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受賞企業座談会
出席者
アイエルテクノロジー(愛知県岡崎市)/代表取締役社長 松本 順氏
先端フォトニクス(東京都目黒区)/代表取締役社長 宋 学良氏
テクノランドコーポレーション/(東京都羽村市)代表取締役 清水 孝志氏
トリーエンジニアリング(兵庫県西宮市)/代表取締役 古堤 裕行氏
〈司会〉日刊工業新聞社社長 井水治博
―開発のポイントについて
井水 皆さん、受賞おめでとうございます。まず会社や受賞製品の紹介、開発で苦労された点などを1人ずつ教えてください。
松本 当社は非破壊検査装置を世に広めようと4年半前に設立しました。今回、中小企業庁長官賞を受賞した「レーザーボンドテスター」は、半導体チップとリードフレーム間を配線するワイヤボンドの接合面積を、レーザー加熱点の温度応答特性で計測・比較することで、非接触・非破壊で瞬時に測定する装置です。従来の抜き取り破壊検査などに比べて、工数を削減して低コスト化できるほか、製品ロスが発生せず廃棄物削減につながります。
専用ヘッドから射出したレーザーでワイヤボンド接合部上面を加熱し、その加熱点から放射された赤外線を検出することで、ワイヤボンド接合界面の面積を計測します。放射された赤外線はワイヤボンド接合面積の影響を受けており、レーザー変調正弦波と温度応答正弦波の位相差を計測して接合の良否を判定します。
開発のポイントは、この位相差と接合面積に強い相関性があることを発見したことです。熱を加えて、熱の広がり方で熱物性の違いを識別できることは前から分かっていましたが、接合面積がどう影響するかはつかめませんでした。二つ目は微少量の放射赤外線の高速センシングと、微小領域の温度変化を捉えることです。またどこに当てたら一番良い測定結果が安定して得られるか、この研究にも苦労しました。
井水 さまざまな課題を乗り越えて、ようやく商品化したということですね。
宋 優秀賞をいただいた「4K対応医療用HDMIアイソレータ」は、医療用電子機器が仮に故障しても、感電から医療従事者や患者を守る絶縁部品です。本製品は半導体レーザーの指向性を利用し、高電圧耐圧に必要な7ミリメートル先まで光で信号を飛ばして電気絶縁を実現しました。従来品である「フォトカプラー」や「磁気カップリングアイソレータ」などで使用されている劣化など危険性のある薄い絶縁膜を、設計段階から排除することで安全性を高めつつ、通信速度を従来品の4倍に当たる毎秒10ギガビットに速め、HDMI2・0伝送を可能にしました。
開発で一番苦労したのは光結合技術です。レーザーから出た光をフォトダイオードまで導く技術で、通信速度を速くするために、フォトダイオードの受光径を数十マイクロメートルの小ささに設定しました。コスト面で困難を極めましたが、出身母体である東京大学中野研究室の協力も得て製品化にこぎ着けました。
井水 半導体レーザーを使って薄膜をなくし、スピードを出すという発想が素晴らしいですね。
清水 素粒子物理学などの実験装置を開発する会社として、1990年に創業しました。20年ぐらい前に大手電機メーカーから、がん治療装置に参入するので一緒にやらないかと誘われ、医療装置の検出器をつくるようになりました。
優秀賞を受賞した「粒子線ガン治療スキャニング装置用ポジションモニタ」は、粒子線の通過位置を計測するためのセンサーで、粒子線をがんの形状に合わせてなぞるように照射する「スキャニング方式」を可能にするものです。照射精度は0.2ミリメートルで、正常な細胞を極力傷つけずに、がん細胞だけを狙い撃ちします。
マルチワイヤ・プロポーショナル・カウンター(多線式比例計数管)という方式を採用し、直径20マイクロメートルの金メッキされたタングステンワイヤが0・8ミリメートル間隔でX方向に306本、Y方向に444本が張られ、その1本1本がセンサーとなっています。ワイヤを均一に張る作業が最も苦労しました。
