-
業種・地域から探す
飛躍的な発展遂げる SEBAM技術の最新動向
SEBAM技術の進化と競争―20年の歴史(SEBAM装置の開発史)
今からさかのぼること20年の2003年に、スウェーデンのイエーテボリに拠点を置くベンチャー企業Arcam ABは世界で初めて商用のSEBAM装置を発売した。以来、長らく、同社は唯一のSEBAM装置メーカーとして、異なる材料とその応用に合わせてさまざまなタイプのSEBAM装置を開発してきた。16年に、米ゼネラル・エレクトリック(GE)に買収された。このGEによるArcam ABの買収は業界関係者にとって衝撃となった。
その後SEBAM市場には新たな企業が参入し、SEBAM装置の開発競争が活発化した。17年、中国・清華大学のベンチャー企業として創業したQuickBeamは、商用オープンソースのSEBAMデバイスを市場投入した。
同じ年に、スウェーデンのFreemelt ABが設立された。前述したArcam ABの設立メンバーで、金属AM技術と電子銃の経験を持つチームによって創業されたベンチャー企業である。同社は、オープンソースのSEBAMシステムである「Freemelt ONE」を開発・販売。真空チャンバー内に小さなビルドタンクを備えており、新しい材料の評価や最適な製造パラメーターの特定など、研究開発段階での利用に適する装置として売り出している。
その後、日本の多田電機と日本電子もSEBAM市場に参入した。21年5月には、英ウェイランド・アディティブは「Calibur3」システムを発表し、革新的なプロセスモニタリングモジュールと、EB照射による粉末床(パウダーベッド)の負電荷帯電を中和する技術「NeuBeamプロセス」を備えている。
また、多田電機と日本電子は、14年に設立された金属AMに関する技術研究組合「技術研究組合次世代3D積層造形技術総合開発機構(TRAFAM)」に参画して装置開発を実施した。
その成果として、19年に多田電機は国産初のSEBAM装置「電子ビーム金属3DプリンターEZ300」を発売した。EB溶接技術で培ったEB技術をもとにして、業界最高レベルの造形速度毎時250立方センチメートルと、独自の棒状陰極採用による業界最長の加熱時間となる1000時間を実現している。日本電子はウェイランド・アディティブのSEBAM装置発売と同時期の21年に、1500時間以上使える長寿命カソードとスモーク防止用のヘリウムフリーを実現したSEBAM装置「電子ビーム金属3DプリンターJAM―5200EBM」を発売した。
日本電子は電子顕微鏡や半導体製造用EB描画装置で培った技術により、ビーム照射位置が変わってもEBのフォーカスや形状の歪(ゆが)みを自動補正し、造形エリア内全域において高品質かつ再現性の高い造形を実現している。
SEBAM技術の特性とTiAl製タービンブレード開発の成功要因―パウダーベッドの予熱がもたらす効果
SEBAM技術とセレクティブ・レーザー・溶融(SLM)技術は多くの共通点を持っている。どちらの技術もパウダーベッド内で部品を造形し、粉末を選択的に溶融・凝固させることで部品の造形が行われる。両方の造形技術は複雑な幾何学的形状の部品をCADデータに基づいて生成できる能力を持っている。
しかし、SEBAMとSLMの顕著な違いは、プロセスの実行環境にある。SEBAMは真空中で高温(ホットプロセス)で行われるのに対し、SLMは大気圧の不活性ガス中で室温(コールドプロセス)で行われる。この違いが、両技術の特性を大きく異ならせている。
SLMの場合、金属粉末を急速に溶融させて室温に近い温度に毎秒100万度Cを超える超急速冷却速度で凝固させるため、造形物に大きな熱応力を発生させ、歪ませる。このため、工具鋼などの焼き入れ熱処理によって硬化させる鉄鋼材料、チタンアルミニウム(TiAl)などの金属間化合物に代表される脆い金属、溶接が難しい金属などの加工が難しい金属は、造形中にクラックが発生して欠陥の多い造形物となる。実際に、GE傘下のGEエアロスペースは、当初Ti―Al鋳造の代替手段として、SLMを用いて軍用ジェットエンジン用のTiAl製ブレードの造形を試みたが、熱応力の問題で断念した経緯がある。
その後TiAl製ブレード開発をGEエアロスペースから引き継いだGEアディティブは、SEBAM技術によってTiAl製タービンブレードの製造を行い、19年以来、米ボーイングの「777X型」向けに開発されたエンジン「GE9X」の第5段および第6段の低圧TiAl製タービンブレードを毎年数千枚生産しているという。
SEBAM技術によるTiAl製タービンブレード開発の成功には、いくつかの技術的な要因が寄与している。その中でも特に重要なのは、SEBAMにおいて造形を高真空中で行い、高エネルギー密度を持つEBを、毎秒8000メートルを超える速度で走査することが可能な点である。この技術によって金属ベースプレートが均一な温度に加熱され、その上に敷き詰められるパウダーベッドを最大1100度Cの温度に均一に保持しながら部品造形が行われる。
