-
業種・地域から探す
ガス業界―脱炭素化を加速
脱炭素社会の実現に向けた取り組みがグローバルで進む中、二酸化炭素(CO2)排出量削減に貢献するガス利用のあり方が注目されている。都市ガス業界では、メタネーション技術の研究開発が進み、大阪ガスに期待が高まる。液化石油ガス(LPG)業界でも岩谷産業が、CO2削減効果を経済的な価値に変えるための取り組みを始めた。カーボンニュートラル(温室効果ガス排出量実質ゼロ)に向けたガス業界の動きを紹介する。
都市ガス―SOECメタネーション開発加速 水素・CO2からメタン
大阪ガスは大阪市此花区に研究開発拠点「カーボンニュートラルリサーチハブ(CNRH)」を2021年設立した。水素・アンモニアの燃焼技術、再生可能エネルギーの有効活用を支える仮想発電所(VPP)技術などさまざまな研究開発を進めるが、特に注目を集めるのが「メタネーション」。CO2と水素を反応させて都市ガスの主成分であるメタンを作る技術だ。大阪ガスは同技術で作られた「e―メタン」を、30年までに既存の都市ガスインフラへ1%導入する目標を掲げる。
大阪ガスが取り組むメタネーションには、従来技術のサバティエメタネーションに加え、革新技術としてのバイオメタネーション、固体酸化物形電解セル(SOEC)メタネーションという3種類の方式がある。そのうち、大阪ガスが特に業界をリードするのがSOECメタネーションだ。
SOEC電解装置で再エネを利用して水とCO2を電気分解し、水素と一酸化炭素(CO)を発生させる。その後、その水素とCOを触媒で反応させてメタンを作る。メタン合成で発生した熱は、SOEC電解装置に戻し再利用する。そのためエネルギー変換効率が85―90%と高い。藤原正隆社長は「当社がエネファームとして展開する固体酸化物形燃料電池(SOFC)の逆反応で、元々知見があった技術。従来よりも非常に安価に電解装置を製造する予定で、高効率なプラントを造れる」と期待を込める。
技術開発のカギを握るのはSOECパネル。大阪ガスは、従来のセラミックス支持型に代わる「金属支持型」での試作を21年に成功。金属ベースとすることで、耐衝撃性を高めただけでなく、大型な装置での実証を進めやすくなった。エネルギー技術研究所SOECメタネーション開発室の朝倉隆晃室長は「今はまだパネルを作った段階。28―30年度にパイロットスケールで技術確立したい」と説明。その上で40年代の商用化を目指している。
一方、先行して30年代の商用化を目指しているのが、サバティエメタネーションとバイオメタネーションだ。25年の大阪・関西万博では、この二つの方式を組み合わせた形での実証実験を予定する。
夢洲(大阪市此花区)の万博会場で、微生物を利用して食品残渣(ざんさ)からバイオガスを製造。そのバイオガスにはメタンとCO2が含まれる。このCO2を微生物の力と再エネ由来の水素によってメタンに変える。それでも残ったCO2を、さらに触媒を使ったサバティエ反応でメタンに変えることで、高濃度なメタンを製造できる。
24年度上期に大阪市此花区のゴミ焼却工場で実証運転を行い、その後、その施設を万博会場に移設する。朝倉室長は「微生物が力を発揮できるかは条件次第で変わる。触媒も調整し、安定したe―メタンを作れるかを確認していく」と話す。
今後、本格的な商用化に向けては技術開発と並行し、グローバルなルール整備も重要となる。関係各所との調整を進めながら、業界をリードする考えだ。
LPガス―CO2削減効果 経済的価値に
岩谷産業はIoT(モノのインターネット)サービス「イワタニゲートウェイ」を活用して、高効率ガス給湯器「エコジョーズ」導入によって得られるCO2削減効果を見える化するシステムを開発。国のJ―クレジット制度において同プロジェクトが登録された。削減効果を経済的な価値に変えることで、高付加価値なLPGの提供を目指している。
給湯器メーカーが提供するエコジョーズは、従来製品と取り換えることで年間約15%のCO2削減効果がある。ただこれまで、それを現場で確認する方法がなかった。そこで岩谷産業は、LPGボンベの供給口側に取り付けたメーターでガス使用量を測定し、データをイワタニゲートウェイに連携。そのデータを基にCO2削減効果を算出して、クラウド上で確認できるようにした。さらにchaintope(チェーントープ、福岡県飯塚市)のブロックチェーン技術を活用し、情報のトレーサビリティー(履歴管理)や耐改ざん性なども確保した。
本格的に運用が開始すれば、環境意識の高い製造業などの顧客に対し、創出したクレジットを活用して、カーボンオフセットガスなどを提供できるようになる。岩谷産業としては今後、エコジョーズ利用者に対し、CO2削減への貢献に対する還元サービスも検討中。総合エネルギー事業本部生活物資本部生活総合サービス部の市岡良介部長は「消費者にも『一緒にCO2削減へ取り組んでいる』といった参画意識を持ってもらえれば」と説明する。
ただ高効率なエコジョーズが普及すると、必然的にLPGの使用量が減る。つまり岩谷産業の収益としてはマイナスになってしまう。にもかかわらず、こうした取り組みを進めるのは、カーボンニュートラル意識の高まりが大きい。LPGはどうしてもCO2を排出する。だからこそ、事業者にも環境意識の高さが求められている。
日本国内において都市ガスが供給できるのは国土の約6%に過ぎない。それ以外の地域では、ボンベで供給できるLPGは欠かせない。岩谷産業をはじめとしたLPG事業者は、ボンベ配送や緊急時対応など、リアルな顧客接点を持っている。
このリアルの強みと、デジタル技術を組み合わせた新事業を生み出すため、20年にNEC、TIS、新コスモス電機との共同出資でイワタニゲートウェイ(大阪市中央区)を設立。同名のIoTサービスを活用し、ガス、電気、水道などの使用状況をまとめて管理する実証も進めている。その上で、フレイル予防通知や子ども見守りなどの新サービスにつなげようとしている。今回のCO2削減効果の見える化も、その流れの一つだ。
いかにして顧客から選ばれる事業者になれるか。各社、模索を続ける。