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愛知県東三河地区産業界
愛知県東三河地区は県の東部に広がるエリア。自動車産業を中心に幅広い製造業が集積する。海と山に囲まれ、豊かな自然と温暖な気候を生かし、農業も盛んな地域だ。鍛え上げられた産業基盤と地域資源を活用して新産業創出の動きが活発化している。また、今年3月、豊橋市と名古屋市を結ぶ大規模バイパス「国道23号名豊道路」が全線開通した。県内製造業の中心地である西三河地域や大消費地の名古屋市へのアクセス時間が短縮されることによる地域全体の活性化も期待されている。
地域に活力もたらす
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豊川為当IC周辺道路では渋滞緩和が進む
東三河地域は県内有数の産業集積地区である一方で、人口減少が2008年から始まっており、将来的な課題となっている。特に、進学や就職に伴う若年女性の大都市圏への転出超過が顕著になっている。
流出抑制やUターン就職しやすい環境を整えようと女性の健康課題をテクノロジーで解決する製品やサービスを指す「フェムテック」で新産業を創出しようとする動きが始まっている。
県の東三河総局は24年、「東三河フェムテック産業推進事業」をスタートさせた。フェムテック関連産業を育成しつつ、産業振興や雇用の確保、女性活躍を後押しする。
初年度の取り組みで企画された7件のフェムテック製品開発のうち2件について、マーケティングのためのクラウドファンディングを8月末までをめどに実施している。また、17日には、豊橋商工会議所でセミナー「東三河発フェムテック!新たな市場で企業が輝く」を開く。地域活性化にフェムテックをいち早く取り入れた東三河での取り組みが注目される。
豊橋市と名古屋市を結ぶ大規模バイパス「国道23号名豊道路」が3月に全線開通したことで、地域経済の活性化が期待されている。豊橋市から豊明市までの約73キロメートルを信号なしで結ぶ。域内で生産した工業製品や農産品の輸送時間の短縮に加え、周辺道路の渋滞緩和効果も期待されている。
新たに開通したのは豊川為当インターチェンジ(IC)―蒲郡IC間。国土交通省中部地方整備局名四国道事務所は6月4日、名豊道路全線開通2ヶ月後の交通状況を発表した。豊川為当IC最寄りの国道1号線京次西交差点北側流入部では渋滞長が開通前の540メートルから開通後は10メートルに解消した。また、同1号線から蒲郡ICにつながるオレンジロードでも最大渋滞長が190メートル解消するなど周辺道路の渋滞緩和効果が報告された。名豊道路は一部区間で対面通行の2車線区間があり、地元産業界からは早期に4車線化の声もあがっている。
豊橋技術科学大学 学長 若原 昭浩 氏/産学連携の基礎築く
多くの技術系人材を育成し、産業界に輩出してきた豊橋技術科学大学は2026年に開学50周年を迎える。当初から、産学連携による産業の高度化に加え企業人材育成などでも地域の産業発展に貢献してきた。若原昭浩学長にこれまでの取り組みや今後の展開について聞いた。
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豊橋技術科学大学 学長 若原 昭浩 氏
—開学50周年を迎えます。
「豊橋と長岡の両技術科学大学は工業高等専門学校の卒業生が進学できる工業系単科大学として設立された。高専生の実践力で裏打ちされた技術・技能という強みを伸ばしながら、弱点を補い高度化を目指して学部、大学院の一貫教育を実施してきた。“技術科学”の定義は製造現場で問題となっている課題を抽出し、科学的なアプローチで解決し、さらに高度化して産業界に還元することだ。本学の卒業生たちはこの役割を果たしてきた」
―産学連携でも重要な役割を果たしてきました。
「開学当初から産学連携の推進役を担ってきた。技術開発センターを創設し、地域企業の困りごとを解決するための技術を開発し提供してきた。当時の社会情勢下では主流の取り組みではなかったが、両技科大がわが国の産学連携の基礎を築いてきた。本学ではここ数年間、組織対組織での産学連携による共同研究に力を入れてきた。大学の持つ技術と企業が求める課題とのマッチングを幅広く図れるのが特徴だ」
―社会人教育でも貢献しています。
「共同研究では、企業人材を研究員として学内に受け入れ、活動してもらう。通常は研究結果や開発した技術を企業に提供すれば終了になる。しかし、開発した本人が一緒に企業に戻れば、その後の応用や活用が期待できる。教授などと一緒に開発した技術で学位を取得してもらうため、開発した技術の背景から考え方まで整理、理解できているからだ。人材育成の側面でも高く評価されている」
―東三河地域特有のニーズは。
「自動車産業関連の機械加工業が多い。保有する高い製造技術とAI(人工知能)を組み合わせ、さらに高度化したいといった相談も多くなっている。半面、農業も盛んな地域だ。植物工場や耕作地監視のためにドローン技術の活用などについても相談が寄せられる。農業法人が、本学で開発した植物工場を導入した例もある」
―製造業と農業を連携させる動きもあります。
「機械加工工場に隣接して農業ハウスが存在する全国的に見ても珍しい地域だ。政府はハウス型の施設園芸も2050を目標にカーボンニュートラル(CN、温室効果ガス排出量実質ゼロ)を目指す方針を打ち出した。この対応策として、工場から排出される二酸化炭素(CO2)を、隣のハウスで活用できればウィンウィンの関係が構築できる。地域の関係者と相談しながら進めようとしているところだ。実現できれば、日本の農業が変わる可能性を秘めている」
―このほど、次世代半導体・センサ科学研究所にLSI棟とオープンラボ棟の2棟が完成しました。
「半導体関連の各分野の技術者、研究者が一つの場で議論できる環境を提供する。主力の自動車産業のほかに、半導体も地場産業の柱として広げていく手伝いをできないかという考えで開設した。東海地方には半導体関連の素材や製造装置メーカーだけでなく多種多様な企業が集積している。しかし、こうした企業の力が生かしきれていない。ユースケース(活用事例)創出は企業の領域だが、この場がうまく機能していけば、各社が持つ強みを生かして新規分野参入のチャンスも生まれてくるだろう。地場産業の持続的成長と地域活性化を後押ししたい」