-
業種・地域から探す
交通の要衝として多彩な産業発展
物流拠点の進出相次ぐ
-
東南アジア向け貨物を扱うNCBコンテナターミナル(写真提供 名古屋港管理組合)
愛知県尾張西部地区は、同県の北西部に位置する10市5町1村で構成される。愛西市、あま市、一宮市、稲沢市、岩倉市、北名古屋市、清須市、江南市、津島市、弥富市の10市と、大口町、大治町、蟹江町、豊山町、扶桑町の5町、飛島村の1村からなる。このうち愛西市、あま市、北名古屋市、清須市、弥富市はいわゆる「平成の大合併」で誕生した新しい市だ。一宮市、稲沢市も市域を大きく広げた。特に同地区の中心的都市である一宮市は21年に中核都市へ移行し存在感を増している。
豊かな自然が広がる同地区は古くから繊維産業で栄えてきた。明治以降は毛織物の生産が盛んとなり、現在では尾州織物としてブランド化している。また近年は電気・電子機器関連企業や航空宇宙関連産業の集積も進む。愛知県がまとめた最新の経済センサス活動調査産業別集計によると、2021年1年間の尾張西部地区の製造品出荷額等総数は約3兆4573億円。輸送機械や金属製品、プラスチックなどが高い割合を占めた。地場産業である繊維は934億円(構成比2・7%)だが繊維業の活性化に力を入れている一宮市では、製造品出荷額等総数の11%を占める重要な産業として現在も伝統が根付いている。
同エリアが古くから産業で栄えてきた背景には、関東圏と関西圏をつなぐ交通の要衝であったことが挙げられる。現在も発達した交通網がさまざまな産業を支えている。名神高速道路、東名阪自動車道路、東海北陸自動車道路と、日本の主要な高速道路の結束点にあり、各高速道路を結ぶ幹線道路網も充実している。
また、21年に名古屋第二環状自動車道名古屋西ジャンクション(JCT)―飛島JCT区間が開通し、同自動車道が全線開通となった。国土交通省中部地方整備局と中日本高速道路らが22年に発表したデータによると、開通により物流ルートの選択肢が増えたことで国道302号線の大型車の交通量が17%減少。渋滞が解消され、飛島村の飛島ふ頭から長野方面へ向かう勝川インターチェンジ(IC)までの所要時間が平均で21分短縮された。飛島村の飛島ふ頭は、名古屋港内最大のコンテナ物流拠点。22年10月には東側に位置するNCBコンテナターミナルの一部を水深12メートルから15メートルの耐震岸壁に改修し、最大399メートルまでの大型コンテナ船の着岸を可能にした。同ターミナルは東南アジア向けの貨物を中心に扱う。近年自動車部品を中心に東南アジアへの貨物量が増加。コンテナ船も大型化しており、岸壁の改修によって効率化が見込まれる。さらに弥富市、飛島村では大型の物流施設の進出が活性化しており、エリア全体の物流機能の向上が期待されている。
自治体の創業支援広がる ビジネスコンテストや相談窓口開設など
-
多数の事業案が集まった22年大会(一宮商工会議所)
尾張西部地区では各自治体や商工会議所らが地域の特徴を生かした産業振興を展開している。一宮市と一宮商工会議所は、市制と設立100周年を迎えた21年を機に、地域から新たな産業を生み出すべくスタートアップ支援を強化している。同市の地域課題の解決を目的としたビジネスプランを競うコンテスト「スタートアッププログラム」を開催し、スタートアップ人材の発掘と育成を図る。同商工会議所の会員や、同市の住民でなくとも応募可能で、優勝者は同市での事業展開の支援を受けられる。22年は地域密着型の買い物代行サービス「ツイディ」が受賞した。本年度は24年2月に開催を予定する。また高校生向けに「ジュニアスタートアッププログラム」も開催。滝高校(江南市)の発表した、自治体の防災備品向けスキンケア用品を開発するプランが最優秀賞に選ばれた。本年度は8月に開催する。同プログラムの活性化で新たな産業の創出とともに活力ある街づくりが進むことが期待される。
稲沢市は稲沢商工会議所、祖父江商工会、平和町商工会と連携し、創業経営支援センター「スタートアップいなざわ」を開設した。創業支援に加え、企業の経営相談や新規事業にまつわる困りごとの相談も受け付ける。商工業だけでなく、農業の事業支援も請け負うのが特徴だ。利用は完全無料。通常は平日日中のみ利用可能だが、会社員の利用を促すため定期的に夜間の相談も受け付けている。完全予約制で、毎月第2、第4木曜日に実施する。コロナ禍で新しく立ち上げた事業の分社化や、原材料高騰による製品の値上げなど幅広い課題に対応している。
清須市、北名古屋市、豊山町は共同で創業支援計画を策定する。各市町の商工会や地元の信用金庫と連携し、ビジネスモデルの構築から資金調達の相談、創業後のフォローまで一貫してサポートする。利用は創業を希望する未経験者か、創業から5年以内の事業者に限り、商工会の経営指導員か専門家による指導を一カ月以上受けることで国の定めた支援制度も活用できる。各市町にはワンストップ窓口を設け、年間50件以上の創業支援を目指す。
あま市は、地元企業の技術を発信し、シティープロモーションにつなげている。同市の企業がもつ特色ある技術や製品を公式ホームページで「あま市のスゴ技」として紹介。職人の技は動画サイトから見ることもできる。自動車部品メーカーや皮革加工職人、和菓子メーカーなど多彩な分野の企業を取り上げ、自慢の技術を紹介する。同市の魅力を市外に発信するだけでなく、住民に向けた街のセルフブランディングとしても役立っているという。
さらに同市では、物価高騰の影響を受け住民と企業を双方に支援する「アマノギフト事業」を進めている。同市に所在する企業が販売する製品やサービスをカタログにまとめ、その中から住民が好きなものを一つ選択し、無料で受け取ることができる。企業へは事務局から商品の代金が支払われる。