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愛知ビジネス
モノづくりの一大集積地として国内産業をけん引してきた愛知県。製造業が大きな変革期を迎える中、蓄積したノウハウとスタートアップのもつ革新的な技術が結びつき、新たなイノベーションが創出されることが期待されている。10月には国内最大級のタートアップ支援拠点「ステーションAi」が開業する。産業の未来を担う、同県の取り組みを追った。
ディープテック系企業の創出へ 24年度予算2倍に拡大
愛知県が発表した2024年度の予算案は23年度当初予算比5・8%減の2兆7949億円。新型コロナウイルス感染症対策の事業費が大幅に減少した一方、スタートアップの創出や誘致の関連予算を前年度比で約2倍の137億円に拡充する。10月に開業を予定する国内最大級のスタートアップ支援拠点「ステーションAi」(名古屋市昭和区)の運営費に加え、ユニコーン企業の創出を目指しディープテック系スタートアップ企業の支援を強化する。また農業、ヘルスケア、環境、モビリティー、スポーツなど分野ごとに新たなビジネス育成の支援を進め県内産業を強固にする。
特にディープテック系スタートアップでは、県内企業がこれまで蓄積してきたモノづくりの技術との連携が期待されている。従来のスタートアップはソフトウエア事業が中心だったが、ディープテック領域ではハードウエアとの結びつきが必要不可欠となる。同県では、県内産業と親和性が高い大学技術などをもったスタートアップを創出・育成するため23年度から新規支援事業を開始した。名古屋大学発のベンチャー、クオステラなど5社を採択し、最大4000万円の支援金や資金調達支援などを実施。このほかにも事業化を目指す研究者向けのセミナーなど、革新的な技術を事業につなげる取り組みを強化する。
VCと企業の共同支援がスタートアップ活発化のカギ/名南M&A社長 篠田 康人氏
ディープテック領域などでスタートアップ企業と製造業など従来からある企業のもつ技術が結びつき、イノベーションが引き起こされることが期待されている。10月のステーションAi開業で機運が高まる中、県内のスタートアップ支援の状況や課題について聞いた。
―県内のスタートアップ支援の現状は。
「愛知県には技術力、資本力のある製造業が集積し、コーポレートベンチャーキャピタル(CVC)の設立など投資への関心は高い。県内製造業によるスタートアップへの投資が進めば新産業創出の起爆剤となるだろう。しかし大学発ベンチャーなど技術をもった起業家が増える一方で、企業からの投資は進んでいない。スタートアップは株価評価の基準が一般的な中小企業とは大きく異なり、現在の売り上げや利益よりも将来性が評価される。評価方法に不慣れな企業は投資に二の足を踏む。企業による投資の促進には、スタートアップの株価評価の考え方を知る機会を増やすことが必要だ」
―今後の課題は。
「『スタートアップへの投資は会社を次のステップへ進めるためのもの』という認識を県内企業に広げることが最重要だ。我々ベンチャーキャピタル(VC)と企業が一丸となって支援する環境になれば県内のスタートアップはもっと盛り上がる」
―県内でスタートアップ市場を広げるカギは。
「イグジット(出口戦略)の環境を整えることだ。これまでは新規株式公開(IPO)ありきで、毎年数多くのスタートアップが生まれても、IPOできるのは100社程度。残りは失敗とみなされていた。しかしイグジットにはマネジメントが得意な企業にM&Aするという方法もある。米シリコンバレーのスタートアップの8割はM&Aでのイグジットとされ、東京でも既に流れが来ている。愛知県は経営基盤が安定した製造業が多い。こうした企業に必要なシーズをスタートアップが生み出し、M&Aして成長させるシステムが完成すれば双方に大きな利益となり、市場は大きく広がる」