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COP15とネイチャーポジティブ/生物多様性保全へ新枠組
社会経済発展に危機感
2022年12月に生物多様性条約第15回締約国会議(COP15)第2部が、カナダ・モントリオールで開催され、生物多様性に関する新たな世界目標である「昆明・モントリオール生物多様性枠組」(新枠組)が採択された。新枠組のミッションに含まれる「自然を回復軌道に乗せるために生物多様性の損失を止め反転させること」、いわゆる「ネイチャーポジティブ」は、「カーボンニュートラル」とともに、持続可能な世界の実現のために不可欠な取り組みとして注目を集めている。
悪化する生態系サービス
「生物多様性保全」と聞いて、特定の生き物の保全をイメージする人も多いのではないか。もちろん、トキやライチョウといった絶滅危惧種の保全は重要だが、生物多様性条約で対象とする範囲は幅広く、人間社会の基盤となる自然資本そのものである。
豊かな生物多様性に支えられた生態系は、人間が生存するために欠かせない安全な水や食料の安定的な供給に寄与するだけでなく、地域独自の文化を育む恵みをもたらす(生態系サービス)。
この生物多様性のさまざまな恵みの享受によって、私たちの生活は物質的には豊かになった一方、人間活動により、世界的に生物多様性と生態系サービスが悪化し続けている。
このまま悪化を続けると、社会経済活動が成り立たなくなることが危惧されている。経済分野でも、相次いで生物多様性に関する報告が出されており、「生物多様性の経済学に関する最終報告:ダスグプタ・レビュー」(2021)では、我々が依存するモノや恵みに対する需要は、自然の供給力を大幅に上回っており、世界が現在の生活水準を維持するためには、地球1・6個分が必要とされた。
また、WEF「グローバルリスク調査報告書」(2022)では、生物多様性の損失は生存基盤への脅威として、気候変動に次ぐ深刻な危機とされている。
この状況を打開するため、国際社会が生物多様性の損失を止め反転させる「ネイチャーポジティブ」を掲げて取り組みを本格化させている。
「愛知目標」継ぎ30年まで レビューメカニズム採択
新枠組は10年に名古屋市で開催されたCOP10で採択された20年までの世界目標である「愛知目標」を継ぐ、30年までの新たな世界目標である。
本枠組の本格的な検討は19年1月に日本で開催されたアジア太平洋地域の地域コンサルテーション会合から始まった。当初COP15は20年10月に中国・昆明で開催予定だったが、新型コロナウイルス感染拡大の影響で、数度の延期やオンライン併用でのCOP15第1部開催を経て、カナダに開催地を変更。2年遅れての開催となり、4年の歳月をかけてまとめられた。
新枠組は2050年ビジョンの「自然と共生する世界」を愛知目標から引き継ぎ、「2030年ミッション」「2050年グローバルゴール」「2030年グローバルターゲット」からなる。
2030年ミッションにおいては、「ネイチャーポジティブ」の言葉は含まれなかったものの、「自然を回復軌道に乗せるために生物多様性の損失を止め反転させる」として、内容としてはそれを示している。
ターゲットの数は23にも及び、30by30目標(30年までに陸域と海域の少なくとも30%を保全・管理する)などの保全に関する目標、ビジネスに関する目標、資金やジェンダーに関する目標など、多岐にわたる内容が含まれる。
愛知目標では目標の達成状況を確認するためのレビューメカニズムが明確でなかったことが、目標が達成されなかった理由の一つとされている。
このため、新枠組においてはレビューメカニズムを位置づけることが重視され、COP15においては新枠組の進捗(しんちょく)をモニタリング・評価するメカニズムが採択された。
締約国は国家戦略をCOP16までに改定すること、また、国別報告書をCOP17と19に向けて提出すること、条約事務局は各締約国による生物多様性国家戦略の改訂により提供された情報についての分析(COP16とそれ以降で実施)、および新枠組の進捗状況を把握する「グローバルレビュー」(COP17、19に実施)を行うことなどが決められた。
国家戦略改定、5つの柱
国内に目を向けると、生物多様性国家戦略の改定のための議論は、20年1月から始まっている。生物多様性条約の新枠組の議論と並行して、研究会や中央環境審議会で検討を行ってきており、2月中のパブリックコメントを経て、年度内の策定を予定している。
愛知目標と異なり、レビューメカニズムが位置づけられている新枠組においては、国家戦略もこれに対応できる形にまとめる必要がある。案においては、「2030年ネイチャーポジティブ(自然再興)」の実現に向け、五つの基本戦略を掲げ、それぞれの戦略のもとに、状態目標と行動目標、指標を設定している。
これらと新枠組の関係を明確にし、条約上のレビューと連動する形で、今後の点検を行っていくことになる。
ビジネス界の注目度急上昇
新枠組の目標15では企業に対し、生物多様性に係るリスク、生物多様性への依存および影響を評価、開示などを行うことなどを奨励することが位置づけられた。
ビジネス界における最近の生物多様性への注目度は急上昇中で、日本からもCOP15に多くの企業関係者が参加した。23年に本格的に始動する国際組織「自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD)」と連動して、取り組みが進むことが期待される。
ネイチャーポジティブについては「重要性はわかるが具体的にどう取り組んだらよいかわからない」との声が企業などからよく聞かれる。環境省としては、生物多様性民間参画ガイドラインの改訂をはじめとして、企業の活動が生物多様性保全につながるよう情報提供を進めたい。
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環境省自然環境局生物多様性戦略推進室長 山本 麻衣 氏
【執筆】環境省 自然環境局 生物多様性戦略推進室長 山本 麻衣 氏
1995年環境庁(当時)入庁、環境省本省、地方環境事務所、長崎県庁(出向)などにおいて主に国立公園や野生生物の保護管理を担当、前職は希少種保全推進室長、2022年7月から現職。
