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構造部品内の強塑性加工域あるいは大地震によるプラント配管などの局部的大塑性ひずみ部を非線形超音波法により可視化する技術の現状を紹介する。
「大歪み塑性域の非線形超音波法による可視化技術」
【執筆】超音波材料診断研究所 所長、名古屋工業大学 名誉教授/工学博士 川嶋 紘一郎
構造物・構造部品内の隙間を持つ亀裂や空隙(くうげき)は通常超音波探傷法により容易に検出・可視化できる。一方、隙間を伴わない塑性変形域・材料損傷部を非破壊的に検出し画像化する技術はまだ未確立である。
近い将来予想される東南海トラフ地震で震度6―7の揺れを被る発電所・プラントの配管には、極低サイクル疲労損傷が発生する恐れがある。
例えば、製造業界ではジェットエンジン圧縮機ファンのような大型チタン合金(難加工材)鍛造品に発生する局部的大塑性歪み域を非破壊的に検出したいという要望がある。しかし、音響インピーダンス差に基づく従来超音波では、塑性変形域の検出・画像化は極めて困難である。
大振幅超音波正弦バースト波を入射し構造部品を揺り動かすと、材料異質部において正弦波からの波形の歪みが発生する。アナログハイパスフィルターを用いて高調波振幅としてそれを定量化できる。
水浸超音波画像化装置に大振幅バースト波発生装置や集束探触子、多段切替アナログハイパスフィルターを組み合わせると、材料異質部を可視化できるようになった。
例として、SUS304丸棒を図左の形状に据えこみ鍛造後、上面を1ミリメートル研削し、周波数20メガヘルツを3サイクル与えたバースト波を垂直入射して得た3次高調波振幅像を右側に示す。成型されたフランジ部に多数の半径方向縞(しま)模様が見られる。
切断後の断面写真には、縞模様に対応するヘアークラックは検出されなかったので、縞模様が塑性流動を表していると言える。なお、斜角入射により特定方向の塑性流動をより鮮明に可視化できる。
ジェットエンジンファンのような3次元曲面に対してロボットにより探触子方位を曲面法線方向に制御すれば、複雑形状部材に対しても適用できる。また水浸法を適用できない大型部材には封水探触子を用いることで対応できる。
非線形超音波の適用例は「非線形超音波法による非破壊材料評価」(愛智出版)に記載されているので、参照されたい。
社会インフラの寿命診断技術開発が進められている。海中に設置した設備の寿命評価法の技術提案を行っており、既存の水中ロボット(ROV)に搭載可能な小型センサーの開発を紹介する。
「電磁気現象を利用した新しい非破壊検査技術」
【執筆】鳥羽商船高等専門学校 情報機械システム工学科
准教授/工学博士 吉岡 宰次郎
石油精製プラントや発電所、湾岸構造物、船舶、橋脚、送水管などでは水中構造物として安全性を確保するための保守点検が必要である。その中でも、海底に設置している送水管設備は離島などの海を隔てる土地への生活用水などの供給を担っており、安全性を常に確保する必要がある。
海底送水管の寿命は長いもので100年以上使用可能な設計になっている。しかし、海流や付着物に影響で早期の取り換えが必要な場所も存在しており、更新費用は膨大である。
海底送水管の構造は鋼管や樹脂管などがあり、ポリエチレン(PE)管の外側を複数の鉄線で被覆した管が実用化されている。水中での検査としては、水中ロボット(ROV)を使用して送水管内部から管内カメラによって行う損傷検査や外観検査を行う目視検査、超音波探傷、磁気探傷が挙げられる。しかし、検査報告数が少なく寿命評価につながる資料や方法がないため、送水管設備の延命と更新の判断ができていない問題がある。
そこで我々は、電磁気非破壊検査の技術を用いて海底送水管で使用されている強磁性体の形状や配列状態を可視化することで、海底送水管の残寿命評価法を確立する非破壊検査技術を提案している。
この技術は送水管の損傷状態を外面だけではなく、被覆材内部の情報を知ることで漏水リスクを把握することにつながる。また、提案する電磁気非破壊検査法はパルス磁界を用いる。パルス磁界を用いた強磁性構造物を対象とした非破壊検査技術について、我々は石油化学プラントの被覆鋼管の減肉検査技術の実用化に向けた開発を行ってきた。
この技術でROVを送水管に密着させる必要がなくなり、ある一定の距離が存在する場合(送水管周りの付着物が存在する場合や送水管の埋設部分)であっても測定が可能となる。これまでに、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の助成事業により、センサーの設計製作を実施し、水中での基礎実験を遂行している。
