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歯車式減速機の課題と展望
変・減速機とは、歯車などを使ってモーターなどの原動機の回転速度を最適な速さに調整・減速するとともに、速度に反比例するかたちで回転力(トルク)を高める装置のことである。回転速度を調整する際の回転数比が特定されているものを減速機、ある範囲で回転数比を変化させられるものを変速機と呼ぶ。モーターとそれによって動く装置の間に変・減速機を設置することで、必要な回転速度、トルクを得ることができる。
このため、モーターあるところ変・減速機ありと言っても過言ではない。工場内の各種搬送ライン、ロボット、クレーンなどの産業機械から、一般家電、遊戯装置、医療・介助機器、船舶のスクリュー、飛行機のプロペラなどにも幅広く使用される。ここでは主として工場設備で使用される歯車式減速機について、基本的な解説と最近の世界動向を踏まえた課題と展望について述べる。
変・減速機の機構
歯車式減速機は、平行軸型、直交軸型に分類できる。平行軸型は、入力軸と出力軸の位置関係が平行になっている構造で、その多くが比較的シンプルな構造のため安価でかつ高効率という特徴があり、最も多く利用されているタイプの減速機である。
また平行軸型の中でも、入力軸と出力軸を同一軸上に配置させたものを同心軸型と呼ぶ。同心軸型は胴径寸法をコンパクトに抑えられるメリットがあるため、搬送装置に加えロボットや工作機械など減速機そのものを機械装置の内部に取り込む場合にも多く用いられる。直交軸型は、入力軸と出力軸の位置関係が直交している構造で、機械装置に取り付けた際の出っ張り寸法を抑え、設置面積を抑制できるメリットがあることから、主に工場内の搬送装置に用いられることが多い。
平行軸型、直交軸型ともに、減速機が電動モーターと一体化されたギアモーターとして多くのメーカーで商品化されている。
市場動向
日本電機工業会の統計によると、新型コロナウイルス感染症による行動制限は緩和に向かい、世界経済が正常化に向けて動き始めたことで、特に半導体・電子部品関連業界の活発な設備投資需要が全体をけん引し、2022年の産業用汎用電気機器の出荷実績は、統計を公表している10年度以降で過去最高の出荷金額となった。
一方で企業収益は、ロシアによるウクライナ侵攻、世界的な物価上昇、エネルギー価格の高騰などにより回復ペースが遅れている。国内経済においては、緩やかな持ち直しにより企業の設備投資に底堅さがあるものの、円安に伴う原材料価格の高騰やさらなる物価上昇、世界経済の減速といった下押し要因が懸念されている。
技術開発動向
このような世界情勢を背景とした脱炭素社会実現に向けた省エネルギー化の流れが欧州を中心に加速している。日本では15年から始まった効率規制に合致するプレミアム効率(IE3)モーターと減速機の組み合わせによる対応が主流である。このような効率規制の動きは電力消費量の増加が著しい新興国でも進んでおり、また欧州を中心にさらなる高効率となるIE4をも飛び越えたIE5の時代に突入しつつある。
当社では、各国の効率規制に対応していくとともに、物流システムの高速化に対応すべく低減速比に特化した「ベベル・バディボックス減速機Hシリーズ」において、従来のIE3モーター仕様に加えIE5モーター仕様を開発した(写真1)。今後はモーター単体の効率規制を満足するのはもちろんのこと、ギアモーター全体としての高効率化を実現するために、歯車の設計、潤滑剤の開発と選択、軸受とオイルシールの損失低減などに取り組み、あらゆる用途に提案可能な高効率ギアモーターの製品群の商品化を進める。
また二つ目の大きな流れは設備の自動化である。欧州や日本などの労働人口の減少や、中国やアジアなどの人件費高騰を背景に、自動化ニーズが増加の一途をたどっている。この自動化に欠かすことができないのが産業用ロボットである。ロボットに用いられる精密制御用減速機は、急峻(きゅうしゅん)な加減速動作を繰り返し行っても損傷することがない高い耐久性、および高い繰り返し位置決め精度と回転軌跡精度を実現するため、バックラッシュ・角度伝達誤差が極めて小さいことが要求される。耐久性に関して減速機メーカー各社は質量当たり、体積当たりでそれぞれ、どのくらいの出力トルクを許容できるかについて激しい競争を行ってきた。歯車の設計技術に加え、歯車・軸受熱処理の高度化技術が実用化されている。また高精度化に関しては、超高精度歯車加工技術とそれを支える精密測定技術が開発・実用化されており、まさに歯車の最先端技術が集約された製品となっている。またロボットがAGV・AMRと呼ばれる無人搬送車に搭載され、ロボット自身が自走するような使われ方も増えており、ロボットの省電力を目的とした減速機の高効率化、軽量化の重要性が増している。