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第51回環境賞
第51回「環境賞」(国立環境研究所・日刊工業新聞社共催、環境省後援)の贈賞式が6月4日に都内で開かれ、環境大臣賞をはじめ、5件が受賞の栄誉に輝いた。いずれの技術も長年にわたり試行錯誤を重ねた成果で、受賞者はこれまでの努力が報われ、感慨無量の表情を見せた。
次世代に“住みやすい地球”継ぐ責務
贈賞式では来賓の八木哲也環境副大臣が「第6次環境基本計画では生活の質を高めるウェルビーイング(心身の幸福)の実現を目標に掲げた。皆さんの技術は国民のウェルビーイングにも大きな力となる。時代の要請にマッチしている」と受賞者らにエールを送る一方、「地球環境は温暖化で厳しい状況にある。子や孫の世代に住みやすい地球を残す責務を果たすべく、環境省としても努力していきたい」と語った。
渡辺知保審査委員長(長崎大学学長特別補佐)は、「環境賞が始まった半世紀前は環境ではなく公害問題と言った時代。そこから環境問題は分野が広がり、社会、地球全体で取り組む課題となった。特に、優れた技術とその技術を普及に導く社会受容がないと解決できない状況だ」と賞の歴史を振り返りつつ技術の重要性を強調。「賞には多くの応募があり、審査では環境問題の性質が変化していることがうかがえた。どんな問題にも、解決には技術を普及させることが必要。皆さんにも社会受容を進める努力をしてもらいたい」と訴えた。
木本昌秀国立環境研究所理事長は「応募件数が昨年の48件から今年は72件に増え、過去最高になった。賞と技術の重要性が増していると感じる」としつつ「環境問題は技術の後押しがないと解決できない。技術への関心度が増す中で、受賞した各技術は素晴らしい」とたたえた。
受賞者を代表して環境大臣賞に輝いた日本工営の冨坂峰人沖縄支店技術部部長は「人と人とのつながりで開発できた。関わったみなさんに感謝したい」と喜びを語った。受賞技術は沖縄県の赤土問題受けて発想したもので、土壌藻類を土木資材として土砂災害跡地などに活用し、環境条件に合った自然な植生形成を促進する。従来の方法と比べ安価で「容易に実施できることが特徴」という。
環境賞は、環境保全や環境の質の向上に貢献し、時代の要請に応える優れた技術・製品開発や調査研究、実践活動などを表彰してきた。1974年に創設され、環境分野での顕彰制度として半世紀を超える歴史を持つ。
講評/審査委員長 渡辺 知保 氏
昨年度で事業開始から半世紀の節目を迎えた本賞であるが、パンデミックの期間を脱しつつあることも手伝ってか、72件という近年にない多数の応募が寄せられた。この中から書類審査、ヒアリングによる最終審査を経て、大臣賞1件、優秀賞1件、優良賞3件を選んだ。最終的に、生物多様性の保全・脱炭素化・循環社会を念頭においた提案がそろったのは、環境問題自体の変遷を反映していると言えるかもしれない。
環境大臣賞には、日本工営ほか2団体の提案「土壌藻類を活用した自然回復技術の実装」を選んだ。豪雨災害などさまざまな理由で植生が失われた場所には、侵食防止や生態系保全の目的で植生を回復させる必要がある。通常は植生の種子などを吹き付ける工法が用いられるが、土壌藻類を散布し、地表面にコロニーを形成させることによって回復を速めるという工法であり、着想ならびに技術開発の独創性と実績が高く評価された。用いられる土壌藻類は世界の広い範囲で分布が認められており、地域生態系へも配慮した世界的な展開が期待できる。
優秀賞にはインダストリアによる「廃棄物を減らし循環型社会に寄与するフィルター」が選ばれた。工業廃液中の不純物を除去して再利用するために、遠心力を利用してゴミを除去するサイクロン・フィルターを3層構造にし、遠心力と重力沈降の併用を可能にして除去性能・効率を格段に向上した。交換部品も不要であり、独創性、除去効率、実績が高く評価された。今後、さらに適用範囲が広がっていくことへの期待も大きい。
優良賞には3件を選んだ。積水ハウスほか2団体による「在来樹種植栽による生物多様性の保全」は、住宅の庭に地域の在来の樹種を植え、鳥や昆虫を惹きつけることで地域の生物相の豊かさを取り戻そうという試みであり、とりわけ都市環境における多様性保全を意識した取り組みとして評価された。大学との共同により、効果の検証にも着手しており、今後のデータの充実にも期待が集まった。
日榮新化ほか5団体の「ラベル台紙の水平リサイクル」は、従来廃棄・焼却されるだけであった台紙を有価回収、リサイクルするもので、多くの業種との共同作業でユーザーに負担をかけない形でのリサイクル技術とシステムとを構築し、大規模な稼働も可能になっている点が評価された。