インフラ内部の劣化指標をデジタルツインに導入した野心的DXについて紹介する。
「インフラ構造物の野心的DXを見据えた非破壊検査技術とBIM/CIMとの統合」
【執筆】京都大学経営管理大学院 特命教授
京都大学大学院工学研究科 インフラ先端技術コンソーシアム副代表/学術博士 塩谷 智基
京都大学工学研究科では、67機関、18法人(71法人個人会員)と国内外60名を超える個人会員から構成されるインフラ先端技術コンソーシアムを2020年度から設立し、橋梁やトンネル、先端DXの4分科と活動中に創出された特定のテーマを検討する九つのクラスターを立ち上げて活動している。
コンソーシアムではインフラの将来的な展望を考え、それにバックキャスティングされた直近の課題解決に向け、インフラを支える産官学ステークホルダーに加え、多くの異分野機関(機械・電気など)の賛同を得て運営している。
インフラの将来展望に「野心的DX」と称し、三つの指標を掲げた上で各論を議論している。インフラの生涯のLCA算定に必要なフェーズごとの「コスト指標」と、表面のみならず内部情報も加えた「健全性指標」(図1)、地球環境を問う上では不可欠な「環境指標」である。
ここでは、イリノイ大学アーバナシャンペン校ほか、複数の民間と共同開発している。静・動画像によるインフラの点群化と、三次元(3D)弾性波トモグラフィーを統合したダム付帯の大型コンクリート構造物の例を図2に示す。飛行ロボット(ドローン)による動画に基づく点群化、ロープワークによるセンサー設置と弾性波励起・受信、そして内部弾性波速度の計算、図2aに示すこれらに基づくデジタルツインと3D弾性波速度分布の統合(図2b)がウェブ上で確認できるシステムを構築している。
本システムでは劣化が著しい部位や範囲があらかじめ推定できることから、調査の段階的実施(マクロ/ミクロ調査)が可能となり、合理的な健全性調査が可能となった報告を受けている。
今後、本システムを実用化する上では「取得画像」に基づく表面クラックの自動抽出やAI損傷メカニズム推定「弾性波計測」に遠隔計測が可能となるワイヤレスセンサーや遠隔弾性波励起など課題もあるが、現状ほぼ解決にめどがたってきている。次に機会があれば、上記課題解決結果や環境指標を盛り込んだ野心的DXについても示したい。
非破壊で社会インフラなどの構造物の健全性評価する無線アコースティックエミッション(AE)計測装置開発の取り組みについて紹介する。
「AEセンサーを用いた無線インフラモニタリングシステム」
【執筆】東芝 研究開発センター 知能化システム研究所
機械・システムラボラトリー 上田 祐樹
社会インフラの老朽化の一方で、少子高齢化などによる人手不足が問題となっている。そのため、効率的なインフラ保全が求められている。
社会インフラなどの非破壊検査手法の一つに、AE法がある。固体材料内部での、亀裂発生やき裂進展などで生じる弾性波はAE波と呼ばれ、AE波の形状や発生頻度、AE源位置などには内部の状態が反映される。
つまり、内部の挙動を把握できるAE法は早期に異常を検知できるため、健全性を効率的に評価することができる。
AE法は通常、低ノイズ増幅器やメガヘルツオーダーのアナログ‐デジタル変換などの高度な処理が必要である。さらに、AE源位置解析では、AE波の高精度な到達時刻を用いるため、センサー間でマイクロ秒オーダーの時刻同期が必要である。
このような処理のため、一般的に電源と信号は有線ケーブルで接続される。しかし、センサー数が増えるにつれ配線作業の手間などが課題となっている。
そこで我々は無線を用いたAEセンサーシステムの開発を進めている。本システムはエッジデバイスであるAEセンサーノードと、サーバーから構成される。AEセンサーノードは手のひらサイズで乾電池動作ができる。
また、信号増幅や特徴量抽出をリアルタイムで行い、サーバーへ無線で送信する。特徴量のみを送信するため電力や通信帯域を効率的に使用する。サーバーには、AE源位置解析のため、1マイクロ秒以下の誤差の時刻推定技術が搭載されている。
特徴量からノイズ除去、AE源位置解析を行い、健全性に関するデータを出力する。このように本システムを活用することで、現場作業量を低減しつつ、構造物の効率的な維持管理を実現できる。また、設置自由度が向上するため、産業機器や大型構造物の非破壊検査も可能となる。
当社では橋梁床版内部の健全度を評価する技術などを開発しており、効率的なインフラモニタリングへ展開できるよう取り組んでいる。
