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GX支える北の大地のモノづくり力
札幌に世界から投資・人材呼び込む
ゼロカーボン北海道は2050年を目標に道内のCO2(二酸化炭素)排出量を実質ゼロにしようという取り組み。20年3月、鈴木直道知事は政府がゼロカーボン宣言を発する半年前に宣言し、全国に先駆けた動きとして注目された。当初はゼロカーボン計画と産業との結びつきがイメージできなかったものの、3年が過ぎた今、具体的な動きが出始めてきた。
まず、札幌市に世界のGX投資や人材を集積し、世界の金融センター都市を目指すコンソーシアムの設立だ。金融庁や経済産業省など中央省庁をはじめ、札幌市、北海道、北海道大学などの地元機関、三菱UFJフィナンシャル・グループといったメガバンクなど計21者で構成。政府はGXの実現に向け、今後10年間で150兆円超の官民投資を札幌に呼び込む。
洋上風力発電では「再エネ海域利用法」に基づく促進区域の指定に向け道内5区域が選ばれた。石狩市沖、岩宇・南後志地区沖、島牧沖、桧山沖、松前沖がそれぞれ指定を目指す。道でも洋上風力に関する支援策を打ち出しており、23年度は道内企業の参入可能性調査、資格取得費用などへの助成、高校や高専への出前講座などを行っている。
メッセージ/北海道のポテンシャル最大限発揮
本道経済は、エネルギーや原材料などの価格高騰が長期化する中、円安基調も相まって、事業者の方々を取り巻く環境は大変厳しいものとなっています。
また、全国と比べ、総生産に占める製造業の比率が低い産業構造であり、足腰の強い地域経済の構築に向けては、波及効果が高いものづくり産業やデジタル、脱炭素、宇宙・航空産業など、さらなる成長が期待される分野の振興を図ることが重要です。
道では、次世代半導体の製造を目指すラピダス社とともに挑戦していくパートナーとして、2025年のパイロットライン稼働、27年の量産製造開始に向け、必要なインフラ整備や人材育成などについて、国や千歳市、経済団体などと緊密に連携して取り組んでまいります。
また「北海道データセンターパーク」として、再生可能エネルギーを活用したデータセンターやデジタル関連企業、デジタル人材の誘致・集積を図り、「インフラ」「企業」「人」が一体となったデジタル関連産業の一大拠点を創出する取り組みを進めています。
さらに、食関連産業における機械化ニーズに対応した製品開発や自動車産業への参入促進、サプライチェーンの強靱化に向けた生産拠点の誘致推進、宇宙産業を担う人材の確保やビジネス機会の拡大などの取り組みを進めており、引き続き、北海道のポテンシャルを最大限発揮しながら、本道経済の活性化に取り組んでまいります。
卓越した技術力、ユニークな製品開発力が道内経済をけん引
中山機械/鏡面加工の受託事業に進出
中山機械(北海道北広島市、西村隆朗社長)が鏡面加工の受託事業に進出する。面粗度0・1マイクロメートル(マイクロは100万分の1)以下、平面度0・05ミリメートル以下の加工精度に対応可能で、10年以内に売上高10億円を目指すという。
鏡面加工は「当日の気温や湿度、ステンレス製パーツの傾き角度、クーラント処理などで結果が変わる」(西村社長)ため、ステンレス製パーツで1年間かけて試行錯誤。安定して精度を出せるようになり事業化を決めた。鏡面加工が必要な分野は自動車や電機製品、医療機器など多岐に渡る。西村社長は「国内外にかかわらず営業展開したい」と話す。
中山機械は1912年創業の老舗。各種クレーンや台車などの製造で培った大型機械加工や精密組み立て技術に強みを持つ。今春オープンした屋内型野球場「エスコンフィールドHOKKAIDO」向けに、重量1万トンの開閉式屋根を動かす台車を開発・製造するなど技術力に定評がある。
エア・ウォーター/バイオメタン活用 エネ供給モデル構築
