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炭素繊維強化プラスチックCFRP(2024年3月)
炭素繊維強化プラスチック(CFRP)は炭素繊維を樹脂に染み込ませて固めてできる複合材料で、軽く高強度で、耐食性に優れている。主な用途では、航空機や自動車などに使われる。近年では、高張力鋼板(ハイテン)やアルミニウムとCFRPをつなげて使用するマルチマテリアル構造での採用が進む。一方で、量産化の面で課題があり、今後の生産効率化に向けた技術開発が期待されている。 そこで、近畿大学理工学部機械工学科の西籔和明教授に「環境・コスト対応の壁を乗り越える、型・製造装置の基盤技術をCFRPへ」というテーマで語ってもらった。
環境・コスト対応の壁を乗り越える 型・製造装置の基盤技術をCFRPへ
使いやすいCFRPへ
低炭素化、脱プラスチックが叫ばれる時代。炭素繊維で強化したプラスチック(CFRP)は時代の悪者のような印象を与えていないだろうか―意外とそうではない。低炭素化はCO2排出量を減らすこと。炭素と炭素繊維は違う。炭素繊維は高強度で高性能な先端材料だが、炭素繊維だけでは使い物にならない。炭素繊維同士をつなぐプラスチックが重要である。CO2削減は、炭素繊維とプラスチックで実現できる。
CFRPは軽くて強くて錆びない、軽量化による省エネルギー効果が高く、自動車などの輸送機器の燃費低減には有望な先端材料である。だが、なぜCFRPは多く使われないのか、その答えはたった一つ。使いにくいからである。では、CFRPの用途拡大や量産化はどう実現していくか、先端材料は昔も今も将来も先端材料のままか。
一方、鉄鋼は製造時のCO2排出量は多いが、再生時のCO2排出量は少なく、加工しやすい基幹材料でコストも低い。CFRPは高性能でも鉄鋼材料の使いやすさには到底かなわない。
これまで、CFRPは繊維からつくる、繊維の方向により特性が大きく変わる、樹脂を流して固めてつくる、難しい数学や化学式の理解が必要、高価な割に壊れやすい、捨てにくく再利用しにくいなどさまざまな問題があり、これらを解決しないと鉄鋼のようには使えない。
これから、国連の持続可能な開発目標(SDGs)の実現のため環境に配慮した輸送機器やインフラの切り札としてCFRPに期待が持てるならば、これまでの考え方を大きく改める必要がある。
生産性・再利用性で選ぶ
自動車の軽量化=CFRPではない。高い費用対効果を満足させるには、「鉄を使い切る」「高張力鋼板(ハイテン)による軽量化」「アルミ・メガキャストで大物一体化」が選ばれる。しかし、低コストとライフサイクルアセスメント(LCA)に優れる鋼だけで軽量化や高付加価値化を満足させるには限界がある。鋼やアルミニウムとプラスチックやCFRPとの複合化は避けられず、接着・融着接合や機械的締結など異なる材料との結びつきが重要視される。
CFRPは母材樹脂の違いにより、熱硬化性CFRPと熱可塑性CFRPの二つに大別される。熱硬化性CFRPは従来、プリプレグ材料をオートクレーブ成形されてきたが、近年は液状樹脂を注入するハイサイクルレジン・トランスファー・モールディング(RTM)成形やカーボンシート・モールディング・コンパウンド(SMC)のような中間材料を用いたプレス成形が低コスト量産に向く製造法として採用されている。
近年、独BMWの新型電気自動車(EV)「iX」の側面にはRTM成形による構造材、天井材には熱可塑性CFRP引き抜き材をインサート射出成形した構造材が採用され、高張力鋼やアルミニウムなどとのマルチマテリアル構造である。今後は、カーボンSMC材やCFRP引き抜き材の熱可塑性樹脂化が進み、環境適合に配慮した軽量化材料として有望である。
熱可塑性樹脂の加工と連続材の活用
CFRPを金属のように加工できれば多くの製造業で使える。それが熱可塑性CFRPである。熱可塑性CFRPは加熱すると軟化し、加圧すれば曲げ加工も溶接もできる。
