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果実商で創業の千総 堺市内にジャム新工場
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西辻宏道・千総社長と10日に開店したジャム工場兼ジェラートカフェ「NANASOFUTA」
果物のある暮らしを提案したい―。7月10日、堺市美原区にジャム工場兼ジェラートカフェ「NANASOFUTA(ナナソフタ)」を開店した西辻宏道さんの果物店時代からの変わらない志だ。社長を務める千総は1887年に大阪で果実商として創業。卸から小売りに転じて高度経済成長期に堺市の泉北ニュータウンに出店した。
当初繁盛したが、近隣に大型商業施設が建つと客足は停滞。ライフスタイルの変化で果物離れも深刻化した。約20年前、資金繰りに苦しむ中で事業を承継した西辻社長が、先代社長の得意客向け”裏メニュー”にヒントを得て、食卓で手軽に使える果物”ジャム”づくりに起死回生策を求めたのが、食品製造業に転じたきっかけだ。
果物のプロを自負する西辻社長がこだわるのは、品種や産地を明示して、その特色を生かした商品づくり。10年ほど前から、自らも果樹栽培を手がけるほか、さかい新事業創造センター「SーCube」にラボを設けて商品開発に力を注いだ。
コンセプトや開発に取り組む姿勢が評判となり、全国の農産地からジャムのOEM(相手先ブランド)生産依頼が相次いだ。いよいよ製造能力が限界に達し、増産と衛生管理の厳格化、自動化による生産性改善を狙う設備投資を計画。「地域の人が集い新たなモノづくりが生まれる場所」(西辻社長)との願いから、工場がのぞけて果物を楽しめるカフェとオープンキッチン付きフリースペースを備えた拠点を構想した。
公庫や会議所が後押し
資金調達に際しては日本政策金融公庫(日本公庫)堺支店が資本性ローンを活用して、紀陽銀行と協調融資を実施。日本公庫の五十嵐一浩堺支店長が「将来性に期待できた理想的な協調だ」と振り返るように、建設中の資材高騰で投資額が膨らむ中でも、両者が足並みをそろえて支援する体制を崩さなかった。
堺商工会議所で同社の経営支援を担当してきた有馬洋一総務課長は「伴走しがいのあるランナーだ」と表現する。金融機関への誠実な対応や社会的責任に対する思いに、周囲が共感していると言う。
新工場資金の一部にはクラウドファンディング(CF)も活用。安心で安全な食を提供する拠点として一般消費者からの期待も集める。CFの利用には直接、消費者の声を得る狙いがあった。西辻社長は「一人一人が前に出られる会社に。(裏方ではなく)ジャム職人を消費者とつなぎたい」と夢を描く。今秋は堺のオープンファクトリーにも挑戦して地域との交流の創出を目指す。
堺・泉州でオープンファクトリーが始動
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堺地区のオープンファクトリー、2023年度のキックオフ会議(3日、堺商工会議所会館)
工場を地域住民らに公開して、社員と交流するイベント「オープンファクトリー」。企業や地域の魅力を見つめ直して発信、社員の成長を促す挑戦として関心が高まっている。南大阪では今秋開催に向けて、堺と泉州で地域一体型オープンファクトリーが始動した。
堺地区では「ファクトリズム」堺支部が11月2―4日に開く。市内で開催するG7(主要7カ国)貿易相会合の期間を避けて府内の他地域とは別日程で実施となる。3日にキックオフ会議を開き、昨年より8社多い29社による開催が固まった。このうち新規の参加は10社。近く”先輩”企業の視察を予定する。
貝塚・泉佐野を中心として広域で展開する「泉州オープンファクトリー」は11月16ー19日の開催だ。10日に2回の参加説明会を行い計60社が出席した。参加申し込みは8月10日まで。延生康二実行委員長(延生建設社長)は「企業のポテンシャルを発揮できる取り組みにしていきたい」と意気込みを示した。