大手電機メーカーを通じて製品を納入し、国内18カ所、海外14カ所の治療施設で使われています。最新式では呼吸など体動で動くがんに対しても追従して対応する装置も出ています。
井水 非常に高精度でがんの形状になぞって照射する技術はすごいですね。
古堤 自動化・省人化を目的としたフルオーダーの製造装置を開発しています。優秀賞を受賞した「エアーノズルHayate」は、コロナ禍を経て顕在化した工場の省エネニーズに応え、特に水滴を除去するエアブロー作業の電気代を低減するものです。
従来のエアノズルは、吐出口から空気が広範囲に拡散し、極めて効率が悪い。これに対し、ノズルの内部構造と吐出口形状を独自に設計し、薄板状のエアを吐き出させて風速を極限まで高めたことで、少ないエア消費量で容器表面に付着した水滴や異物をほぼ完全に取り除くことに成功しました。
一番苦労したところは、消費量を抑えた上でいかに高風速化するかという点です。独自の工夫によりクリアしましたが、実現までに4年ぐらいかかりました。
飲料品や缶・瓶製造業では、洗浄工程後の乾燥作業は、商品や缶・瓶にラベルを貼る工程や画像検査工程の前に必須のものです。従来品に比べて同じ圧力設定で消費流量が5分の1で済むので、累計販売台数は約500台になりました。
―今後の事業展開について
井水 簡単そうで結構難しい開発だと思います。それでは次の質問です。今後の事業展開をどう進めていくのか、お聞きしたいと思います。
松本 ターゲットはワイヤボンダー(ワイヤ配線装置)です。世界で数千から数万台は稼働しているため、市場性は十分あり、つくれば売れると考えています。
ただ新しい検査方法ですので、お客様から「理屈は分かったが、本当にできるのか」「半導体に対するストレスはないのか」とよく聞かれますが、そのたびに、熱の影響を熱流体解析ソフトでシミュレーションしています。また、お客様の半導体を使い、お客様に動作試験をしていただいて、問題ないかを検証しています。
現在は年間10台、20台ぐらいしか生産能力がないため、販売代理店からは「丸が1個足りない。もっと受注対応力を」と言われています。ただ、人を集めればできるというものでもないので、今後の課題と捉えています。
実際、お客様には納品を順番待ちしていただいている状態です。当社は年10台もつくれば会社はやっていけますが、代理店やお客様がそれを許さない。ある意味でうれしい悲鳴ですが、逆に言えば、今のうちに業界のニーズについていかないといけないと思っています。
宋 注力したいことは国際規格認証の取得です。この製品は国際認証を取っていませんが、競合製品がないため、医療分野で数千個の販売実績があります。ただ「なぜ取っていないのか」と聞かれることが結構あるので、今年中には取りたい。そうすれば市場での広がりが出てくると考えています。
もう一つは製品ラインアップの拡充です。医療規格では医療従事者に対する保護と患者さんに対する保護は基準が違います。今の製品は患者さんに対する保護が単独では実現できません。これから1-2年かけて、それを実現する新製品を開発したいと思います。
顧客は海外が全体の95%以上を占めます。ドイツとイスラエルの会社が結構購入してくれるほか、スイスやカナダの企業が多いです。
清水 医療機器の中の一部に組み込まれるものですので、自分から積極的に営業を広げるというのは難しい。ただ日本人の死因の1位であるがんの治療法について、粒子線治療器は体の負担が少なく、日帰りで治療ができる強みがある。麻酔の効かない人にも有効ですので、確実に市場は広がるはずです。
あと一つは、安定した経営状況を確立することです。生命に関わるので、品質管理面の向上も進めたい。コストダウンができればもっと良いのですが、ハンドメードでつくっており、なかなか難しいというのが現状です。
古堤 現在は飲料業界に対して営業をかけている最中です。洗浄工程の後に乾燥が必要な製造物は、多岐にわたると思いますので、その中でも製薬業界、特に医薬品をつくる工程にも普及させたい。
