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入居企業のコンテンツ実装 推進
中小企業基盤整備機構が運営するインキュベーション施設であるベンチャープラザ船橋(千葉県船橋市)は、NTT東日本千葉事業部などと協業し、いすみ市で入居企業の技術や製品、ビジネスモデルの社会実証を進めている。NTT東によるICT(情報通信技術)を活用した「いすみ市での実証フィールド」に、入居企業のコンテンツ、つまり技術や製品、ビジネスモデルを実装するものだ。入居企業は実証事業への参加を通して得られた知見を横展開するなど新たな成長エンジンにできるメリットがある。
中小機構運営インキュベーション施設 ベンチャープラザ船橋、いすみ市で実証
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魚の鮮度を数値で見える化 -
漁港 -
鮮度が見える化されると、小売り段階でエビデンスに基づいた食べ頃の時期が判断可能になる
地域商社と連携
「単品企業、いわゆる、1コンテンツホルダーに留まっていては成長に限界がある」(ベンチャープラザ船橋の岡崎聡チーフインキュベーションマネージャー〈CIM〉)―。入居企業のさらなる成長を実現するため、入居企業の技術や製品、ビジネスモデルを大きなプラットフォーム上で実証する機会を提供することでホールプロダクツ化していくチャンスを与える必要がある。さらに実証事業への参加を通じて、入居企業が将来ニーズや将来マーケットを思考し、成長を模索する契機にもなる。
実証事業の舞台となるいすみ市は自然が豊かでありながら、電車で東京都心に70分でアクセスできる。そのためコロナ禍の中で、移住先として注目された。同市の主力産業は農林水産業だが、少子高齢化などにより、後継者不足が課題になっており、若者を市外に流出させず、そして移住を呼び込むには地域産業を活性化する必要がある。
ベンチャープラザ船橋の入居企業ではワイヤレスデザインがIoT(モノのインターネット)で水田の水位を遠隔監視する実証事業に参加。ニチオンは県内の医療機関と手を組み、感染制御の仕組みの構築を始めた。ロボット応用ジャパンは食品メーカーとタイアップし、人手不足を解消するための自動化を可能にする取り組みを開始。
これらの取り組みを支えるのが、NTT東と京葉銀行の後押しで設立された地域商社であるSOTOBO ISUMI(千葉県いすみ市)だ。同社は地域に密着して社会課題を具体的に見える化しており、岡崎CIMが指摘するように「社会課題、言い換えれば、将来の大きなニーズであり、ビジネスチャンスは深層に潜在しており、表面的には見えない」と同社の役割は大きい。
漁業にDX 鮮度見える化
現在、力を入れるのが水揚げした魚の鮮度の“見える化”だ。魚の鮮度を表す数値「K値」に関する北海道大学の坪内直人准教授による研究成果「MIRASAL」をベースに、ベンチャープラザ船橋の入居企業であるウィザードとSOTOBO ISUMI、NTT東が共同で、時間の経過に伴うK値の変化を視覚化できるシミュレーションシステムを構築した。魚種と魚の中心温度、保管温度と時間などを入力することでK値の予測が可能になる。
プロである漁師や仲買人の経験則や勘をK値予測で視覚化し、情報として活用できれば、これまで扱いにくかった鮮魚が扱いやすくなる。つまり小売りの段階で鮮魚に関する知識が乏しくてもいつまで刺し身で提供できるか、いつ総菜に加工するべきかなどをエビデンス(科学的根拠)に基づいて判断が可能になる。さらに社会が国連の持続可能な開発目標(SDGs)達成に向けて取り組む中、フードロスの削減にもつながる。地元のスーパーで取り扱いに向けた実証事業を始めたい考えだ。
今後は冷蔵技術と組み合わせて鮮度が見える化された安全・安心な魚というブランド化を進めるとともに、水揚げからのトレーサビリティー(履歴管理)を証明する機能の開発を検討している。NTT東とSOTOBO ISUMIは漁師が水揚げした魚をタブレット端末で入力するなどのデジタル化を進めており、漁業のデジタル変革(DX)に取り組んでいる。
DXプラットフォーマー NTT東と協業
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ベンチャープラザ船橋チーフインキュベーションマネージャー 岡崎 聡 氏
ベンチャープラザ船橋の岡崎聡チーフインキュベーションマネージャー(CIM)に、入居企業の社会実装を始めた狙いと今後の展開について聞いた。
―入居企業の社会実装を進める狙いは。
「大手だからNTT東日本と手を組んだのではない。NTT東日本はデジタル変革(DX)の知見や人材などのプラットフォームを持っており、モノづくりやサービス、農業などあらゆる産業を通信技術で支えている。つまり企業はNTT東日本のようなプラットフォーマーと、ベンチャープラザ船橋に入居するようなコンテンツホルダーに大別される。これらのコンテンツホルダーは優れた技術や製品、ビジネスモデルを持っていても、単品では付加価値を上げられない。そのためプラットフォーマーであるNTT東日本と協業し、コンテンツに実証機会を与えることで、ホールプロダクト化するのが狙いだ」
―地域の社会課題解決につながります。
「社会課題は新しい事業のシーズで、新しい市場をつくる糸口となる。これらの社会課題はベンチャープラザ船橋の入居企業とNTT東日本の力を掛け合わせれば将来の大きなビジネスチャンスにもなり、その解決にも寄与する。NTT東日本というプラットフォーマーの肩を借り、成長に向けて進んでもらいたい」
―ベンチャー企業を育成する新しい手法です。
「実証事業を基盤に将来ビジネスに結び付くような従来にない取り組みをやろうと考えていた。企業マッチングはこれまでにも行われてきている。そこで我々は既存の市場ではなく、今は見えないが、より大きなニーズとなる社会課題をテーマに、将来マーケットを模索し、思考する契機を提供することにした。これは正に公的な中小企業支援機関がやるべきことであり、定石だと考えている」
―今後の展開は。
「ベンチャープラザ船橋には優れた技術や製品、ビジネスモデルを持つ企業が入居している。今後も食品保存料メーカーやマーケティング会社などの入居企業に参加を促していく。入居企業が事業への参加を通して得た知見をベースに模索し、成長を思考することで、企業価値の向上につなげていくことを期待したい」