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鋳物産業
鋳物産業は戦後、自動車製造技術と密接に関わりあいながら発達してきた。日本国内の鋳物生産量の約60%、ダイカスト生産量の90%近くが自動車向けと言われている。エンジンや足回り部品の鋳物は量産技術が確立され、事業者の規模も大きい。一方、工作機械や産業機械に用いられる銑鉄鋳物の生産事業者は多品種小ロット品が主力で、小規模なため、技術者や後継者不足に悩まされているのが現状だ。産業機械だけでなく、半導体製造装置、高度医療機器にも使用されるこうした鋳物の生産量は、国内製造業の現状を計るバロメーターでもある。
国内鋳物生産額約2兆1430億円
溶融した金属を鋳型に流し込み製造する鋳物やダイカスト技術は、日本国内では1860年代に産業化が大きく進み、造船技術が発達したことにより広がりを見せた。戦後は工作機械や生産機械を主要な需要先として復興を支え、高度経済成長期以降は自動車産業を最大の需要先とし、成長を続けてきた。エンジン部品や足回り品、ブレーキ部品などあらゆる部品で自動車を構成する重要な要素として使われている。量産技術も確立されており、事業者の規模も大きい。現在では国内の鋳造需要の約6割が自動車産業向けだとされている。
日本の製造業の成長とともに発展を続けてきた鋳物産業だが、大きく変化する時代に伴いさまざまな課題が発生している。経済産業省がまとめた2023年の鉄鋼・非鉄金属・金属製品統計月報によると、年間生産額は銑鉄鋳物製品が約7796億円、アルミニウム鋳物が約2994億円、精密鋳造製品が約649億円、銅合金鋳物は約995億円だった。これに鋳鉄管の約629億円、可鍛鋳鉄の約127億円、鋳鋼の約1053億円、ダイカストの約7184億円を加えた合計金額は2兆1430億円で前年比105・6%となった。最も生産額が高かったのが銑鉄鋳物製品で、このうち約60%となる4315億円が自動車用をメインとする輸送機械用だ。
インタビュー/近畿大学 工学部機械工学科 材料物性工学研究室 教授 信木 関氏
鋳物は古くから日本の社会、産業の発展に貢献してきた。モノづくりがデジタル技術で高度化する中でも、あらゆる場面で欠かせない存在だ。現在も、産学で鋳造技術や材料、素材の研究、開発が続いている。
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―鋳鉄鋳物の現状は。
「鋳鉄鋳物は部品などを安く、量産できることが優れた点だ。ただ現状は、高強度が求められる場面での使用率は高くない。戦後から、求められる強度や特性を実現するために合金を添加したり、熱処理するなどの試行錯誤が行われてきた。しかし、こうした目的のために合金添加や鋳造後に熱処理することでコストアップになるのであれば、最初から高い材料の鋼を使えばいいという議論になった。この結果、大きく拡大、普及するには至らなかった」
―最大の需要先は自動車産業です。
「1980年代以降も自動車部品で採用される割合は高かった。代表的なのが、エンジンブロックだが、現在の欧州では軽量化と長寿命化の観点からアルミニウムの採用が拡大している。さらに、電気自動車(EV)化が進んでおり、鋳鉄鋳物が使用される割合の低下が懸念されている。一方で、日本の自動車メーカーは鋳鉄鋳物エンジン搭載車が生き残っている。エンジン周りのエキゾーストマニホールドに加え、ベンチレーテッドディスクブレーキ、油圧ポンプボディーなど鋳鉄鋳物が必要とされるものはまだ多数ある」
―23年から日本鋳造工学会の鋳鉄研究部会の部会長も務めています。
「部会では、前部会長時代から鋳鉄鋳物の機械的性質や疲労特性、摩耗性などを含めた信頼性確保の取り組みに力を入れている。鋳鉄鋳物では内部に巣と呼ばれる空洞の欠陥部分が発生する。そこで、内部をCTで検査し、巣の場所や大きさなどを明確にした上で、その状態のままで引張強度や疲労強度試験などを実施し、保証できる範囲を示すことを進めている」
―改めて検査、評価することで用途拡大を進めようとしています。
「信頼性を重視する部材に鋳鉄鋳物をあえて採用する必要はないと考える機械設計者は多い。検査、評価する取り組みは、鋳鉄鋳物の信頼性の高さだけでなく、日本の鋳物技術の高さも再認識することにつながると考えている。今後、用途拡大で期待を寄せるのは、肉厚が600ミリメートルを越える大物鋳物だ。これだけの大型サイズだと表面と内部での冷却速度が異なるため、信頼性の確保が難しいとされてきた。しかし、こうした大物でも内部を透過する技術が確立しつつある。この技術を活用して大物鋳物でも、強度や信頼性を確保できることが確認できれば、低コストで量産可能な鋳物への転換につながるだろう」
―鋳物の歴史は古く、素材研究の余地は少ないと思われています。
「鋳鉄は容易に造ることができると思われがちだが、大きな間違いだ。黒鉛球状化剤、添加剤、接種剤のどれかひとつでも変われば、同じものができない可能性が高くなる。なぜそうなるか分かっていない部分も多い。評価、分析を重ねていくことで明らかにしていくことも重要だ。また、産業界から従来になかった、機能を鋳物に求められるケースもある。最近増えているのは『高温特性』だ。自動車エンジンの小型化と並行して出力をサポートするターボチャージャー(過給器)搭載車が増えている。エンジンから排出される高温の排気をさらに圧縮するため、エンジン周りの部品も900度C程度になるが強度を確保したいという。こうした新たな課題も継続的に出てくる。研究に終わりはない」