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鋳物産業
溶融した金属を鋳型に流し込み製造する各種鋳物や精密鋳造技術は、日本国内では1860年代に産業化が大きく進み、造船技術が発達したことにより広がりをみせた。鋳物産業は戦後、工作機械や生産機械を主要な需要先として復興を支え、高度経済成長期以降は自動車産業を最大の需要先とし、成長を続けてきた。鋳物製品の量産技術も確立されており、日本の製造業の成長とともに発展を続けてきた。地球温暖化対策が急務となる中、新たな局面を迎えている。
製造業の発展を下支え
主要な鋳物製品の2024年の年間生産額は1兆1929億円で前年比約96%だった。内訳は銑鉄鋳物製品が約7272億円(同93・7%)、アルミニウム鋳物が約2866億円(同95・7%)、精密鋳造製品が約726億円(同111・8%)、銅合金鋳物は約1065億円(同107%)。生産量も全体で減少した。
需要動向が不透明な中、今後は電気自動車(EV)化の拡大も課題となる。鋳物製品では内燃エンジン向け部品が減る一方、電池やモーター類のケースを含めアルミ鋳造部品のニーズが高まる。また、一層の軽量化が求められるEV市場では、アルミダイカストによる大型部品の需要増も見込まれ、これに対応した鋳造技術も必要とされている。
自動車メーカーでは次世代EVで「ギガキャスト」工法の採用が拡大する。トヨタ自動車は車体構造品を一体成形するギガキャストの量産設備を導入する。試作段階から進み、量産設備の実証ラインを導入した。また、量産向け鋳造工場の建設にも着手する。26年以降にも次世代EVで同工法が採用される。自動車の製造法の変化への対応が求められる。
【インタビュー】 日本鋳造工学会 軽合金研究部会 部会長 茂泉 健 氏 (いすゞ自動車 生産部門技監)
国内で製造されるアルミニウム合金鋳物の大半が自動車部品として使用されているという。日本の自動車は世界市場で高性能、高品質、高信頼性が評価されており、こうした評価はエンジンやハウジングなどで使用される鋳物部品も対象となる。自動車1台あたりで使用される、アルミ合金鋳物の割合は重量換算で7—8%程度を占める。重要素材の基礎研究の一翼を担ってきた日本鋳造工学会軽合金研究部会の茂泉健部会長(いすゞ自動車生産部門技監)に取り組みについて聞いた。
リサイクル材の積極採用でカーボンニュートラル推進
―軽合金研究部会での活動の特徴は。
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日本鋳造工学会 軽合金研究部会 部会長 茂泉 健 氏 (いすゞ自動車 生産部門技監)
「当研究部会は、アルミ合金鋳物の研究開発に関わる企業、大学などの技術者や研究者で構成している。発足はモータリゼーションのまっただ中にあった1974年で、日本鋳造工学会の研究部会の中では、銑鉄研究部会に次いで古い。最初の研究報告書を出したのが82年だ。以来、ひとつの研究テーマについて3―4年単位で取り組み、得られた知見を研究報告書にまとめ公表してきた。現在は11報目になった。さまざまな企業や研究者が集まって共同実験を実施してきたのがこの研究部会だ」
―直近の研究テーマに「材料リサイクルに向けたアルミニウム合金鋳物の諸特性に及ぼす微量不純物の影響」を掲げています。
「近年、カーボンニュートラル(CN、温室効果ガス排出量実質ゼロ)への対応が重要になってきた。アルミ合金の製造には、大量の電気が必要だ。電炉の電極にも炭素を使っているため、二酸化炭素(CO2)排出量が極めて大きくなる。一方、アルミスクラップを再溶解して利用できれば、CO2排出量を約25分の1に削減できる。CNを推進する上で、リサイクル材を積極的に使うことが有効だ。しかし、リサイクル材を活用したアルミ合金鋳物で信頼性を担保できるかは不透明だ。さまざまな材料成分が混ざった同鋳物で何が起こるのかを把握しようというものだ」
―このほど、研究報告書を公表しました。
「20年程前にも不純物の影響について研究している。この時に成分の調査方法が確立された。この手法を使い再度実験、研究した内容を報告している。日本産業規格(JIS)では混入する不純物の上限値が規定されている。この上限値を基準に不純物を混入し、鋳造性や強度、機械的性質、耐食性、引け割れなどへの影響を調査した。結果、JISの上限値程度までは問題ないことがわかった」
―自動車や機器の軽量化にはアルミは欠かせません。
「アルミの精錬が始まったのが1886年だ。1900年には欧州自動車メーカーが自動車部品として採用している。第2次世界大戦前にはアルミダイカストによる部品づくりが始まり、戦後にはエンジン部品で非常に多く使われるようになった。使用量が増加する中で、アルミ合金鋳物は、ほかの鋳物と比較して強度が問題視されてきた。軽量化を目的に、アルミへの転換を図る上で、どうすればアルミ合金鋳物の信頼性を確保できるかというのが研究の根底にある」
―自動車産業では電動化への対応も求められています。
「車体を鋳物で製造するケースが増加している。これにはアルミ、マグネシウム、シリコン系の材料が使用される。さらに、車体メーカー独自のレシピによる材料が加わってくる。近年の素材事情を勘案して、これまであまり使用されてこなかったバナジウムやビスマスといった材料についての実験結果も報告している。また、電池材料として使用されるリチウムの影響も実験している。こうした基礎研究でしっかりしたデータを積み上げていくことが、当研究部会の使命でもある」