-
業種・地域から探す
続きの記事
第51回環境賞
第51回「環境賞」(国立環境研究所・日刊工業新聞社共催、環境省後援)の贈賞式が6月4日に都内で開かれ、環境大臣賞をはじめ、5件が受賞の栄誉に輝いた。いずれの技術も長年にわたり試行錯誤を重ねた成果で、受賞者はこれまでの努力が報われ、感慨無量の表情を見せた。
受賞者紹介
【環境大臣賞】土壌藻類を活用した自然回復技術の実装 / 日本工営、日健総本社、東京農業大学
日本工営、日健総本社、東京農業大学は、従来手法より簡易かつ自然環境に適した形で土砂災害跡地や造成のり面等の早期安定および自然環境の多面的機能、生態系サービスの復旧・創出を図る技術として、BSC(バイオロジカル・ソイル・クラスト)工法について研究開発を重ねている。地球温暖化に伴う豪雨の頻発や大型地震の発生が各地の山林域等での土砂災害を増加させ、自然環境の価値を毀損(きそん)する大きな問題となっている。被災箇所ではその場の自然環境が失われるだけでなく、降雨に伴い跡地から継続的に土砂・濁水が流出して水環境の悪化や利水障害等が発生する。そのため被災跡地では早期に侵食防止・植生復旧を図らねばならないが、その際、周辺自然環境が持つ多面的機能、生態系サービスを十分考慮して実施することが求められているからだ。
BSC工法は、植生遷移の第1段階にあたるBSCが有する「土壌侵食防止」「飛来種子・胞子等の補足」「土壌水分保持」等の機能に着目したもので、世界中に在来種として分布する土壌藻類を既往の種子吹付工と同様な機器・資材等により散布することでBSCを早期に形成し、侵食を防止して、その場の環境条件に合った自然な植生形成を促進する技術。
同工法は土木研究所と日本工営による共同開発技術で、日健総本社が製造する専用土壌藻類資材(BSC-1)が、国土交通省による新技術情報紹介システム(NETIS)において活用促進技術に選定されるなど、社会実装が進められている。
現在、日本各地で実績を重ねており、最近は災害跡地等での航空実播工(ヘリ、無線操縦ヘリ)、緑化種子との併用、既存の自然侵入促進工(無種子の基材吹付工やシート・マット工等)との組み合わせやコラボ商材の開発・販売など、さまざまな形で活用が広がっている。今後も引き続き適用方法や組み合わせ手法等について研究開発を進めるとともに、飛行ロボット(ドローン)による自動散布や維持管理労力・エネルギー消費の少ない都市緑化への応用等の技術開発、また国際協力機構(JICA)支援による海外実績等を活用した海外展開も進めていく。
【優秀賞】廃棄物を減らし循環型社会に寄与するフィルター / industria
industriaは、水の流れだけで高精度濾過を実現する「エレメントレスフィルターFILSTAR」を開発した。一般的にフィルターは目詰まりを起こすたびに廃棄され、廃棄先で焼却処分されてCO2を排出する。「FILSTAR」は、目詰まりを起こさないためフィルターの交換が不要で、繰り返し使用できる。廃棄物を出さないことからCO2排出の削減に寄与する。
開発の背景は、加工時に使用する加工液から切りくずのような細かい異物を回収し、常時クリーンな液を使用するため。「FILSTAR」は三つのブロックに分かれた3層構造で、ブロックごとに異なる流速で遠心力を生じさせて固液分離を行う。一般的なサイクロンフィルターは1層構造で、下部にたまった回収物が浮き上がることを防ぐために、下部から液を常時排出する必要があった。「FILSTAR」は、3層構造で回収物の巻き上がり現象を防ぎ、下部から液を排出せずに、10マイクロメートル(マイクロは100万分の1)の微粒子を98%以上回収する高精度濾過を実現した。これにより、フィルターに入る液体を全量処理し、処理段階でも廃棄する水を出さない。
