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アグリテック
スマート農業は情報通信技術やロボット技術などを積極活用し、生産性の向上や作業の効率化を目指す。植物工場は照明や温湿度などの環境を高度制御し、無農薬など付加価値の高い作物を計画的に生産する。こうした取り組みは農業の省力化、自動化、安定生産などを実現するために大きな期待が寄せられている。安全・安心で豊かな食文化の基盤となる農業を、技術的な側面から支援・高度化するアグリテックの発展は国連の持続可能な開発目標(SDGs)達成にもつながる重要なテーマだ。
生産性向上・高付加価値化
畜産IoT/牛-いのち・健康守る
「2022年冬の導入以降、死亡事故がない。夜間や休日に発情を見落とし人工授精の機会を逸することもなくなった」。乳牛や肉牛を約100頭飼育している大島酪農組合(岐阜県大垣市)の大島篤代表理事は太平洋工業の牛体調モニタリングシステム「カプセルセンス」(CS)の効果をこう話す。
一般に飼育牛は死産が数%ある。防ぐには早期に兆候を知り、母牛を分娩(ぶんべん)房に移し分娩を人が補助する必要がある。また人工受精も発情の察知が前提。病死も畜産農家には大きな損失だ。しかし人手不足の中、大規模化が進む畜産農家で牛の常時監視は難しかった。
CSは牛にカプセル状のセンサー子機を飲み込ませ、胃内の体温と加速度のデータを無線で親機に送る。さらにクラウド上の人工知能(AI)で体温や行動の変化を分析。疾病を含め、分娩なら約1日前、発情後なら数時間以内にスマートフォンなどで飼育者に兆候を伝える。首など牛の体外にセンサーを付ける他システムより高精度で破損もしにくい。
自動車の安全技術 応用
太平洋工業は自動車部品メーカーだ。CSは国内で唯一生産するタイヤ空気圧監視システム「TPMS」の技術を応用。開発担当者が畜産農家に半年以上常駐し畜産の詳細を学び、センサー子機の仕様や検知アルゴリズムを最適化した。
22年6月の発売後は大手農家などにも採用され、引き合いも多い。「受胎率が上がり、コストが減った」「死産がなくなった」「夜間の見回りを減らせた」「重症化前に治療ができた」「飲水量がわかり熱中症を防げた」などの声が寄せられている。
要望により羊用なども製品化した。今後は子牛用なども発売する予定だ。担当の栗本優事業開発センター新規事業推進部センシングデバイス開発2グループ課長は「畜産業界にマッチした製品開発を続けラインアップを拡充したい」と話す。
植物工場/コメ型ワクチン実用へ
朝日工業社は昨年11月、千葉大学から「MucoRice-CTB19Aの製造プロセス管理」を受託した。これは日本医療研究開発機構先進的研究開発戦略センター「ワクチン・新規モダリティ研究開発事業」の採択課題「コメ型経口ワクチンMucoRice-CTB19Aの開発とヒトでの粘膜免疫誘導効果実証とそれを応用した呼吸器感染症に対する新規常温安定備蓄型経口ワクチンプラットフォームを目指す研究開発」(研究代表者=清野宏千葉大学卓越教授)の一環。採択課題は2027年3月に第1相試験を終了予定。
MucoRice(ムコライス)は、注射ではなく経口で飲む新しいワクチン。コレラやインフルエンザなどさまざまな疾病予防への展開が期待されている。
コメにタンパク質であるワクチン抗原を蓄積する遺伝子を組み込んだイネからムコライスが作られる。ムコライスを経口で飲むことでワクチンの効果が期待される。常温保存が可能で、注射器が不要なことから、発展途上国や災害時でも活躍が期待できる。
安定供給で開発推進
朝日工業社はこれまで遺伝子組換えイネの最適生育環境の研究を続けてきたが、実験室レベルから実用化を考慮した設備拡大の際に、安定生産の課題が浮上。その後、光の強い省エネ型白色LEDの使用とそれに適したイネ系統選定、空調環境の創出により課題を克服した。
植物工場は栽培作物に最適な環境条件を整えることで、生育・収穫を計画通りに行える。病虫害のリスクも排除できる。ただし一般に、照明や空調、水処理などの原因からコスト高になるため、それを上回る高付加価値作物の生産が必須となっている。ムコライスは高機能・高付加価値作物生産の象徴的な事例となる。
同社技術研究所の鹿島光司副主任研究員は「大勢の命を救うという社会的意義に貢献できることに誇りを感じる」と力を込める。
農業のスマート化で展示会 10月9日-11日/幕張メッセ
農業・畜産分野では日本最大級の規模を誇る展示会「第14回農業WEEK」が10月9-11日、千葉・幕張メッセで開催される。主催はRX Japan。「国際スマート農業EXPO」「国際農業資材EXPO」「国際畜産資材EXPO」「国際6次産業化EXPO」「農業 脱炭素・SDGsEXPO」の5展で構成される。約900社が出展し、農作業の省力化や収益アップにつながる製品・技術・サービスを紹介する。併せて、スマート農業をはじめとする最新の業界動向を解説する全18講演(聴講無料)の開催が予定されている。
事前の来場登録は無料。同時開催の「国際ガーデン&アウトドアEXPO」「TOOL JAPAN」にも入場できる。詳細は公式ホームページ(www.jagri-global.jp)へ。