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再生エネで水素製造 ステーション拡充急務
水素エネルギー利活用の代表的なアプリケーションは燃料電池(FC)だ。FCは水素と酸素を化学的に反応させて電気エネルギーを取り出す。「エネファーム」は定置型のFCだ。
FCを動力源とするのが燃料電池車(FCV)。FCVは通常の電気自動車(EV)よりも概して航続距離を延ばせ、充填・充電にかかる時間も短時間で済む。FCVは乗用車ばかりではなく、バスやトラックなど大型車の開発が加速している。
FCVを運用するためには、燃料である水素を供給するための施設、水素ステーションが必要となる。水素ステーションを構成する要素設備・機器は水素製造装置、圧縮機、蓄圧器、プレクーラー、ディスペンサーなどだ。
水素ステーションで供給する水素確保の形式は、大きくは施設で水素を製造するオンサイト型と大規模なプラントで製造した水素を搬入・貯蔵しているオフサイト型の2種類。オンサイト型の施設では都市ガスや液化石油ガス(LPG)を原料に改質したり、水を電気分解したりして水素を製造する装置が設置される。バイオガスの原料利用や、再生可能エネルギーによる電力の利用なども可能だ。
FCVの車載タンクに充填するには800気圧程度まで昇圧する必要があるため、圧縮機が用いられる。高圧化した水素は蓄圧器(容器)にためられる。
水素をFCVのタンクに急速充填するとタンク内は断熱圧縮によって温度が上昇する。そこでタンク内の温度を抑えるため、あらかじめ水素をマイナス度Cまで冷却するプレクーラーが用いられる。
水素をFCVに充填し、計量するのがディスペンサー。安全な充填のため、温度や流量を制御する。ノズルはFCVのレセプタクル(受け口)としっかりかみ合って、漏れない構造になっている。
水素ステーションは現在、首都圏、中京圏、関西圏、九州圏を中心に168カ所で運用されている。FCVの普及には車両コストの低減とともに、水素ステーションの拡充が急がれている。
FCフォーク 可搬型で導入促進
FCの利用は産業車両の代表格であるフォークリフトにおいても、走行時にCO2を排出しない環境性能、通常のバッテリーフォークよりもはるかに長い連続稼働時間、充電・充填時間の短さなど、運用面でのメリットは大きい。一方、運用に不可欠な水素充填設備の整備に多額の資金がかかることがFCフォーク導入のハードルを高くしている。
水素利活用拡大に取り組む愛知県は昨年までの3カ年、FCフォークの中小企業への普及を図るためのモデル実証事業を行った。実証事業では比較的簡易な可搬型水素充填装置などによる水素配送を行うことで、水素充填施設を所有していない企業でもFCフォークを運用できるモデルを確立できた。ただし、当該モデルの普及には水素配送コストのさらなる低減が必要だ。
昨年度までの事業は一区切りしたが、愛知県産業科学技術課では新たに「燃料電池産業車両普及促進事業」の検討を進めている。
専焼タービンに照準 アンモニア化も有力視
水素の利活用のアプリケーションはFCだけでなく、ガスエンジンやガスタービンで直接燃焼させる技術の開発が進められている。まずは水素を混焼することでCO2発生量の削減を図り、そのさらに先には水素専焼ガスエンジン・ガスタービンが目標に据えられている。
水素は燃焼範囲(燃焼可能な空気との混合比率)が広く、燃焼速度が大きいことから、バックファイアーやノッキングなどの異常燃焼が発生しやすい。この課題を克服し、安定燃焼させるためには、水素エンジンの開発において水素燃料供給方法、着火方法、バルブタイミング、混合率などの検討が欠かせない。
水素燃焼の技術開発と並行して、現在注目されているのが、水素からのアンモニア合成、燃料化だ。水素利活用の課題の一つが、輸送や保管など取り扱いが難しい点。液化水素の場合、常圧水素比800分の1の体積で、毒性もないが、マイナス253度Cという極低温の維持が必要だ。
一方、液体アンモニアは毒性・腐食性があるものの常圧水素と比較し体積比1300分の1、温度はマイナス33度Cで、この点では液化水素よりも格段に扱いやすい。アンモニア化して輸送し、水素化して利用するフローもあるが、アンモニアをそのまま発電の燃料とする使い方に期待が寄せられている。
アンモニア発電のメリットは、水素と比べて運搬が容易でコストが安いことや、既存施設を有効活用できることなど。半面、燃焼するとNOxが発生すること、アンモニアの合成に大量のエネルギーが必要なことという課題がある。
カーボンニュートラル、脱炭素の姿の一つ、水素社会を構築するため、水素をいかに「製造」「輸送」「利活用」するか。描いた全体像に対して、一つひとつの課題を克服することで実現に近づくことができるだろう。