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CAD・CAM・CAE
「構想CAE」とは、製品設計の初期段階である構想設計から、積極的にコンピューター利用解析(CAE)を活用する手法である。問題の早期発見や設計案の評価を通じて、詳細設計段階での手戻りを防ぎ、設計品質の向上が期待できる。ここでは構想CAEの考え方と、設計プロセスに実装する方法を解説する。
手戻り防ぎ 設計品質高める「構想CAE」
【執筆】 3Doors 代表取締役 高橋和樹
CAEの活用
近年、3次元(3D)コンピューター利用設計(CAD)は設計業務のメインツールとして広く活用されている。一方で3DCADと連携可能な設計検証機能、すなわちCAEの利用率は3DCADユーザーの30-40%程度にとどまり、設計者の多くがCAEを積極的に活用していないのが現状である。
さらにCAEの利用範囲にも課題がある。設計者によるCAE活用は、主に製品開発プロセスの最終段階にある設計完了後の設計検証や、不具合対策といった後追い的な使用に偏っている。そのため本来の目的である「強度意識を持った設計の最適化」や「設計の手戻りの削減」といったメリットを、十分に享受できていない。
設計者CAEから構想CAEへ
従来の設計者CAEは、設計完了後の設計検証ツールとして用いられる検証型CAEが主流である。この手法では、設計(モデリング)が完了してから解析を行うため、設計上の問題がその時点で初めて顕在化する。その結果、多くの設計手戻りが発生し、場合によっては設計を一からやり直す必要に迫られることもある。
この手法はCAE黎明期の2次元(2D)設計プロセスに起因している。当時は、まず設計(2D図面)を完成させた後に図面に基づいて解析モデルを作成し、CAEによる設計検証を行っていた。
したがって構想段階では、設計者が自身の経験や勘に基づいて形状を決定し、強度検討せずに設計が進行するのが一般的である。そのため設計途中で問題を見抜くのが困難であり、最終段階のCAE解析によってようやく問題が数値として表面化し、潜在的な設計課題が明らかになる。
一方、構想CAEでは、設計の初期段階から積極的にシミュレーションを活用し、設計者の経験や直感的な判断を数値化して定量的に評価する。設計者が持つ勘や経験に基づく形状検討を、リアルタイムで解析結果を交えて進めることができる。その結果、従来のように設計段階の終盤で問題が発覚するリスクを最小限に抑えられる。
この「攻めの解析」とも言える手法は、設計者が初期段階からシミュレーションを取り入れることで、効率的かつ合理的な設計プロセスの実現を可能にする。
さらに構想CAEを活用すれば、設計者は数値的なデータに基づいて意思決定を行えるため、自身の経験と勘を定量的に裏付けつつ、強度意識を持った設計に取り組むことができる。このようなシミュレーション活用型の設計アプローチは、設計者の負担を軽減し、より精度の高い設計を実現する。また複数の設計案を比較検討する際にも、シミュレーションによる定量的評価が可能であり、最適な選択肢の判断が容易になる。
CAEをより普及させるために
現状、CAEが設計者に広く普及していない原因は、設計プロセス内での位置付けが曖昧であることにある。そのためCAEの活用は各設計者の判断に委ねられており、組織的な運用がなされていないケースが多く見られる。
また設計者ごとにCAEに関するスキルや理解度に大きなバラつきがあることも、効果的な活用を妨げる要因である。解析結果を適切に解釈できず、設計上の意思決定に十分反映できない場面も少なくない。加えて管理者層におけるCAEリテラシーの不足も、解析結果の正しい評価や設計へのフィードバックを困難にし、CAEの有用性が組織全体として十分に認識されない要因となっている。
特にCAEの解析結果は、応力分布などを色で示すコンター図(応力分布図)で表現される。そのため、これを正確に評価するには、診療放射線技師が画像を読み取るような読影スキルが求められる。これは高度な専門性を要するスキルであり、設計者・管理者の双方において習得が必要である。
属人的CAEからの脱却
属人的CAEとは、特定の技術者や担当者の経験や判断に依存したCAEの運用スタイルを指す。かつてのCAE黎明期においては、解析ソフトの操作や設定に高度な専門性が求められたため、限られた人材だけがCAEを扱うのが一般的であった。その結果、CAEの知識やノウハウは一部の"CAEスペシャリスト"に集中し、他の設計者が関与しづらい状況が生じていた。このような状況が、CAE活用をためらわせる一因となっていた。
しかし技術の進歩により、この状況は大きく変わりつつある。近年では、3DCADにCAE機能が統合され、設計者自身が設計業務の中で容易にシミュレーションを実行できる環境が整ってきた。従来のように高い操作スキルを必要とせず、電卓のように気軽にCAEを使える時代が到来している。
これにより属人的なCAE利用から脱却し、組織全体でCAEを標準的なツールとして活用できるようになる。重要なのはCAEを特別視せず、設計プロセスに自然に組み込むことである。
属人的CAEから脱却するには、3DCADのCAE機能の進化に加え、人材の役割転換が重要となる。特にカギとなるのが、CAE専任者の役割を「プレーヤー」から「メンター」へと転換することである。
属人的CAEの課題の一つは、CAEスキルやノウハウが特定の専任技術者に集約され、それが人事評価に影響することによって、知識や技術が組織内に共有されにくい点にある。そのため一般の設計者がCAEを活用せず、普及が進まない状況が長年続いてきた。
CAEのさらなる普及には、CAE専任者が単に解析を実行する役割にとどまらず、設計者を育成・支援するメンターとしての立場を担うことが求められる。特に構想CAEを推進するためには、設計初期段階から設計者自身がシミュレーションを日常的に活用できる環境の整備が不可欠である。
これからのCAE専任者に問われるのは、解析業務の遂行能力ではなく、いかに組織内にCAE文化を根付かせるかという観点である。CAE専任者がプレーヤーからメンターへと役割を変え、設計者のCAE活用を支援することで、属人的な解析体制からの脱却が実現する。これにより、構想段階からのCAE活用によって品質・性能を早期に見極めた設計が可能となり、製品開発における競争力が飛躍的に高まる。