-
業種・地域から探す
愛知県瀬戸市・尾張旭市産業界
愛知県西部の尾張丘陵に位置する瀬戸市・尾張旭市は、丘陵から採れる良質な陶土や珪砂(けいしゃ)によって、古くからやきものの街として発展を続けてきた。近年では長年培った窯業の技術や経験を生かし、絶縁体「がいし」やファインセラミックなど新たな産業を創出している。そのほかにも電気機械や器具製造、金属、化学などさまざまな種類の産業が存在しており、一つの産業に依存することなく幅広い分野の製造業が集積する。また、名古屋市から北東20キロメートルという利便性の高さから、住宅都市としての役割も有している。両市は自然災害に強い地域でもあり、住民への安全の確保はもちろんのこと、物価高騰対策補助金をはじめとした設備投資への支援も積極的に行っている。
窯業の経験生かす
ファインセラミック生産発展
-
瀬戸川沿いの即売会場は観光客でにぎわう
瀬戸市・尾張旭市は標高100-300メートルの小高い山々に囲まれており、丘陵地帯には「瀬戸層群」と呼ばれる陶磁器の原料となる良質な木節粘土や蛙目(がいろめ)粘土、ガラスの材料となる珪砂が採掘される。そのため古くから「瀬戸焼」と呼ばれるやきものの生産地として、窯業を中心に産業を発展させてきた。瀬戸焼は愛知県常滑市の「常滑焼」や滋賀県甲賀市の「信楽焼」などと並んで千年以上の歴史がある窯業の産地として「日本六古窯」と呼ばれ、2017年には文化庁から「日本遺産」に認定された。瀬戸市では現在も多くの窯元や陶磁器作家が軒を連ねており、時代とともに変化する生活様式に合わせて食器や置物、装飾品「ノベルティ」など多種多様な製品を生み出している。
毎年秋には国内最大級の陶磁器イベント「せともの祭り」が開かれる。瀬戸市の窯業を繁栄させた磁祖加藤民吉翁の功績をたたえる産業祭として始まり、今年で94回目を迎える。特に瀬戸川沿いに約200軒もの陶磁器メーカーや作家が出展する「せともの大廉売市」は約30万人以上が来場する一大イベント。普段使いの器から陶芸作品までさまざまな作品が並べられる。今年は9月13日、14日に開催を予定する。
また11月8日、9日には市内の窯元が工房やギャラリーを一般開放する「せと・まるっとミュージアム大回遊」を開催する。参加する窯元ではスタンプラリーや陶芸体験などが企画され、来場者と陶磁器作家の交流を促す。現在でも窯業は地域をけん引している。
窯業の発展は産業にも表れている。長年積み重ねてきた窯業の経験と技術を生かし、がいしやファインセラミックなど新たな産業を創出。そのほかにも電気機械や器具製造、自動車部品製造や医療器具製造など、幅広い分野の製造業が市内に集積されてきた。その中でもファインセラミック製造の発展は目覚ましく、自動車のエンジン部品やパソコンの中央演算処理装置(CPU)といった高い信頼性を求められる製造部品に使用されている。
工場の新設支援/瀬戸市の企業再投資促進補助金
最近では市から交付される補助金を活用し、生産拡大の機会をうかがう企業も増えている。瀬戸市が交付する「瀬戸市企業再投資促進補助金」は、同市内に20年間立地し新たに工場や研究所を新設する企業に対し、県と連携して最大10億円を支援する。
-
太陽光発電を活用するテクノエイトの第四工場
テクノエイト(瀬戸市)は同補助金を活用し、2024年5月、本社敷地内に「第四工場」を竣工、本格稼働した。敷地面積は8100平方メートル。大型のトランスファープレス機やブランキング(打ち抜き加工)プレス機などを新たに導入し、自動車部品向けの超高張力鋼板(超ハイテン)部品加工を行う。投資額は約90億円で、同社では過去最大規模となる。
第四工場は工場のスマート化を目指し、工場内では自動搬送車(AGV)を活用。超重量物の運搬を自動化するなど働きやすい環境を整えている。スマート工場推進により、1人当たりの売上高は3割向上したという。
