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愛知県尾張西部地区産業界
愛知県尾張西部地区は岐阜県と三重県に隣接し、古くから東西をつなぐ交通の要衝として栄えてきた。特に毛織物を中心とした繊維業が発達し、現在でも尾州織物は海外の有名ブランドなどに採用され品質を評価されている。同地区の産業を形づくった交通網は陸海空に広がり、近年では利便性の高さから物流拠点の進出も相次ぐ。変化する社会に合わせ、新たな取り組みを進める同地区の産業を追った。
県のブランド認証、6社が取得 多彩なモノづくりの実力企業
愛知県では毎年、県内の優れた技術をもつモノづくり企業を「愛知ブランド企業」として認証している。23年度新たに認証された14社の中から、尾張西部地区の企業6社を紹介する。
明和精工(弥富市)は自動車のボンネットやドアなどのロック機構や、シート部品などを中心にプレス加工から樹脂成型加工まで幅広く手がける。量産品だけでなく、顧客の要望から図面作成、金型の製造まで手がける試作部門ももつ。自動車部品で培ったノウハウを、医療品や住宅関連など他分野にも広げている。
地場産業である繊維業を源流とする日本グラスファイバー工業(江南市)はガラス繊維を用いた断熱・保温材や吸音材などを製造する。近年ではボイラーや射出成形機に巻き付けて保温することで、省エネルギー化を図る製品が注目を浴びる。バルブや配管からの放熱を抑え、内部の流体の温度が下がるのを防ぐ。エネルギーロスを最小限にすることで、電気代や燃料費を節減可能だ。
スター精機(大口町)は直交ロボットの総合メーカー。1600種以上を展開する独自開発のロボットハンドや直交ロボの技術を活用した導入しやすいパレタイザーなど、グループ企業のノウハウを結集した事業展開が高く評価され、認証につながった。
溶融亜鉛メッキ加工が主力の眞和興業(江南市)は、環境を軸にした経営や、業界初となる金属資源を回収・有効利用する資源循環システムなどが高く評価された。排出物の中に混入していた塩化亜鉛、塩化第一鉄を分離し、薬品会社に販売することで汚泥の発生を年間約54トン削減した。
このほかに、チーズメーカーのヨシダコーポレーション(愛西市)や、ランドセルのリメイクを手がけるAskalカバン工房(一宮市)など、尾張西部地区の多彩な産業を支えるモノづくりが評価された。
酸素ルーム導入で社員の健康を促進
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事務所の一部を改装して導入した高気圧酸素ルーム
人手不足が社会問題となる中、各企業は現在の従業員に長く働いてもらうための工夫も求められている。
樋口鉄工所(北名古屋市)は産業機械や金型の大型部品加工が主力。社員の健康を重視した健康経営に力を入れる。4月には日本気圧バルク工業(静岡市駿河区)の小型「高気圧酸素ルーム」を設置し、事務所の一部を専用スペースとして整備。終業後や休日などに無料で使用できるようにした。総投資額は約300万円で、内装の一部は樋口泰宏社長自ら手がけた。
同ルームは気圧の高い部屋で高濃度の酸素を吸引することで全身に酸素を供給する高気圧酸素治療法を活用したもので、疲労回復や冷え性の改善が期待されている。室内の気圧は圧力値1・2気圧、1・25気圧、1・3気圧の3段階から選択可能。加圧速度も選べる。酸素濃度は1・3気圧の場合で27・2%。内部にエアコンやモニターを取り付け、リラックスできる空間とした。
医療機関やスポーツクラブなどで導入される装置だが、同社では社員の健康促進に使用している。「ベテランの社員が多く、身体の不具合や不調もよく耳にした。導入以来、毎日のように使っている社員もいる。酸素ルームを活用し、安全で元気に働いてもらいたい」(樋口社長)と社員の健康に気を配る。さらに今後は工場稼働中の酸素ルームが使われていない時間を活用し、近隣の社会福祉施設や学校などに有償で貸し出し、事業化を目指す。
地域課題解決するイノベーションを支援
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最終審査に選ばれた6プランがプレゼンテーションを実施
地域の産業や企業の活躍を支えているのが、行政や商工会議所の取り組みだ。特に一宮市は尾張西部地区の中心的都市として、先進的な事業を進めている。一宮商工会議所の主催するスタートアップ支援事業「スタートアッププログラム」が日本商工会議所の事業活動表彰を受賞した。同商工会議所が同賞を受賞するのは初めて。新産業の創出に加え地域課題の解決に取り組む姿勢が評価された。
スタートアッププログラムは同商工会議所が一宮市と協働で21年から実施している催しで、23年度で3回目。同市の産業振興や、中心街の活性化など地域課題の解決をテーマにビジネスプランを全国から募集する。グランプリに選ばれたプランは同市での事業展開に向けた支援が受けられ、21年度に優勝した高齢者や子どもを地域で見守るサービス「otta(オッタ)」は既に同市の一部で導入され、小学生の登下校時の見守りに活用されている。
23年度は23件の応募の中から6件が最終審査に進み、位置情報を共有できる地図アプリを用いた「Livmapで地図関連業務の効率化」がグランプリに、若手起業家の育成を支援する「デザイン思考がテーマのアントレプレナーシップ教育プログラムによる地域の人材育成」が特別賞に選ばれた。二つのプランは、同商工会議所が継続的に支援し、市内での導入を目指す。
このほかに高校生向けのビジネスプランコンテスト「ジュニアスタートアッププログラム」も開催しており、次世代人材の育成も進める。スタートアッププログラムと同様に、一宮市の地域課題を解決するプランを募集しており、23年度は4校33人の学生が参加。一宮商業高校が最優秀賞に選ばれた。
市制70周年、多彩な事業を展開
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市制70周年を記念して作られたロゴマーク
江南市は濃尾平野の北部に位置する緑豊かな街。明治以降は養蚕業で栄え、現在でもカーテン生地の産地として知られている。歴史ある産業が根付く同市は、6月に市制70周年を迎える。「あすへと続く 私たちのまち 江南」をコンセプトに掲げ、多彩な催しを開催する。
記念事業として市の花である藤の花と、市内北部を流れる木曽川をモチーフにした記念ロゴマークを作成。市内の企業を中心にロゴマークを使用したコラボ商品の作成を呼びかけている。また稲沢市にキャンパスをもつ愛知文教女子短期大学の学生がデザインした記念グッズも販売する。このほかにも江南市にある滝学園との共催イベントなど地域の教育機関と連携した取り組みも実施する。
さらに同市を舞台としたオリジナルドラマも制作する。愛知、三重、岐阜の3県で放送を予定しており、ふるさと納税を活用した寄付金募集では、市内に事業所をもつ企業や、近隣の企業など11社から寄付が集まった。