この工程により、TiAlのパウダーベッドのメルトプール(溶融池)は凝固後にも1100度Cの予熱温度に保たれるため、冷却による熱応力が最小限に抑えられる。このメルトプールの冷却速度を厳密に制御することで、造形部品に蓄積する熱応力(残留応力)を劇的に減少させることができ、SLMと比較して、造形物に発生する熱応力を著しく低減させることができる。これにより、造形物の歪みの発生を抑制し、サポート構造を必要とせずに造形が行えるようになる。
同様に精密鋳造技術においても超急冷凝固だけでは欠陥のない金属部材を造ることは難しく、金属の種類に応じた適切な予熱温度と液相(溶融池)の温度・冷却速度の最適制御が重要である。これらの教訓から、最適なプロセス制御によって高品質な製品を得るためのカギを学び取ることができる。
真空とEB熱源がもたらす効果―安定なメルトプール形成による無欠陥造形
SEBAMは、10億分の1気圧以下の真空容器内に金属製のベースプレートを配置し、その上に金属粉末を100マイクロメートル程度の層で敷き詰めてパウダーベッドを形成し、EBを照射して金属粉末を溶融凝固させる技術である。このEBによる溶融凝固プロセスの制御技術、すなわちメルトプールの形成と制御技術の良しあしによって、造形部品の特性が左右される。
SEBAMの提供する高真空環境は、酸素や窒素がほとんど存在せず、金属を高温に加熱したり、溶融したりしても酸化することがない。また、原料金属粉末の表面に形成する酸化皮膜や、長期保管中に吸着する水分も、真空中の加熱溶融プロセスによって昇華や揮発により除去される可能性も期待される。
このように、SEBAMはチタン、ニッケル、アルミニウム、鉄など、ほぼすべての実用金属製品を、酸化や水素脆化などの原料由来の汚染のリスクを排除する造形環境を実現することが可能である。そのため、SEBAMは最高度のクリーンな造形技術と言える。また、真空中での溶融凝固プロセスにより、ガスを含んだ欠陥(気孔)が形成される可能性がないため、欠陥のない部品を造形することが期待される。
図1に示されるのは、インコネル718合金の粒度分布40マイクロ―100マイクロメートルのパウダーベッド上を、350マイクロメートル径のEBを用いて走査した際のメルトプールの様子を捉えた高速度カメラのスナップショットである。このメルトプールは涙滴(tear drop)形状を保ったまま移動し、周囲のパウダーベッドの巻き込みや巻き上げ、スパッターの発生が見られない。この安定なメルトプール形成は、凝固欠陥のない部品造形には不可欠である。
一方、図2はビデオカメラで撮影したSLM造形中のメルトプールの静止画像を示している。SEBAMとは異なり、メルトプールから激しいスパッターが発生している。
このスパッターはメルトプールの一部から飛散する微小な液滴や、パウダーベッドの粉末粒子がメルトプールに巻き込まれ、さらにメルトプール周囲で発生するガス流によって巻き上げられて半溶融状態の粉末粒子として飛散している。スパッター発生は、パウダーベッドにレーザー照射を行う際、レーザーアブレーション現象を引き起こす機構的な要因がパウダーベッド表面に現れることに起因している。
メルトプールからのスパッター発生は、メルトプールの不安定性を示しており、凝固プロセスの安定性に影響を及ぼし、凝固欠陥の要因となる。さらに、粗大なスパッター粒子の生成は、溶け残り欠陥の発生要因となり、欠陥のない部品造形の確立にとって阻害要因となる。
したがって、SLM技術によって鍛造部品同等以上の力学特性を持った高信頼性を持つ金属部品造形を行うためには、スパッター発生がなく、安定なメルトプールを形成させるレーザー技術と、熱応力の発生を低減させるメルトプール制御技術の確立が基本的に重要である。
この視点から考えるとSEBAM技術は、EBという熱源の本質に由来して、鍛造部品同等以上の力学特性を持った金属部品造形を可能とする3次元(3D)プリンティング技術と考えられる。
SEBAM技術の今後の課題と展望
EBは負の電荷をもった荷電粒子である。加熱されていないパウダーベッドに照射すると粉末が溶融する前に飛散して煙状に舞い上がり(これをスモークと呼んでいる)、パウダーベッドが消失して正常な造形ができなくなる。EB照射により金属は溶融するものと思われているが、これは“バルク”金属の場合であり、金属粉末の場合は溶融せずに飛散して“スモーク”となる。したがって、SEBAMの最も根源的な技術課題は、この“スモーク”発生を制御する金属粉末材料技術を開発することであると言っても過言ではない。
世界的に、スモークを回避するための材料技術開発、SEBAM装置技術開発が活発化している。また、EBの超高速走査を生かして、造形物の大きさ、形状に依存しない、熱応力問題を解決した新しい造形手法に関する研究開発も活発化している。安心安全を担保できる本格的な金属部材造形技術としてのSEBAM技術の今後の発展に大きな期待が寄せられている。
【執筆】
東北大学