廃棄物や廃棄水の削減のほか、人によるメンテナンス作業の軽減にも貢献する。例えば、工業塗装を行う工場では、塗装に使用する液の清掃時間を短縮し、液の交換頻度を削減した。その結果、液体清掃に要する人件費と液体の排水費を削減することにつながり、年間108万円のコストカットを達成した。
現在は、主に自動車ボディーの塗装前工程に多数導入され、CO2削減に寄与している。車のボディーを塗装する前は、付着したゴミなどをきれいに洗い流す工程がある。従来は消耗品となるフィルターで濾過が行われていた。消耗品フィルターを「FILSTAR」に置き換えることで、フィルター交換が不要となり、廃棄物とCO2排出の削減を実現した。
【優良賞】在来樹種植栽による生物多様性の保全 / 積水ハウス、琉球大学、シンク・ネイチャー
積水ハウスは、都市部での住宅を通じた生物多様性保全に寄与する、生態系に配慮した「5本の樹」計画と名付けた造園緑化事業を進めている。その地域の気候風土に合ったさまざまな生きものが利用可能な在来樹種を中心とした植栽にこだわった取り組みだ。2001年より行ってきた「5本の樹」計画開始からの累積植栽本数は22年度までの実績で1900万本に達した。
日本全体での「5本の樹」計画の効果検証を行うため、19年から琉球大学久保田研究室、シンク・ネイチャーと共同で、ネットワーク型の緑化が、都市の生物多様性にどの程度貢献できているかの定量評価を進めてきた。21年に「日本の生物多様性地図化プロジェクト」をもとに、積水ハウス「5本の樹」計画の20年間で植栽した累積1709万本の樹木データを分析することで、生物多様性保全・再生に関する定量的な実効性評価を実現した。
【優良賞】もみ殻の固形燃料化技術 / トロムソ
トロムソは「もみ殻・農業廃棄物に付加価値を与えること」をテーマとして事業活動に取り組んでいる。日本国内では毎年約210万トンのもみ殻が発生し、そのうちの約75万トンは未利用のまま廃棄されていると言われている。毎年廃棄されているもみ殻の有効活用に貢献するもみ殻固形燃料装置「グラインドミル」を開発・製品化した。
グラインドミルは電力またはトラクターPTOによる動力によって稼働する固形燃料の製造を行う装置で、もみ殻を棒状またはらせん状の固形燃料、パウダー状にすりつぶしたもみ殻(すりつぶしもみ殻)に変換する。バイオマスであるもみ殻のみを原料としており、燃焼によって温室効果ガス(GHG)を新たに排出しない「カーボンニュートラル」な燃料。装置はシンプルな構造のため、専門知識・スキルがないオペレーターにも取り扱いが可能。特に発展途上国における適合性が高い装置だ。
【優良賞】ラベル台紙の水平リサイクル / 日榮新化、東洋紡、シオノギファーマ、トッパンインフォメディア、三井物産ケミカル、ヤマトボックスチャーター
日榮新化、東洋紡、シオノギファーマ、トッパンインフォメディア、三井物産ケミカル、ヤマトボックスチャーターの6社は、ラベル台紙に使用される「剥離紙」をマテリアルリサイクル可能なPET合成紙製の「リサイクル専用台紙」に置き換えるプロジェクトを展開している。サプライチェーンに関わる各社が協力することで、「ラベル台紙の廃棄ゼロ」の実現に向け取り組んでいる。
2023年3月に、シオノギファーマが生産・販売する医療用医薬品に同ラベルを初採用。24年4月に、プロジェクト専用のリサイクル工場「日榮新化三重RP工場」が稼働を開始し、回収・リサイクルを量産レベルで社会実装した。
「リサイクル専用台紙」には、東洋紡製の白色発泡PET合成紙「カミシャイン」を使用する。回収業務は、ヤマトボックスチャーターが手がける「JITBOXチャーター便」のサービスを活用し、有価回収スキームを構築した。