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工業炉における燃料転換の取り組み―脱炭素社会への技術開発進む
水素―NOx、都市ガスと同じレベル
表1に一般的な工業用燃料である都市ガス13Aの主成分であるメタンおよびプロパンと、水素、アンモニアの物性値を示す。化石燃料と比較して、水素は燃焼速度が速く、火炎温度が高いことから、非常に燃えやすい燃料であり、アンモニアは燃焼速度が遅く、火炎温度が低いため、非常に燃えにくい燃料である。このため、安定燃焼に求められる燃焼方法は両者の間で大きく異なる。
中外炉工業では、16年にトヨタ自動車と「工業用直火式水素専焼バーナー(HSGB型ハイスピードガスバーナー)」の共同開発を開始した。水素は広い可燃範囲を持ち、安定燃焼させやすい反面、燃焼速度が極めて速いため、逆火が起こりやすい。また、局所的な火炎温度上昇により、窒素酸化物(NOx)発生量が多くなりやすい。これらの特性を踏まえて、水素燃焼に適した工業用バーナーとして、燃料をノズルから吐き出された後に空気と混合させ燃焼させるノズルミックス式バーナーを選定した。
ノズルミックス構造では燃料と空気が別々に供給されるため、逆火が起こりにくい。また工業用バーナーでは通常、失火および、燃料の不完全燃焼による煤(すす)や一酸化炭素の発生を防ぐためにノズルにおける燃料の吐出方向を空気と直交させ、積極的に混合できる構造となっている。しかし、水素燃焼においては、混合が過剰に促進され、急激な燃焼とそれに伴う火炎温度上昇により、NOxの発生量の増加や部品の焼損が起こる。
そこで水素と空気を緩慢に混合できる構造に改良することで、急激な燃焼反応を抑制し、火炎温度のピークを下げることで、NOx発生量を都市ガス13A燃焼時と同等レベルにまで低減にさせるとともに、バーナー部品の焼損も解消した。
当社では水素バーナーの工業分野への普及に向けて、さまざまな用途の工業用バーナーに対して水素化を進めている。汎用性が高く、あらゆる炉に適用可能な「HSGB 型ハイスピードガスバーナー」のほかに、自動車用塗装乾燥炉に多くの実績のある低温オーブン向けの多段燃焼バーナーである「DGB型ダブルコーンバーナー」、燃焼管を加熱し、放射熱を利用して炉内を加熱する「CRB型コンセントリックラジアントチューブバーナー(間接加熱式バーナー)」などの水素化を完了している。
さらにバーナーと送風機および燃焼制御機器をコンパクトに一体化したガンタイプの水素バーナーの開発も終えており、工業炉だけでなく、空調システムやボイラなどにおける脱炭素化ニーズにも対応可能である(23年オリンピア工業との共同開発)。また、22年4月から当社堺事業所(堺市)構内にCRB型よりも容量の大きなW型およびU型のラジアントチューブバーナーを搭載した水素燃焼デモ試験機を展示しており、随時見学可能である。
アンモニア―製鉄所の燃焼技術応用
当社では19年、大阪大学・赤松史光教授らの研究グループとともに、工業炉におけるアンモニア専焼技術開発に着手した。アンモニアは約100年前にドイツで発明されたハーバー・ボッシュ法による大量製造技術に加え、大量輸送および貯蔵技術が確立されている。単位体積当たりの水素貯蔵能力が高いことから、水素を運搬する際の有望なエネルギーキャリアとて注目されていた。また、水素同様、燃焼時に二酸化炭素を排出しないことから、燃料としてのアンモニア利用技術開発に対する関心が高まっている。
アンモニアは既存の化石燃料と比較して、非常に燃やしにくい燃料である。したがって安定燃焼させるには、水素とは真逆の発想、すなわち燃料であるアンモニアと空気を積極的に混合させる燃焼法の検討が必要となる。また、燃料中に窒素を含むため、燃焼時にサーマルNOxに加えてフューエルNOxが生成する。窒素分を含まない従来の化石燃料に比べて、より高度な低NOx燃焼技術が求められることになる。
さらには、臭気が強く、悪臭防止法に基づく特定悪臭物質の一つとして、大気への放出は厳しく規制されていることから、燃焼排ガス中の残留アンモニア(燃え残った微量のアンモニア)除去が必要となる。アンモニア火炎および残留アンモニアによる炉構成部材および製品への影響調査も必要である。
アンモニア専焼バーナーの開発には、製鉄所などで発生する発熱量の低い副生ガスの燃焼技術を応用した。燃焼空気またはアンモニアに旋回をかけることで、空気とアンモニアの混合を促進させ、課題である燃えにくさを克服した。さらに低NOx燃焼を実現させるために二段燃焼法などを応用した。その結果、アンモニア専焼により、常温での直接点火が可能(パイロットバーナー不要)、実炉稼働温度である1200度Cまで昇温が可能、都市ガス13Aと同等レベルの低NOx燃焼が可能、といった成果を得ている。
当社におけるアンモニア燃焼技術開発は、「NEDO先導研究プログラム/エネルギー・環境新技術先導研究プログラム/革新的アンモニア燃焼による脱炭素工業炉の開発」(21―22年度)を経て、23年度以降も研究開発を継続しており、早期の社会実装を目指す。
【執筆】中外炉工業 商品開発部 服部 成真