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EV化の流れに対応
非鉄金属需要、大幅に拡大
溶融した金属を鋳型に流し込み製造する鋳物やダイカスト技術は、高度経済成長期以降は自動車産業を最大の需要先とし成長を続けてきた。エンジン部品や足回り品、ブレーキ部品など自動車を構成する重要な要素として使われている。量産技術も確立されており、事業者の規模も拡大。現在では国内の鋳造需要の約6割が自動車産業向けだとされている。
日本の製造業の成長とともに発展を続けてきた鋳物産業だが、大きく変化する時代に伴いさまざまな課題が発生している。経済産業省が発表した2022年の鉄鋼・非鉄金属・金属製品統計月報によると、銑鉄鋳物製品やアルミニウム鋳物、精密鋳造製品、銅合金鋳物の4品目を含む鋳物製造業の生産額は1兆1865億円で前年比108%となった。このうち最も生産額が高いのが銑鉄鋳物製品で、7570億円(前年比106・9%)。うち52%となる3965億円が自動車向けの製品だ。鋳物製造業全体が、自動車生産台数に大きく左右され、安定した受注を得られないことが業界の課題となっている。
また電気自動車(EV)化の進行により、非鉄金属の大幅な需要拡大も見込まれる。経済産業省のまとめによれば、非鉄金属の国内総出荷額は18年が10兆円。EV化が進めば、使用量がエンジン車に比べて3、4倍増加するとされる。鋳物製品では内燃エンジン向け部品が減る一方、電池やモーター類のケースを含めアルミ鋳造部品のニーズが高まる。22年のアルミ鋳物の生産額は2793億円と鋳物生産額の23%程度だが、今後需要の増加が見込まれ、今から対応に乗り出すメーカーも多い。
一方、電気機械など自動車向けでない銑鉄鋳物の生産額は22年で全体の35%まで伸びてはいるものの、工作機械で全体の約3%、産業機械、半導体製造装置などを含めても全体の15%以下だと専門家は分析する。こうした銑鉄鋳物を扱う事業者は多品種小ロット品が主力で小規模な場合がほとんど。銑鉄鋳物事業者は従業員30人以下の小規模企業が75%を占め、人手不足や後継者問題は廃業の主な理由となっている。次世代育成は喫緊の課題だ。
1990年代に1899事業所あった銑鉄鋳物事業者は、2022年では644事業所と3分の1程度まで減少。人材の確保と次世代を担う技術者の育成が強く求められている。さらに円安によるエネルギーコストの高騰は、多くのエネルギーを必要とする鋳物事業者にとって大きな打撃。業界の危機感はますます強まっている。
ロボット産業でニーズ高まる
銑鉄鋳物の不足も課題だ。銑鉄鋳物の国内生産の平均は年間100万トン程度。25年間で約半減する一方、主要生産財の国内生産額は増加しており不足する銑鉄鋳物の調達先が課題となっている。
こうした状況の中で存在感を増しているのが、中国製鋳物だ。日本関税協会が発表した日本貿易月表によると、国内に輸入される銑鉄鋳物は約20万トンで、中国、韓国、タイ、ベトナムが主要な調達国。このうち約8割が中国から輸入されている。しかし日本鋳造協会は銑鉄鋳物製品を含んだ輸入量は約100万トンに上ると指摘する。輸入されてくる鋳物は機械部品などに加工された状態がほとんどで、鋳物製品そのものとして計上されるのはごく少数だ。機械部品などとして輸入された銑鉄鋳物も多くは中国製。現在では国内需要の50%以上を占めている。
しかし円安と米中対立の地学的リスクから鋳物製品を含む機械部品を内製化する動きが強まり、自動化へのニーズがより高くなっている。自動化に欠かせないロボット産業は、鋳造業界が新たな需要先として取り込みに注力してきた。高い製品精度が求められる分野だが、国内の鋳造事業者は技術力が高く、海外の事業者よりも提携や協業のニーズがあるという。ロボットメーカーでは依然として鋳物部品の不足が続いており、需要に対応しきれていないのが現状だ。鋳物産業の今後に期待がかかる。
創立90周年式典を開催 技術発展、人材育成に貢献
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異なる立場から鋳造の今後を議論した
日本鋳造工学会は3月11日に「学会創立90周年記念式典」を早稲田大学西早稲田キャンパスで開催した。リアル会場とオンライン会議システムを用いたハイブリッド開催で、合わせて200人程度が参加。式典に合わせて実施された記念特別講演では東洋大学経営学部の山本聡教授が「中小企業の現状と方向性 ~外部環境の変化に対峙する経営者の姿~」のタイトルで講演した。また鋳物産業の抱える課題を語り合うパネルディスカッションも開いた。山本教授、木村寿利木村鋳造所社長、井澤龍介リョービ静岡工場長、林憲司日産自動車主管が登壇し、清水一道同工学会会長がファシリテーターを務めた。「EV化とカーボンニュートラルを考慮したこれからの鋳造産業と人材育成の方向性」のタイトルで、鋳物事業者や自動車メーカーなどそれぞれ異なる視点から見た鋳造の先行きを議論した。
同工学会は1932年5月に日本鋳物協会として設立され、国内の鋳造技術の向上と鋳物業界の発展に寄与してきた。若手技術者の育成と最新技術の発表の場として、毎年春と秋には全国講演大会を開催。本年度は5月19日から近畿大学東大阪キャンパスなどで開かれる。