エア・ウォーターは家畜ふん尿由来のバイオガスに含まれるメタンを利用した、地産地消型エネルギー供給モデルの構築を進めている。2022年10月に日本で初めて液化バイオメタン(LBM)の製造と加工に成功して以来、北海道十勝管内でさまざまな実証実験などを続けており、カーボンニュートラル技術の最先端の成功事例として注目を集めている。
酪農家などが所有するメタン発酵設備(バイオガスプラント)では、家畜ふん尿から取り出したバイオガスがあり、そのうちの60%にメタンが含まれているという。メタンにはもともと二酸化炭素の25倍もの温室効果があるとされ、このバイオガスは主に発電用として自家消費されてきた。
21年に着工し、昨年完成したバイオガスをLBMに加工するセンター工場は、純度99%以上のメタン製造を実現。22年10月にLBMを初出荷し、よつ葉乳業十勝主管工場で、液化天然ガスの代替燃料として利用する実証試験を成功させた。23年には、都市ガス企業の帯広ガスと共同で、バイオメタンを活用して都市ガスを供給する共同実証実験を進めている。こうした一連の実証実験は、そのままサプライチェーンモデルの構築につながり、北海道のゼロカーボン計画の実現にも大きく寄与する。
旭イノベックス/濡れたタオル素早く乾燥
顔を洗ってタオルで拭いて、いつも通りに掛けておけばほどなく乾燥―。こんな商品が好評を博している。旭イノベックス(札幌市清田区、星野幹宏社長)が開発した電気タオル・ウォーマーがそれ。有りそうで無かったユニークな新商品がヒットしている。
「ホットeラック」は直径25・4ミリメートルのパイプによるタオルハンガー。一見すると、単なるタオル掛けにしか見えないが、このパイプが約42度C(室温20度C、タオルが掛かっていない状態)の温熱を発して濡れたタオルを素早く乾燥させる。住宅の壁に直付けし、家庭用電源を使用。スイッチをオンにしてタオルを掛け、消し忘れても3時間後に自動で電源が切れる安全安心機能も付いている。
タオルの幅に合わせ、長さは350ミリメートル、450ミリメートル、550ミリメートルの3種類から選択可能。色は白、黒、メッキなどがあり、特注にも応じる。
アミノアップ/機能性食品の原料を開発
植物など自然由来の素材から人間の健康維持や免疫力向上を促す機能性食品原料を開発して46年。アミノアップ(札幌市清田区、北舘健太郎社長)は世界的にも唯一無二の存在として異彩を放っている。
現在、開発製造している原料は5種類。キノコの中で担子菌類に属するシイタケの菌糸体を素材とする「AHCC®」、ライチから抽出したポリフェノールを低分子化する「オリゴノール®」、アスパラガスのエキスを濃縮する「ETAS」、青シソの葉を原料とするシソエキス、大豆イソフラボン抽出物とキノコの菌糸体培養抽出物を発酵させる「GCP®」。このうち世界的に知られるのが「AHCC®」だ。1986年に開発されて以降、すでに約100件に及ぶ研究論文などが発表されている。他の原料も含めると開発素材に関する論文が約350件、特許は125件にものぼるという。
電制コムテック/ロングセラー 電気式人口咽頭
電制コムテック(北海道江別市、田上寛社長)の電気式人工咽頭「ユアトーン」が、改良を重ね続けて初版の発売から25年を迎えた。現在でも需要は多く「さらに使いやすくしていく」(田上社長)意向だ。ユアトーンはがんなどで咽頭を摘出し、声を出すことができなくなった人のために開発した。声帯の代わりに振動音を作り出し、唇の形で言葉に変換する仕組み。声帯の代わりに振動音をつくる機能を持ち、利用者は音が最も響くのどの部分にユアトーンを押し当てて話をする。
2023年に入ってからは発話ボタンの位置を変更、また、声の抑揚がつかない標準型と、抑揚をつけられる高機能型も発売。進化を止めない同社の看板製品となった。喉頭がんなどによる喉頭の摘出手術は国内で年間約2000件以上と言われ、うち半数以上の人がユアトーンを利用しているという。