また工場新設に合わせ、同工場の屋根に太陽光パネルを設置し、脱炭素社会に貢献していく。
-
本社機能と金型部門を移し、工程を自動化する
ニッコーインテック(同市)は主に自動車用精密プラスチック部品の金型設計・製作から成形加工や組み立てまでを一貫で手がけている。23年末に同社で6棟目となる工場の竣工に補助金を活用した。新工場は本社機能と金型部門を移した。敷地面積は約4300平方メートル。建屋は2階建てで延べ床面積は約4600平方メートル。型締め力550トンの射出成形機と同450トン機を新たに2台導入した。加えて生産ラインを分岐し平行作業などを可能にするトラバースやストッカーも導入し、工程の自動化を図る。今回の投資額は土地、建物、設備で約15億円。同社では過去最大規模となる。
24年5月には他工場から中型クラスの射出成形機を移設。集約して生産性を高めていく。さらに工程の自動化も推し進め、今後2年で売上高を1・2倍に引き上げる方針だ。
こうした企業支援の背景には、地域経済の中核をなしている企業の市外への流出を防止する役割も有している。両市では人口の約3割が高齢者という中で、若者が働きたいと思える企業や産業の創出は不可欠。工場や研究所の新設を支援することで、より魅力ある雇用環境の整備につながることも期待されている。
市と企業の連携強化/製品を保育園に提供
産業の発展・雇用促進と並行して、尾張旭市ではまちづくりの基本方針として「暮らしやすさ」に「楽しさ」を加えることを掲げ、企業による地域貢献を促進している。取り組みの一環として25年8月にはエコペーパーJP(尾張旭市)が市内の公立保育園に自社の製品である再生紙を提供する。
同社は古紙を原料にして段ボール原紙や印刷用紙などの再生紙を生産している。A4サイズやA3サイズをはじめとした再生紙を市内合計8か所の保育園に寄贈する予定だ。園児には提供した用紙に絵を描くなど自由に使用してもらい、その作品を活用して市内の施設で展示する計画も進められている。さらに絵を描いた再生紙は回収して再びリサイクルする、循環型の取り組みとなっている。
【ごあいさつ】 瀬戸市長 川本 雅之
-
瀬戸市長 川本 雅之
瀬戸市の産業は、古くからやきもののまちとして陶磁器産業を中心に発展し、現在ではその陶磁器産業から派生・成長したファインセラミックス産業とともに、電気機械や金属製品、医療関連など多種多様な産業が集積し、発展してきた。
こうした産業の集積・発展は、地域の雇用を創出し、産業基盤を支えるなど、長年にわたり瀬戸市の地域経済と豊かな暮らしの実現に寄与してきた。
今後も、産業用地の確保に向けた取り組みを進めるとともに、市内に立地する企業のさらなる生産性向上や高付加価値化等を後押しするため、さまざまな支援を行うことで、来る市制施行100周年を見据え、持続可能な産業基盤の拡充と地域経済のさらなる発展を目指していく。
【ごあいさつ】 尾張旭市長 柴田 浩
-
尾張旭市長 柴田 浩
尾張旭市は、名古屋市に隣接する地理的な好条件や名鉄瀬戸線による通勤・通学などのアクセスの利便性を生かして、暮らしのまちとして発展してきた。
産業の特色は、住宅都市ということもあり、医療・福祉、小売、飲食サービスなどの第3次産業が就業者の約7割を占める一方、製造業では電気機械、はん用機械器具、窯業・土石製品、業務機械器具などさまざまで、突出した企業に依存することなく、多業種のバランスが保たれていると考えている。
本年度は市制55周年の節目である。施策の一丁目一番地として「安全安心」のまちづくりに注力し、突然起こりうる災害を想定内とすることで、市民の生活、事業の継続、そして経済を守るとともに、物価高騰対策補助の拡充により設備投資等の支援を推進し、さらなる商工業の振興に取り組んでいく。