トロムソの「もみ殻の固形燃料化技術」は、大量に発生するもみ殻を粉砕・圧縮することで固形燃料とする装置を開発したもので、すでに途上国でも実績をあげている。廃棄バイオマスの活用と同時に、森林伐採の削減にも効果が見込まれ、シンプルながら有用な技術として評価された。
例年のことであるが、受賞にはあと一歩だったが高い評価を得た提案や、将来性が強く期待される提案がいくつもあった。今回受賞を逃した提案についても、実績や改良を重ねつつ再びチャレンジしていただきたい。最後に、応募していただいた全ての企業・団体の皆さんに感謝申し上げる。
ごあいさつ/国立研究開発法人 国立環境研究所 理事長 木本 昌秀
第51回「環境賞」を受賞された皆さま、誠におめでとうございます。
本年度の環境大臣賞に輝いた「土壌藻類を活用した自然回復技術の実装」をはじめ、いずれも関係者が独自の着想を生かして継続的に取り組み、創出されたものです。こうしたたゆまぬ活動が、環境問題の解決において重要であることを改めて認識するとともに、関係の方々の日頃の真摯(しんし)な努力に対し、深く敬意を表したいと思います。
国立環境研究所は、幅広い環境研究に学際的かつ総合的に取り組む研究所であり、1974年の発足後、本年で創立50周年を迎えます。これまでさまざまな環境問題に対応した研究活動などを通じて科学的知見を創出・提供して参りました。環境問題は、行政や研究機関のみならず、国民や事業者などのあらゆる主体が連携して対応すべき重要な課題であるとの認識から、日刊工業新聞社とともに環境賞を主催させていただいております。
国の環境基本計画においても6年ぶりの改定により、環境・経済・社会の課題を統合的に解決するような横断的な戦略が重要視されており、官民が連携した大胆な取り組みを展開することが必要とされています。この環境賞がわが国と世界の環境保全活動の発展に寄与することを期待するとともに、私たちも環境研究の推進や社会との橋渡しに努め、持続可能な社会づくりに皆さまと手を携えて取り組んで参りますことを申し上げ、私からのごあいさつといたします。
ごあいさつ/日刊工業新聞社 社長 井水 治博
第51回「環境賞」を受賞された皆さま、誠におめでとうございます。本年度は、土壌藻類を活用した自然回復技術や生物多様性の保全、廃棄物を減らす循環型社会への取り組みや水平リサイクルの実装など、いずれも脱炭素社会や循環型社会の形成、生物多様性につながる次代の潮流を見事に捉えた技術や製品など72件の応募がありました。
本賞は公害問題への対策が急務だった1974年に創設され、以来、国内外の環境問題と歩みを一つにして参りました。数ある環境分野の顕彰制度の中でも、歴史と権威を兼ね備えた賞として産業界や大学などから高い評価を得ています。
政府は2050年までに温室効果ガスの排出を実質ゼロにすると宣言しました。気候変動サミットでも2030年度の温室効果ガス削減目標を13年度比46%削減することを目指し、さらに50%に向けて挑戦を続けると表明しました。日刊工業新聞社も、世界の主要報道機関で構成する「SDGsメディア・コンパクト」に加盟し、SDGsに関する世論喚起と事業活動を進めています。
国内では能登半島地震をはじめとする自然災害、海外ではロシアのウクライナ侵攻の長期化など、グローバル社会の先行きは混沌(こんとん)としています。そうした中、受賞各社の皆さまが、SDGsの目標とする経済発展と環境課題解決を両立させるけん引役を担っていただけるよう、一層のご活躍を確信しています。
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第51回「環境賞」審査委員
【委員長】
長崎大学大学院プラネタリーヘルス学環長 渡辺 知保
【委員】
環境省総合環境政策統括官 鑓水 洋
国立環境研究所理事長 木本 昌秀
山梨大学名誉教授 新藤 純子
東京都立産業技術研究センター名誉フェロー 長谷川 裕夫
日本工業大学理事 松野 建一
東京工業大学名誉教授 本川 達雄
九州大学名誉教授 安河内 朗
電気通信大学教授 山本 佳世子
日刊工業新聞社日刊工業産業研究所所長 玄蕃 由美子
【専門審査委員】
環境省環境研究技術室長 奥村 暢夫
国立環境研究所企画部長兼環境情報部長 東 利博
(2024年3月時点、順不同、敬称略)
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