地下建設における事故を防ぐための、地質・地盤リスクマネジメントの現状について紹介する。
「地下建設における地質・地盤リスクマネジメントの重要性」
【執筆】金沢工業大学工学部環境土木工学科
教授/工学博士 木村 定雄
公共施設構造物の点検・検査は近接目視が義務付けられてきた。しかし、その効率化が強く求められており、現在ではドローンやレーザーなどを援用した非接触の非破壊検査技術や人工知能(AI)を活用した診断・評価技術が鋭意開発されつつある。
このように既存の構造物のメンテナンス技術は日々進歩する一方、地質・地盤に対する調査のあり方とリスクマネジメントの重要性が指摘されている。
新規の地下建設における大型プロジェクトにおいて、都市部では地表面の陥没や山岳地域では盤ぶくれ現象など、地質・地盤調査の不確実性と施工法の不適切性から生じる事故が散見されている。
国際契約約款を定めるFIDIC(国際コンサルティングエンジニア連盟)は、2019年に地下建設工事に適用する契約約款(エメラルド)を発行した。エメラルドは、FIDICとITA―AITES(国際トンネル技術協会)が共同で策定し、地質・地盤リスクが高い建設工事の契約における発注者と請負者のリスク負担ルールを明確にしている。
一方、わが国の公共土木工事は標準請負契約約款にのっとって契約がなされており、契約後の地質・地盤リスクのほとんどを発注者が負担してきた。20年2月、国土交通省は「土木事業における地質・地盤リスクマネジメントのガイドライン」を発行した。
これによると、地質・地盤リスクを事業者や地質・地盤調査者、設計者、施工者、点検・評価者およびこれを支援する専門家などが一体(One―Team)となってリスク対応する体制の重要性を提示している。
地質・地盤リスクは単に調査技術の信頼性にとどまらず、状況に応じた調査データの解釈と情報共有、さらには契約手続きの品質確保や事業会計などを十分に吟味し、実行可能なリスク分担手法を検討する必要がある。
今後、公共利用に関する巨大プロジェクトが増えることを想定すると、より明確な地質・地盤の調査技術と安全な施工技術の改善とともに、地質・地盤リスクに対応したマネジメント手法を整備することが求められる。
近年、完全透視を目指したコンクリート内部探査機の開発が進んでいる。ここでは最近、革新的な技術により開発・発売された新しい電磁波レーダ装置について紹介する。
「コンクリート構造物の内部探査における新しい非破壊検査技術」
【執筆】KEYTEC 社長 岩田 和彦
当社は長年にわたりコンクリート構造物内部の金属、非金属を確実に探査できる装置の実現を目指し、開発を進めてきた。これには「誰でも判断できるように」と12年前に電力会社からの要望を受け、3D機能を開発した。誰でも簡単に操作ができる機能を目指していたが、あまり普及していないのが現状である。
その要因として考えられるのが、大幅に時間と手間を要する点だ。従来、3D測定ではグリッドシートを貼る必要性があり、かつ探査時間がかかっていた。また、探査後の位置照合にも問題点が見られた。これらの課題を打破すべく、今回新たに開発した電磁波レーダー装置(本体機)「Flex NX」には、二つの光学カメラを搭載した。
人間の目と同じように周囲の視覚情報を立体的に認識することで、本体の位置を正確に把握することが可能となった。また、特殊なエンコーダーを併用することで、さらに位置精度が向上した。グリッドシートが不要となったことで不規則なジグザグ測定が可能となり、探査場所に合わせた探査ができるようになった。この結果、作業効率の大幅な改善が実現した。
一方、データ表示も画期的で、探査をしながらコンクリートの表面をまるで消しゴムで消していくように内部透視することができる。また、同装置はシリーズ初の無線化を図った。
本体機と狭所用超小型ユニット「NX25」はワイヤレス接続ができる。さらに本体機を中継器とすることでNX25のみの探査もでき、手持ちの液晶端末で探査データの表示や制御も可能である。ワイヤレス接続は非常に安定性が高く、これにより、より操作性が優れた製品となった。
さらに、クロスアンテナを採用している。従来の送受信アンテナ配置と90度配置を変更するアンテナを内蔵。異なる偏波面を追加することで混雑する下部の配筋や配管、空洞の検出性能を大幅に向上させた。
今後の取り組みとしてはドローンへ搭載し探査を行うシステム開発も検討している。完全透視を目指した全く新しい電磁波レーダーの最新技術を幅広い分野へ活用していく。