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触媒産業
CO2再資源化にも貢献
【執筆】 触媒工業協会 事務局長 伊藤 宏行
まず初めに2024年を振り返ると、わが国の鉱工業生産指数は前年から2・6%低下して101・2(20年=100)となり、3年連続のマイナスとなった。コロナ禍前の19年と比べると9・3%も低い数字である。この低下の主因は普通乗用車であった。自動車メーカーの型式指定申請における不正により、一部の車種が生産停止になり、国内の自動車生産台数は前年に比べて8・5%減少した。また、日本化学工業協会が公表している主要化学製品の出荷指数(数量ベース)は、対前年で1・4%低下の90・4%であり、こちらも3年連続の低下。コロナ禍前の19年と比べると15・2%も低い数字であった。さらには、石油化学工業の基礎原料であるエチレンの年間生産量も前年比6・3%減の498万トンと、1987年以来37年ぶりに500万トンを割り込んだ。
10万トン厳しく
このように、24年の国内産業は特に触媒と関わりの深い自動車や化学を中心とした基幹製造業が低迷し、国内産業全体としても活力を欠いた。このような状況下での国内触媒工業は、グラフに示す通り、出荷量がほぼ前年並みに推移し、5年連続で10万トンを下回る結果となった。出荷金額は前年比25%減と大きく落ち込んだが、金額は貴金属やレアメタルの市況変動に大きく左右される点に留意が必要である。
次に25年上期の状況に目を移す。グラフは季節調整をしていない数値なので通年の予想が読みにくい面はあるものの、石油精製用や石油化学品製造用は幾分回復基調にあることが見てとれる。ただし、高分子重合用や自動車排ガス浄化用は、引き続き低めの水準で推移しており、25年も10万トンの大台に届く見込みは薄い。
一方、中長期的な展望では触媒の役割が一層拡大する。カーボンニュートラルの実現や循環型社会の構築に向け、エネルギー転換やCO2再資源化などの新分野で触媒技術は不可欠とされている。これら新分野での触媒需要の増大には、まだ時間がかかるとみられるが、触媒業界としては、この変化を確実に捉えて新しい高性能触媒の開発・提供を進めていく。加えて、私たちの生活を支える食品加工、医薬、農薬、機能性化学品製造などの既存分野で使われる触媒の確実な供給も、依然として重要な責務である。
【ごあいさつ】 触媒工業協会 会長 遠藤 晋/触媒、タイムリーに供給 工業協会60周年
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触媒工業協会 会長 遠藤 晋
当協会が発足してから今年で60周年を迎えることができました。現在に至る触媒業界の発展は会員各社のみならず、政府、産業界、各種研究機関などからの力強いご支援によるものであり、60周年を迎え改めて感謝申し上げます。
当協会が誕生した当時は高度経済成長期の中、国内で石油化学産業を育成しようという機運が高まっていました。石油化学製品を製造するための触媒についても国産化が求められ、日本でも触媒製造が本格的に始まりました。以来、さまざまなニーズに応える形で、石油精製、各種化学品製造、自動車などの排ガス浄化、さらには医薬品、農薬、食品、電子材料の製造、油脂加工といった幅広い分野に触媒供給の裾野が広がっていきました。
60年を振り返り、触媒業界のこれまでの歩みを端的に言い表すとすれば、「社会の変化に応じ、その時々に求められる触媒をタイムリーに開発し供給してきた」に尽きます。60年にわたり、時代の変遷に合わせてさまざまな分野に触媒を提供することで、人々の豊かで安心・安全な社会の実現に貢献してまいりました。
今後、脱炭素の流れの中で、水素などの新しいエネルギーが実装されるとともに、二酸化炭素(CO2)の再資源化などが本格的に進んでいきますが、これらの分野でも触媒は大きな役割が求められています。新分野に対しても、その時々で求められる触媒をタイムリーに社会に供給することで、触媒業界としての社会的使命を果たしてまいります。引き続きのご指導・ご協力をお願い申し上げます。
