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農薬散布の最適化 支援
スマート農業
露天での作物栽培は生育そのものだけでなく、さまざまな作業が天候に影響を受ける。害虫を防除するための農薬散布もそうだ。
散布直後に雨が降っては、効果を十分に発揮する前に雨で流されてしまう。また、効果が切れる時期に次の散布を行わないと害虫の被害が生じてしまう。労力を抑え、農薬散布の最適なタイミングを見極めるのは容易ではない。
気象情報サービス会社のハレックスは、コルテバ・ジャパンからの依頼を受け、農薬散布支援情報を提供する「イマデス」のシステム開発とサービス運用を行っている。かんきつ類生産者向けに降水量と気温に加えて、害虫の発生予察情報を提供している。
全国を1キロメートルメッシュで区切り、降水量については明後日までの1時間ごとと、60分先までの5分ごとの予測が地図に表示される。気温はユーザーが地図上で圃場の位置を設定すると、各日の最高・最低気温、平均気温の推移がグラフで表示される。当年分だけでなく、昨年のデータや5年平均のデータも表示できる。さらに、イマデスでは農薬散布を実施した日を設定することで、農薬散布日からの積算降水量が示される。
農薬の種類によっては降水によって効果が失われる場合がある。画面のグラフには明後日までの降水量予測と、効果がほぼなくなる積算300ミリメートル、そろそろ注意が必要な200ミリメートルのラインを引き、農薬散布時期の目安を知らせる仕組みだ(図)。害虫の発生予察情報はヤノネカイガラムシとチャノキイロアザミウマについて。それぞれ気温データを元に発生予察日を算出する。
ハレックスは今後の展開について「ベテラン農家が持つ気象に関わるノウハウを見える化・手順化し、行動を促すための情報提供を広げていきたい」(馬目常善ビジネスソリューション事業部長)と考えている。
イネで“飲むワクチン”生産
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安定供給技術が完成したコメ型経口ワクチン「ムコライス」(朝日工業社)
植物工場
植物工場は天候に左右されることなく、生育・収穫を正確に計画できる。害虫などの被害リスクも非常に低く、無農薬栽培も可能だ。収穫量・価格が計画的に決められる安定供給、食の安全・安心という側面から注目されている。一方、露地栽培と比べて生産コストは高い。コスト高を乗り越えられる高付加価値化が今後の展開のカギを握っている。
高機能・高付加価値な作物生産の代表例は朝日工業社が栽培(製造)するコメ型経口ワクチン「ムコライス(MucoRice)」だ。ムコライスは遺伝子組換えイネを使って、コレラ毒素の抗原をコメに発現させたワクチン。清野宏千葉大学未来医療教育研究機構卓越教授を中心に開発が進められている。ムコライスは保存に冷蔵設備が不要。経口投与なので注射器も不要となる。完成すればワクチンを飲むことで腸管下痢症を予防ができると期待される。
このイネの栽培は医薬品原材料の製造となるので外界からのホコリや虫の侵入防止が不可欠。一方、遺伝子組換えイネを栽培しているため、花粉などを外界に漏らさない措置が必要だ。つまり、栽培には植物工場が最適だ。イネはかなり強い光を出す白色LEDを用いた水耕栽培によって、おおむね105日で収穫となる。
開発当初は適した光源がなく、生育条件も不明な部分が多く、安定した生産ができなかった。あるプロジェクトにおいては供給予定量を生産できず、中止を余儀なくされた。だが、同社は完成に向けた手応えをつかんでいたため、あきらめることなく研究・技術改善を続け、ムコライスを安定供給できる栽培技術を完成させた。
同社技術研究所の鹿島光司副主任研究員は「ここまでこれてほっとした。大勢の命を救うことに貢献できるように、これからも研さんを重ねる」と語る。