また半導体業界でも、テスト的に使っていただいているところがあります。今後は特定用途で革新的な内容になる可能性を秘めている分野へも広げていきたい。自動車関連を含めた工場に対する認知度を向上させ、採用されるよう努力します。
日本の総電力消費量の約4%は、コンプレッサーのエアーブローといわれます。それだけ市場はあるわけで、着実に市場を開拓していく考えです。
―経営方針・人づくりについて
井水 では最後の質問です。経営理念や組織・人づくりをどう展開されているのかを伺いたいと思います。
松本 「光計測技術で新たな価値を創造し、ステークホルダーの豊かな明日を実現する」が企業理念です。具体的にどうするかは、経営理念で三つ掲げています。
「仕入れ先や外注先は協力者。大事に共存・共栄を図る」がその一つ。二つ目は「社員は企業そのもの夢を持たせ、健康で豊かな明日を実現する」。三つ目は「SDGsに取り組み、世界に誇れる製品を提供し、社会貢献に精進する」です。
よく技術の世界では「うたい文句や外観など、どうでも良い。中身だ」という方がいます。しかし私は「外がちゃんとしていなければ中身が良いわけない」という考えです。製造業では「製品の外観にお金を使うぐらいなら、1円でも安くして」というケースも少なくありませんが、当社の製品は展示会などで「外観がいい」と評判です。デザインを含めたブランディング戦略は重要だと思い、実践しています。
井水 デザインに着目した点は、モノづくりの良さを伝える意味で素晴らしいですね。
宋 経営理念は「光のポテンシャルを際限なく追求し、新たな価値の創造によって社会と人類の発展に貢献します」です。
我々は短距離の光通信技術に特化していますが、光の優位性は電線の通信と比べて伝送速度が高速で、長距離伝送が可能であり、絶縁性を持っているということです。
数年後にはHDMIも結構高精細な映像が流れ、USBもSSDも非常に速い通信速度になるでしょう。短距離の光通信が家の中でも使われるようになると思います。医療現場では4K、8Kの映像がありますし、工業製品でも高精細映像のニーズは高いと思いますので、そういう将来像を見据えて光技術を極めていきたいと思います。
井水 光技術は無限の可能性がある、それを実証しようというわけですね。
清水 当社の経営理念は「最先端科学技術の発展に寄与できる個性豊かな技術者集団でありたい。そして、社員が常に創造し挑戦する姿を誇りにしたい」です。設立当初から国立大学や日本原子力研究開発機構、理化学研究所など、国家予算や公的資金によって支えられてきました。がん治療器に参入することで、ようやく受けた恩を少し返せる、そんな機会を得たと思っています。
また「確かに不可能なことはある。しかし初めから不可能と考えたら達成できるものは何もない。常に創意工夫することにより可能性の幅を広げる努力をせよ」が行動指針です。何でもやってみて、失敗だと思わない限り、それは失敗じゃないというのが当社のルールです。
今後も社会貢献ができる会社であり続けたい。特に科学技術の世界で育てていただいたので、そこで得た知識・経験・技術を社会還元できればいいと思っています。
井水 その思いをずっと持ち続けて、大志を貫いてください。
古堤 企業理念として掲げているのが、まず「役に立てるモノづくり」。お客様の先のお客様のことまで考えたモノづくりに挑戦することです。二つ目は「新たな『あたりまえ』となるモノづくり」。社会の発展に寄与するモノづくりに誠意を持って取り組もうということです。
第三に「予想を上回るモノづくり」。お客様や社会からの期待・予想を上回る結果を目指そうというものです。中小企業が生き残っていくためには、期待以上の答えを出さないと採用されないという現実もあり、従業員にはそうした行動を徹底させています。
井水 皆さんの話をお聞きし、志の高さを感じました。日本のモノづくりはまだ十分戦えるとあらためて思いました。本日はありがとうございました。