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創薬への道ひらく ライフサイエンス分野のベンチャー創出
日本は海外に比べ起業文化が根付いていなかったが、近年ではさまざまな分野のベンチャーが増えている。大学や研究機関の研究成果を基にベンチャーを立ち上げる動きも多くなり、政府は支援策を打ち出している。その中のライフサイエンス系ベンチャーも増加傾向にあり、創薬につながると期待されている。ベンチャー創出を促すためには政府や大学の支援が必要だが、これまでどのような施策を打ち出してきたのだろうか。
大学発ベンチャー倍増
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東京大学発ベンチャー企業のユーグレナ
スタートアップを含むベンチャーの存在は雇用創出に大きな役割を果たす。ユーザベース(東京都千代田区)が作る情報サイト「INITIAL」によると、2022年の国内スタートアップの投資額は13年比で約10倍の8774億円に成長している。
経済産業省が公表する国内の大学発ベンチャーデータベース(DB)では、22年10月時点での大学発ベンチャーは14年度に比べて3782社と倍増している。その中で業種別に見た際に「バイオ・ヘルスケア・医療機器」分野は1126社で3分の1を占める。
国内のバイオベンチャーでの成功例としてペプチドリームやユーグレナなどがある。両社の時価総額は1000億円以上。ともに東京大学発のベンチャーだ。大学別で見たベンチャー数で東大は1位。04年から産学連携本部(現産学協創推進本部)、東京大学TLO、東京大学エッジキャピタルパートナーズの3者で、学内の研究者や学生への起業相談やバイオサイエンス系ベンチャーが使えるインキュベーション施設の整備・運営、アントレプレナー教育の提供などを実施してきた。各大学は研究成果の発信だけでなく、成果の社会実装を後押しする取り組みが求められている。
国も大学発スタートアップへの支援に積極的に動き始めた。岸田文雄首相は22年からスタートアップへの投資を重点投資分野の柱に位置づけ、資金や税制などでの政策を講じている。岸田首相は23―27年度のスタートアップ育成5カ年計画ロードマップにおいて三つの柱を掲げた。
その一つである人材・ネットワークの構築の項目では、ディープテック企業を対象に5年間で1000億円の基金を組成。27年度までに大学からのスタートアップ事業化の支援件数5000件を目標に掲げている。
さらに資金供給面では、政府系の産業革新投資機構(JIC)や中小企業基盤整備機構のベンチャーキャピタル(VC)への資金機能を強化するなど施策を打ち出している。
創薬VB基金 3000億円追加
コロナワクチンを開発したモデルナなど、近年の新薬の多くは創薬ベンチャーが開発している。だが新薬には多額の資金が必要になる。ロードマップでは、日本医療研究開発機構(AMED)による創薬ベンチャーへの支援強化として10年間分3000億円の基金を積み増し、感染症関連以外で資金調達が困難な創薬分野も含め支援する。
大規模な開発資金の供給源不足の解消に向け、創薬に特化したハンズオンでの事業化支援を行う認定VCの出資要件として、前臨床や治験の創薬ベンチャーへの実用化開発を支援する。
文部科学省は大学発スタートアップ創出に向けた支援策に22年度補正予算で988億円を計上。国内の拠点都市や地域の中核大学が持つ技術シーズに対し、海外の専門家からのメンタリングなどと合わせ、国際市場に展開できるかを検証するプログラムを創設した。国際市場に展開できるスタートアップ創出に取り組む。
ライフサイエンス分野に強みを持つ関西地域では、ベンチャー支援の取り組みが広がっている。大阪府はライフサイエンス分野での起業や研究機関の事業化を推進する。6月に成長産業支援事業を手がけるフォースタートアップス(東京都港区)が大阪府の「ライフサイエンスアントレプレナーシップ人材育成及び事業化促進事業」に採択。大学でライフサイエンス分野の基礎研究を行う学生などの研究者を対象に、研究支援の事業化に向けた勉強会や事業計画案の投資家への発表イベントなどを実施する。
経営人材の確保支援
国や自治体、大学、VCからの支援には、施設や設備の利用、ビジネス計画に関する助言などが多い。一方で研究者の成果を社会実装するには経営人材の問題が立ちはだかる。大学発ベンチャーを把握する大学の中で、経営人材確保のための支援を実施している大学は全国で約6割。起業数が増える中で、大学はこうした経営人材の確保に向けた支援策が必要になるだろう。
大学発ベンチャーは今後も増え続けるとみられる。新型コロナウイルス感染症は一定の収束をみたが、これを教訓にライフサイエンス研究への需要が高まる。大学の研究室が起業するケースも多くなるだろう。一方で資金や場所の確保、経営などを考えると起業への一歩を踏み出せない研究者が多い。政府や各大学が打ち出す支援策を活用することで、基礎研究の成果を社会実装につなげることが求められる。