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産総研 北陸デジタルものづくりセンター開設
地域経済活性化へ イノベーション加速
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北陸デジタルものづくりセンター
産業技術総合研究所(産総研)として全国12番目で北陸地域で初の研究拠点「北陸デジタルものづくりセンター」が5月、福井県坂井市に開所した。北陸の企業が持つ金属加工や繊維などで培った技術と産総研の技術を組み合わせ、地域経済活性化に向けたイノベーションを加速。グローバル視点で地場産業の高付加価値化を推進することが期待される。
北陸は機械、金属、電機、電子、繊維などの分野でトップシェア企業が多く立地する。この背景から「地元のものづくりと産総研のデジタル技術の融合、大学や公設試験研究機関との連携、自治体、金融機関などの支援も通じ、地場産業の高付加価値化、経済活性化、産業強化に貢献したい」(石村和彦産総研理事長)考えだ。
産総研は従来、福井県は関西の拠点で、石川県と富山県は中部の拠点で担当したが、今後は3県を面で捉え、新拠点でカバーする。来春の北陸新幹線・敦賀延伸で北陸圏内の移動時間短縮、往来活発化が見込める。立地する福井での新センターへの期待はひときわ大きく、早期に成功事例をつくり、北陸全体で認知度も高め、3県での活動を本格化することが求められる。
新センターは「金属3Dプリンター」と「スマートテキスタイル」が看板テーマ。体調や動作がセンシングできる着心地の良いスマートテキスタイル(賢い布地)開発支援などで、北陸主要産業である繊維産業の高付加価値化を後押しする。同じく主要産業の金属加工業とも連携し、眼鏡や装飾品、精密金属部品などの製造と評価に、金属3Dプリンター技術、形状計測技術、デジタル変革(DX)技術を用いて、加工技術の高精度・高効率化を支援していく。
旧県立高校の跡地に立地する同センターの敷地面積は4400平方メートル。新設した平屋建て1500平方メートルの中には、両看板テーマの研究開発を推進するための機器が並び、研究チームも新設した。
国内公的機関 初導入
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バインダージェット方式金属3Dプリンター
具体的には、海外で普及が始まるも国内はまだ少なく、国内公的機関として初導入の高速微細造形を得意とするバインダージェット方式金属3Dプリンターを配備した。造形エリアに敷き詰めた金属粉末を接着剤で整えて一層ずつ積み上げ、焼結炉で焼き固めるタイプ。普及型のレーザーで焼き固める方式と違って材料が少なくて済み、サポート材が不要で余った金属粉末は再利用できる。熱変形の歪みが発生しにくく、小型部品や微細造形品に優れるのも特徴で多彩な金属に対応する。
スマートテキスタイルによる高機能衣類の開発では、産総研が持つ導電性部材の編成技術や印刷成型技術で、姿勢、呼吸、心拍数を計測する機能などを持つ衣類といった繊維製品に取り組んでいく。衣服と電子回路を同時に作り出す横編み機やミシン、試験機、電極・配線の印刷形成が行える印刷装置・製版装置、人の運動・力を計測する運動計測装置などを導入しており、ウエアのデバイス化と、社会実装を目指す。
インタビュー/北陸デジタルものづくりセンター所長 芦田 極氏
金属加工のスペシャリストで、北陸デジタルものづくりセンターの初代所長である芦田極博士に話を聞いた。
―日本のモノづくり産業の特徴や課題は。
「日本のモノづくり産業は強く、安定しているがゆえ、3Dプリンターに対して様子見が多い。完璧に作ろうとする気質で信頼性に優れるが、まず作って評価してもらおうという勢いには後れをとる。米国や欧州は航空機など一部を除き、モノづくりを一度失った危機感がある。約10年前にオバマ元米国大統領がモノづくり復権を掲げて3Dプリンターに言及。政府レベルの桁違いの投資で、人が集まる構図ができた」
―地域イノベーション創出を掲げました。
「良い意味で遊ぶというか、みんなを巻き込んで夢を描き、こういうものが欲しいといったモチベーションで結果に近づけていく。北陸は技術力が高く、〝公表できないが実はウチが作っています〟という誰もが知る製品も多い。ただ、イノベーションはその人が欲しいものをとにかく作り、それが当たるといったことが多い。要求に完璧に応えるモノづくり以外に、猫のようにちょっと好き勝手に振る舞いかわいがれるのもありだと思う」
―さまざまな機関と連携も始まりました。
「設計、加工、評価のプロセスチェーンを回してモノができる。一人では小さいモノしか回せないが、人がつながるとネットワークができ、アイデアも集まる。福井、北陸のネットワークで一緒にプロセスチェーンをしっかり回していきたい」