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投資家ー人的資本・DX活用に注目
DXプラチナ企業 トラスコ中山など3社
DX銘柄2023の選定プロセスは、東証上場会社約3800社に「DX調査2023」を実施して回答した448社のうち、「DX認定」を取得している企業を対象とした。DX調査の選択式項目と財務指標によるスコアリングで一次審査を行い、DX調査の記述回答(企業価値貢献、DX実現能力)で二次審査と最終選考を行った。
DX銘柄2023には清水建設、大日本印刷など32社が選出され、その中からDXグランプリ2023としてトプコンと日本郵船の2社が選ばれた。新設のDXプラチナ企業2023―2025には、トラスコ中山、中外製薬、コマツの3社が選定された。銘柄選定以外の企業で、DXを通じた企業価値向上で注目される取り組みを行うDX注目企業2023には19社が選ばれた。
経産省と東証は2015年から、中長期的な企業価値向上や競争力強化のために、経営革新や収益水準・生産性の向上をもたらす積極的なIT利活用に取り組んでいる企業を「攻めのIT経営銘柄」として選定してきた。20年からはデジタル技術を駆使してビジネスモデルなどを抜本的に改革し、新たな成長・競争力強化に取り組む企業を「DX銘柄」として選定している。
経産省は20年に、デジタル技術による社会変革を踏まえた経営ビジョンの策定・公表といった経営者に求められる対応をまとめた「デジタルガバナンス・コード」を策定。企業がデジタルガバナンス・コードに対応していることを認定する「DX認定制度」を設け、DX銘柄の選定にはDX認定の取得を条件とした。
22年に見直しを図り、現在は「デジタルガバナンス・コード2・0」に改訂されている。改訂にあたっては、デジタル人材の育成・確保をDX認定の基準に追加したほか、DXとサステナブル・トランスフォーメーション(SX)、グリーン・トランスフォーメーション(GX)との関係性を整理するなどした。
DXで持続的な企業価値向上
5月に行われた「DX銘柄2023選定企業発表会」では、DX銘柄2023評価委員長の伊藤邦雄一橋大学名誉教授が「DXをてこに企業価値を持続的に成長させる」を講演した。
その中で、持続的企業価値の観点から投資家が今、最も関心を寄せるテーマとして、①人的資本の育成と活用②DX構想力と活用力③将来の姿からバックキャスティングしたイノベーション創出力―を挙げた。これらを投資家との対話や統合報告書で価値創造ストーリーとして組み立てていくことが重要になると指摘する。
23年3月期決算以降、上場企業には有価証券報告書における人的資本の情報開示が義務化された。人材を資本と捉え、その価値を最大限に引き出すことで中長期的な企業価値向上につなげる「人的資本経営」の重要性が高まっている。
「DX調査2023」では、DX銘柄に選定される企業は、デジタルガバナンスコードに添った取り組みが進んでいることが明らかになった。DX注目企業、DX認定取得済みの企業も同様の傾向にある。
また、DX銘柄企業とDX認定未取得企業を比較すると、「組織づくり・人材企業文化に関する方策」のうち、人材育成関連の複数の項目において大きな差がみられ、DX銘柄企業では人材の育成・確保に向けた取り組みが進んでいる。
さらにDX銘柄企業の75%が株主資本利益率(ROE)5%以上10%未満であり、22%が10%以上。デジタル・ガバナンスコードに添った取り組みによって稼ぐ力の強化に効果が出ているという結果になった。
中小企業版「DXセレクション」
DX銘柄の選定によって目標となるモデルや好事例を広く波及させ、IT利活用の重要性について経営者の意識改革を促してきた。しかしDX銘柄の対象となる上場企業は大企業が主体。中堅・中小企業がDXに向けたアプローチを考えるとき、参考にしにくい場合もある。
こうした背景を踏まえ、21年度に中堅・中小企業のモデルケースとなる優良事例を発掘・選定する「DXセレクション」を創設した。地域や業種内での横展開を図り、中堅・中小企業のDX推進と各地域での取り組みの活性化につなげていく狙いだ。
併せて、DXの推進に取り組む中堅・中小企業の経営者や、これらの企業を支援する機関が活用することを想定した「中堅・中小企業等向け『デジタルガバナンス・コード』実践の手引き2・0」をまとめた。6月には中小企業庁が中小企業・小規模事業者向けに人的資本経営を後押しするガイドライン(指針)も策定している。
自社のパーパス(存在意義)やESG(環境・社会・企業統治)、脱炭素・気候変動、人的資本経営などさまざまな経営課題への取り組みが進む中で、サプライチェーン(供給網)の中核を担う中小企業の対応も急務になっている。