今後、期待される熱可塑性CFRPの製造法は圧縮や引き抜きによる連続成形である。これにより製造された長尺成形品や線材は、金属のように切って、曲げて、または射出成形して、溶接や締結して使う。従来の薄い材料を何層も積み重ねて複雑な形状に成形するよりも、生産性もコストも格段に向上する。この製品設計を実現するには製造法も当然変わる。
熱可塑性CFRP部材を接合するには熱硬化性CFRPのような接着は不向きである。そのため、ボルトやリベットなどの機械的締結に加え、超音波・高周波誘導・通電抵抗加熱による融着接合の併用が適している。CFRPの普及を妨げる要因の一つは、高い材料および製造コストである。そのため、織る・編む・組む・縫うなどの伝統的な繊維加工から、切る・つかむ・運ぶ・貼るなどロボットを用いた自動化による製造に変わる。
しかし、ロボットによる自動テープ積層成形(ATL)や自動ファイバープレイスメント(AFP)のような製造・検査装置やソフトウエアの開発は欧州が先行しているが、コストや量産性に課題が残る。欧州で提案されている「繊維からネットシェイプ成形品を得る連続製造システム」は国内導入が難しい。これは、原料の炭素繊維の糸を引きそろえ、開繊して樹脂含浸を行って一方向シートを作り、それをロボットにより切断および仮留めして積層し、これを金型に挿入して加熱プレス成形と射出成形を同時に行う一貫した自動製造である。これは理想的ではあるが、日本独自の型・製造装置によるCFRPモノづくり製法が優位になるであろう。
CFRP設計・製造の最新トレンド
世界最大規模の複合材料の展示会「JEC World(ジェック・ワールド)2024」が毎春パリで開催されているが、同展示会に先立ち2月8日に発表されたJEC Composites Innovation Awards2024を受賞したプロジェクトのうち特徴的な4件を挙げる。航空宇宙分野では、ドイツ航空宇宙研究所など社が共同で試作開発したEmpowerAX部材は、熱硬化性CFRP曲面材の裏側にトポロジー最適化された補強材が短繊維や連続繊維で強化された熱可塑性樹脂で3D(3次元)プリントされたユニークな構造材である。
また、オランダのATG Europeもアイルランドの企業の協力を得て衛星コア構造設計の置き換えを目的に中断のないグリッド構造体のための事前含浸繊維製造プロセスを開発し、ハニカム円筒形状の軽量構造物を製造している。
一方、自動車関連分野ではトヨタ自動車など4社が可変軸を備えたアルミニウムとCFRPのセミモノコック構造を実物大で設計・製造された。これは複雑な異方性トポロジーの最適化による大規模な3D構造体の軽量化の可能性を示された。
さらに、ドイツのロシュリング・オートモーティブSEなど3社は反応性熱可塑性樹脂のPA6(ポリアミド6)の引き抜き成形材を射出成形または圧縮成形して、低コストで高耐久性の自動車部品製造を実証し、解体せずに簡単にリサイクルできる点で優れている。これらの受賞したプロジェクトに共通して言える最近のCFRPのトレンドは、ずばり最適設計、製造法の複合化、一方向材の活用の3点である。
空飛ぶクルマから軽量構造体へ
自動運転車やから空飛ぶクルマへ、一昔前なら夢のような次世代モビリティーが着実に国内外で開発が進められ、単なる夢では終わらなそうな機運である。自動運転車は衝突する懸念がないため構造材の耐衝撃性への負担が減り、より軽量化材料が採用されやすい。
飛行ロボット(ドローン)の大型化から電動航空機まで空飛ぶクルマにはさまざまな提案がなされているが、いずれも共通した課題がある。飛行距離の延伸には電池の高容量化、低騒音化は電動機の低容量化のための機体の軽量化、さらに安全性など電動機や電池および構造材など機電一体化に対して、熱可塑性CFRPは優位である。
今後は、空飛ぶクルマから軽量構造体へハードルがさらに上がる。これらの夢が現実になろうとする時代において、CFRPモノづくり人材がますます活躍することになるだろう。
【用語】
CFRTP(熱可塑性炭素繊維複合材料)
※本文では熱可塑性CFRPと表記
【執筆】
近畿大学 理工学部 教授 西籔 和明氏