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エネルギー転換期における資源開発の現状と課題
世界の動き
現状では、化石燃料である石油、ガス、石炭の合計がエネルギー需給に占める割合は日本では85%、世界全体では82%となっており(英BP統計2021)、2050年の「カーボンニュートラル(温室効果ガス排出量実質ゼロ)」や「脱炭素」の達成に向けての目標が極めて高いことが分かる。
気候変動枠組み条約締約国会議(COP)においても、世界の100カ国を超える国がカーボンニュートラルに取り組むと宣言しているが、目標年を50年ではなく、60年とする中国、70年とするインド、ロシアなどがある。多くの途上国においては、先進国からの資金供与があれば化石燃料の削減に取り組むと宣言しており、先進国からの資金に依存する取り組みの表明となっている。
また、30年に向けての中国、インドなどの二酸化炭素(CO2)削減目標値は国内総生産(GDP)当たりの目標であり、実質はCO2排出量が増大する目標となっている。
図1は世界のエネルギー消費量が多い順に15カ国の消費エネルギー源の内訳を示すが、各国とも自国に豊富にあるエネルギー源を多量に使用して産業を維持し、経済力の確保を目指していることがわかる。中国、カナダ、米国など、電気代が圧倒的に安いのは、これら自国エネルギー資源による発電に基づく。
再生可能エネルギーは世界全体で見ると、いまだ導入期にあると言わねばならず、供給インフラが整っている化石燃料をいかによりクリーンに効率よく使っていくかが依然として重要であることが分かる。
日本の取り組み
日本は依然としてエネルギー供給において化石燃料に多く依存しているが、日本政府は、50年のカーボンニュートラルの実現を目指すと20年10月に宣言し、この50年目標と整合的な目標として、30年度に温室効果ガスを13年度から46%削減するとの目標を21年4月に掲げた。
図2でエネルギー消費量の推移を1965年から2021年まで見ると、主要なエネルギー源は、従来、石油であったが、近年、大幅な減少が続いていることが分かる。ただし、それでも日量300万バレル台という多量の消費がある。極端に中東に依存している石油の供給の確保は依然として安全保障上の課題である。
また、11年の福島第一原発の事故による、日本国内の原子力発電所の停止を補ったのは、主にガス火力と石炭火力であった。原子力発電の再稼働が進まない中、化石燃料を使用する火力発電を止めることは、簡単にはできない状況がある。
しかも、コロナ禍からの経済活動の回復が顕著となると、再度エネルギー消費量は増大に向かうと予測され、化石燃料の輸入量は増大し、安全保障の観点から見ても、世界のさまざまな地域から輸入される状態を維持することが望ましい。
例えば、日本の石油とガスの資源開発会社INPEXがオーストラリアで開発した「イクシス液化天然ガス(LNG)プロジェクト」によるLNGの輸入開始は、安全保障の観点からも朗報である。日本企業が加わって計画されているアフリカ東海岸のモザンビークLNG、カナダ西海岸のLNG計画など、実現すると供給源の多角化に貢献するエネルギー安全保障上の役割が大きい計画である。
図3は日本政府発表の第6次エネルギー基本計画であるが、30年に向けたCO2排出量46%減(13年比)を目指したエネルギー需要とエネルギー供給の目標数値を示している。
特に注目されるのが、13年比で30年に需要量が2割以上も減少するとの見通しとなっている点で、本当に省エネがこれほどの規模で実施可能であるか、この目標が達成されるためのハードルは高い。
供給側を見ても、石炭の大幅減に加え、天然ガスも減らす中、原子力と再エネを現状よりも大幅に増大させる計画となっている。この点の達成が可能かを見守っていく必要がある。
日本国内のエネルギー安定供給に向けた取り組み
日本のエネルギー自給率は20年で11%にとどまっており、天然ガスが2%、石炭と石油はほぼゼロ%という状況にある(国際エネルギー機関)。隣国の韓国は自給率19%であり、経済協力開発機構(OECD)メンバー国の中でも日本が極めて低くなっている。
自前のエネルギーの増大を目指すことがたいへん重要で、かつ、化石エネルギーも含めた各種のエネルギー源を利用できるように供給設備とそのサプライチェーンを確保・維持することが重要である。
また、エネルギー資源の供給先を多様化しておくことも重要である。電力の供給に関しては、水力、太陽光、風力などの再エネ、それに原子力に依存する割合が、今後50年に向けて上昇し、化石燃料に依存する発電の割合が減少すると予測される。
しかし産業用の高熱での燃焼を必要としているガラス、セラミック、紙パルプ、セメントなどの分野と、また原料として化石燃料を用いてプラスチックなどの製造をしている化学産業、あるいは石炭を原料として用いる鉄鋼業などにおいては、化石エネルギーを50年においても一定量必要としていくと予測される。
日本の経済はエネルギー供給が着実に行われることで、産業部門、業務部門、家庭部門、運輸部門が、いずれもエネルギー消費量の抑制、そしてそれによりもたらされるCO2排出量の削減に積極的に取り組んできており、その結果がGDPを維持しつつエネルギー消費量を削減する動向を生んでいる。さらなる成果を生み出すべく、官民を挙げた取り組みが求められている。
【執筆】東京国際大学 国際関係学部 特命教授 武石 礼司