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大阪北部産業界
大阪北部の北摂地域は多様な”顔”を見せる。ベッドタウンとしてだけでなく、医療・バイオテクノロジー産業やモノづくり、物流の集積地としても発展を遂げている。加えて「彩都」や「健都」など都市開発プロジェクトも進行中だ。新しい鉄道路線や高速道路といった交通インフラの整備とともに、そのポテンシャルはさらに広がりつつある。ビジネスチャンスが広がる北摂地域は、将来の発展へ向けどのように躍動していくのか。まちづくりの現状を追った。
ビジネスチャンス広がる北摂地域
箕面市
北大阪急行電鉄が2023年度末に千里中央ー箕面萱野間で延伸されて途中には地下駅の箕面船場阪大前が開設されることで大阪府箕面市などの地域活性化に期待がかかる。萱野から大阪市中心部の梅田まで乗り換えなしの24分で結ばれて利便性が高まり、阪大前駅の1日あたり利用者は約8500人、萱野駅は同約1万4000人の見込み。北大阪急行は延伸開業に向けてPRするなど盛り上げを図っている。
東海道山陽新幹線や新東名高速道路などの国土軸と関西国際空港を結ぶ大阪の南北軸の強化、マイカーから鉄道への利用転換による道路の南北軸である国道423号(新御堂筋)の渋滞緩和、まちづくりの進化やプラス効果が期待されている。
経済波及効果は工事などでの初期効果が3227億円、商業施設の売上増などで年間614億円と試算されている。南北軸の鉄道に加えて箕面市内のバス路線が萱野駅と市内各地を結ぶ路線に再編され「東西移動の利便性が高まる」(北急まちづくり推進室)と説明する。
阪大前駅の近接地に大阪大学外国語学部が21年に移転、文化芸能で劇場や図書館、生涯学習センターなどで構成する複合公共施設も開設され、イベントなどで地域交流が進む。
24年度には医科学や予防医学などの研究拠点「関西スポーツ科学・ヘルスケア総合センター」がオープン予定。箕面市や阪大、土地所有者の大阪船場繊維卸商団地協同組合などが建設、運営の枠組みを検討、健康寿命の延伸やヘルスケアをテーマにした拠点の形成を目指す。
新たなターミナル駅となる萱野駅周辺では東急不動産が飲食店や生活雑貨の物販施設などで構成する商業施設を延伸と同時に開業する予定。箕面市は東急不動産に認可保育所の設置を働きかけている。田園風景も近く「住みやすい地域、子育てしやすい地域としてアピールする」(同)。
北大阪急行は車両を3編成増備する。車内の映像や音声を記録できる防犯カメラを初導入するほか、緊急事態発生時の非常用設備などの設置位置を把握しやすくする。
5月には延伸開業に向けたPRを始めた。「千里中央からからつながるひとつ先の駅へ ひとつ上の未来へ」をコンセプトに、緑豊かな住宅都市である箕面市の交通インフラ強化を沿線住民や沿線外の人に伝えて開業までの期待感の醸成と延伸線への誘致を図る。さまざまなプロモーション活動を展開する。
8月には箕面市の魅力を紹介する「箕面ラッピングトレイン」を千里中央―なかもず間で運行を始める。箕面大滝や明治の森箕面国定公園などを基調に四季の移ろいをグラデーションで表現したデザインや、箕面市のPRキャラクター「滝ノ道ゆずる」や「モミジーヌ」をダイナミックにあしらったデザインで25年3月まで運行する予定。
愛称を市民から募る。箕面市の観光スポットや子育て・教育の取り組みを紹介する車内広告も掲出する。旅客運賃設定を国土交通省近畿運輸局に認可申請し、萱野―千里中央間は190円の見込み。
健都
大阪府吹田市と摂津市にまたがる北大阪健康医療都市(健都)は、医療分野から食・運動などの日常生活に近い分野までの健康・医療に関連する多様な企業が集積する国際級の医療クラスターを目指している。医療・健康系企業などの研究開発施設の進出用地「健都イノベーションパーク」にエア・ウォーターとニプロが進出して企業の集積も進む。
健都の中核拠点の国立循環器病研究センター(国循)に加え、産学連携拠点施設「健都イノベーションパークNKビル」に国立健康・栄養研究所が東京から移転した。健康関連企業などが入居できる賃貸ラボ、小規模・1日単位から借りられるシェアラボ、機器付きレンタルラボがあり、東和薬品やサンスター、シミックヘルスケア・インスティテュートなどが入居する。
エア・ウォーターは総工費50億円を投入して9月にオープンイノベーション推進施設を開業する。国循やベンチャー、大学などと連携し、高度医療人材育成の教育システム構築や遠隔通信技術を活用した在宅医療事業の拡大、災害食の開発などに取り組む。新施設の敷地面積は3660平方メートル、4階建てで延べ床面積4742平方メートル。豊田喜久夫会長は「医療・農業分野のオープンイノベーションの中核となるように取り組みたい」と意気込む。
また関西大学と医療・健康の研究開発で連携協定を結び、健都で研究開発や社会実証、人材育成プログラム開発を行う。市民や産学官で商品やサービスを開発する「リビングラボ」を発展させる。疾患を持つ人が気軽に出かけられる環境を整え、生活の質(QOL)を高める仕組みを築く。エア・ウォーターの白井清司取締役は「関西大には地域と企業の交流の架け橋として期待する」とし、関西大の前田裕学長は「連携によるシナジー効果が見込める」と期待を寄せる。
ニプロは4月に本社機能を健都に移転した。法律上での医薬品・医療機器の製造販売業の所在地も10月に変更する予定だ。
国循はナショナルセンターとしての機能に加え、民間企業などとの連携を深める共同研究拠点「オープンイノベーションラボ」を設けた。ラボにはソフトバンクやキャノンメディカルシステムズ、サラヤ、大阪医科薬科大学などが入居する。国循の研究者や病院、研究所と密接に連携でき、国循に蓄積されている循環器病や健康関連のさまざまなデータや試料、最先端設備を利用できる。
企業や研究機関の研究開発成果の社会実装に向けては市民が「健都ヘルスサポーター」として地域実証を支える。試作品を用いた健康データや意見のフィードバック、アンケートなどでのニーズ把握ができ、ニーズに応じた新製品や新サービスの開発を加速できる。
これらの企業や学術研究機関、行政、市民の産学官民の共創でオープンイノベーションとまちぐるみの健康づくりを融合し、新たなヘルスケア産業創出と健康関連の行動変容の好循環につなげる。