これらの受賞課題に共通して言える最近のCFRPのトレンドは、ずばり熱可塑性樹脂による環境適合化に尽きる。
本稿では、筆者が最近の国際会議や展示会などで得た情報をもとに、熱可塑性CFRPに絞り、最近の取り巻く環境や製造法を紹介するとともに、筆者が産学連携で近年開発してきた熱可塑性CFRP部材の量産化に適した革新的な製造技術の一例を紹介する。
環境適合化と量産化のための材料・製造技術
CFRPは母材樹脂の違いにより、熱硬化性CFRPと熱可塑性CFRPの二つに大別される。熱硬化性CFRPは従来、圧力容器を用いてプリプレグ材料を加熱・加圧するオートクレーブ成形や、液状樹脂を注入するハイサイクルレジン・トランスファー・モールディング(RTM)成形や真空樹脂含浸法(VaRTM)成形など特定の方法で製造されてきたが、近年はハイサイクルRTM成形やカーボンシート・モールディング・コンパウンド(SMC)のような中間材料を用いたプレス成形が低コスト量産に向く製造法として採用されている。
一方、熱可塑性CFRPは生産性、耐衝撃性、二次加工性、修復性およびリサイクル性に優れていることに加え、多様な製造法が適用できるため金属プレスやプラスチック成形などさまざまな業界からの参入が多い。熱可塑性CFRPに用いられる炭素繊維は基本的には熱硬化性CFRPと同材質であるが、母材樹脂に適合した表面処理が施されている。
これまでCFRPの母材樹脂はエポキシ樹脂が大半であるが、熱可塑性CFRPに用いられる母材樹脂はその種類が極めて多く、母材樹脂の特性が熱可塑性CFRPの性能に及ぼす影響は大きい。その反面、溶融粘度が高いため炭素繊維への樹脂含浸が困難で、高温・高圧での成形を必要とするため、高剛性・高耐酸性の金型や高温で安定した加熱源と搬送装置が必要である。
熱可塑性CFRPの量産化のためには、ハイブリッド射出成形やインサート射出成形、加熱プレス成形、加熱圧縮成形、さらに大型構造材に対しては自動テープ積層成形(ATL)や自動ファイバープレイスメント(AFP)、長尺材には連続テープ加熱ロール積層成形または連続圧縮成形、テープ引き抜き成形、押し出し成形などが開発されている。
さらに、破砕や混錬、溶接、さらに3Dプリンターと称されるアディティブ・マニュファクチャリング(AM、付加製造)にも熱可塑性CFRPを用いた製造法が開発されている。
熱可塑性CFRPの連続成形法と利用技術
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図1 熱可塑性CFRPの連続成形法の特徴と課題 -
図2 実験室規模の熱可塑性CFRP引き抜き成形金型 -
図3 革新的な熱可塑性CFRP部材の製造プロセス
図1に示すように、熱可塑性CFRPを金属のような規格化した長尺材料で提供すれば、熱可塑性CFRPを切断、加熱曲げ、および接合して使用するため大幅なコストダウンが期待できる。高性能な長尺成形品を連続して製造するためには、従来のようなTダイによる繊維押し出し成形ではなく、熱可塑性CFRPプリプレグシートを用いた自動ロール積層成形、引き抜き成形や連続圧縮成形法は含浸性の問題はなく、高い力学的特性の長尺成形品を連続して製造することが可能である。筆者らは、実験室規模の熱可塑性CFRPプリプレグやセミプレグシートを用いた加熱引き抜き成形装置を開発した。図2に示すような圧縮入れ子を用いることにより、熱可塑性CFRP長尺成形品の高密度化を高い生産性で実現できる。
熱可塑性CFRPを大型で複雑な成形品を得るためには成形品同士を接合する必要があるが、熱可塑性CFRPは化学的結合力が乏しく接着力が極めて低いため、さまざまな融着接合が開発されている。その代表的な接合法として、炭素繊維を発熱体に用いた通電加熱、誘導コイルで熱可塑性CFRPの炭素繊維を通電して加熱する高周波加熱、および超音波振動加熱による融着接合が欧州を中心に積極的に開発され、筆者らも基礎的な研究を行っている。
一方、機械的締結は一般的には金属製のボルトやリベットが用いられるが、その材質を熱可塑性CFRPに変えることにより軽量化と耐食性および廃棄処理性が向上し、金属との異種材接合に適しており、筆者らが実用的な開発を行っている。
さらに、筆者らは熱可塑性CFRPのさらなる普及に向けて、図3に示すような革新的な熱可塑性CFRP部材の製造プロセスを提案している。同プロセスは、従来多用されているCFRPシート材を用いたレイアップ製造による積層構造から、引き抜き成形や連続圧縮成形で製造された熱可塑性CFRP製の長尺材をグリッド構造に変えた強化形態を採用したことに大きな特徴がある。このような熱可塑性CFRP長尺材を小型サーボプレスによる加熱成形やインサート射出成形および加熱プレス成形などを行った構造材を融着接合および熱可塑性CFRP製リベット締結を組み合わせたハイブリッド接合により組み立てが実現される。同プロセスの利点は、生産性が高く、コストが低く、再利用性に優れていることである。
筆者らはすでに同製造法を用いて熱可塑性CFRPバッテリーカバーを試作し、さらなる利用技術の開発に取り組んでいる。
日本材料学会複合材料部門委 60周年記念講演会開催
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講演にはイグナス・ベルポスト名誉教授が登壇 -
複合材料部門委員会の設立60周年記念講演会・懇親会の参加者ら
日本材料学会複合材料部門委員会は2026年3月2日に、シェラトン都ホテル大阪(大阪市天王寺区)で設立60周年記念講演会と懇親会を開いた。オンラインでの参加を含め、関係者82人が集い、節目を祝った。
複合材料部門委員長の仲井朝美氏は冒頭のあいさつで「世代を超えた議論と交流の積み重ねが、委員会を支えてきた大きな力」とこれまでを振り返り、関係者に感謝を伝えた。
講演会ではベルギーのルーヴェン・カトリック大学のイグナス・ベルポスト名誉教授が登壇。「複合材料の歴史と日本における重要な発展」と題して、複合材料の概念としての起源や、製造方法の確立、発明など、産業化への変遷を紹介した。
日本材料学会の鎌田敏郎会長は講演後のあいさつで、同学会が支部再編と各部門委員会の活動活性化に注力する方針について言及。「今後の学会改革において、(複合材料部門委員会が)中心的な役割を担ってもらえると大いに期待している」と話した。懇親会では、部門委員会の発展に尽力した功労者や関連学会、業界団体の関係者が紹介された。
同学会複合材料部門委員会は1965年に「強化プラスチック部門委員会」として設立し、97年に現在の名称に変更。高分子材料の複合化、機能化、知能化など幅広い課題に取り組んできた。先端技術進展のためにも、部門委員会が担う役割は大きい。
複合材料の全体像描く
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講演者らが編集・執筆した書籍
講演に登壇したイグナス・ベルポスト名誉教授らが執筆・編集した書籍『The History of Composites:People,Science,Technology and Society』が2026年2月に発刊された。同書は材料や製造プロセスの歴史をたどりつつ、技術革新の節目となる出来事や人物を紹介している。
さらに、航空機や風力発電、自動車といった複合材料の多様な応用例に加え、学術的な理論についても取り上げ、基礎的な発見が新製品の発明や既存製品の改良にどのように結びついているかを解説。産業界や学術界をはじめ、国際的な動向を含む幅広い視点から複合材料をとらえ、全体像を描いている。複合材料について包括的に理解したい技術者、研究者の助けとなる一冊。
