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自動車部品/トヨタグループ 相次ぐトップ交代
トヨタ自動車グループで社長交代が相次いでいる。トヨタ車体とトヨタ自動車東日本(宮城県大衛村)は4月から、デンソーや愛知製鋼、豊田合成の3社は6月開催の株主総会後に新経営体制へ移行する。主要取引先のトヨタでは4月に豊田章男社長から佐藤恒治新社長へバトンが渡り「モビリティーカンパニーへの変革」を強力に押し進めている。これに呼応し、トヨタグループの各社でもクルマの電動化などへの対応を加速するため、若返りを含めた新たな経営体制を構築する。
生え抜き軸に構造転換加速
相次いだトヨタグループでの社長交代のキーワードは「生え抜き」の登用だ。トヨタからトップを招聘(しょうへい)するのではなく、自社内で成長事業をけん引する人材などが新社長に就任する。これまで辣腕を振るっていたトヨタ出身の社長は会長に就任するケースが多い。新社長が成長事業や電動化対応を加速し、会長がトヨタなどとの連携を堅持する役割分担が進むとみられる。
デンソーは生え抜きの社長が続いているが今回の社長交代も同様だ。4月上旬には林新之助経営役員(59)が社長兼最高執行責任者(COO)に昇格する人事を発表した。8年務めた有馬浩二社長(65)は代表権のある会長兼最高経営責任者(CEO)に就く。
林次期社長は入社以来、一貫してエレクトロニクスやソフトウエア分野に携わってきた。トップ交代により電気自動車(EV)への対応や、ソフトで機能を更新するクルマづくりへの事業構造転換といった重要テーマを加速させる狙いがあるとみられる。林次期社長は「内燃機関から電動化へ、ハードからソフトへの構造転換と、自動車以外の価値を創造すること」を課題に挙げ「新たな価値を創造し続け、変化の時代を力強く生き抜く会社に進化させるのが私の使命だ」と力を込めた。
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愛知製鋼は後藤尚英経営役員(57)が社長に昇格する。藤岡高広社長(68)は代表権のある会長に就く。後藤次期社長は14年と20年にトヨタ向け営業部の部長を務めるほか、22年にはトヨタの本社工場に出向するなど、営業畑を歩きながらトヨタとの連携を深めてきた生え抜きだ。一方、藤岡高広社長はトヨタで高岡工場長や堤工場長などを歴任し、11年から12年に渡り愛知製鋼をけん引してきた。
同社はトヨタグループ唯一の素材メーカーで特に特殊鋼の供給が主力事業。足元では資材やエネルギー価格の高騰が業績を悪化させる要因になっていたが価格改定にも一定のめどがついたほか、パワーカード用リードフレームなど車の電動化に対応する製品も量産体制に入っている。次の成長フェーズに移行するタイミングで後藤氏にバトンを引き継ぐ。
EV・脱炭素対応 迅速に
トヨタ車体は松尾勝博取締役執行役員(58)が4月1日付で社長に昇格。増井敬二社長(68)は代表権のある会長に就任した。
同社はスポーツ多目的車(SUV)や商用車、バンの設計開発や生産を担う。若返りを図り、電動化や脱炭素化といった業界変革への対応力を高めるのが狙いだ。松尾氏は原価企画の担当が長いほか、海外の部品生産子会社社長や生産管理などを歴任した。トヨタからバン事業を移管されるなど次世代への一定のめどがついたタイミングで、次の経営トップ体制に移行する。
同じく、主に小型のトヨタ車の開発や生産を担うトヨタ自動車東日本も4月1日付けで石川洋之取締役(55)が新社長に就任し、宮内一公社長(66)は代表権のある会長に就いた。
同社は12年の発足以来、トヨタ出身者が社長を務めてきたが、石川新社長は関東自動車工業(現トヨタ自動車東日本)出身の生え抜き。生産や工場に関わる業務を中心にキャリアを積んできた。石川新社長は「従業員と同じフィールドに立ち、一緒に走り回り、フォローやカバーリングといったつなぎ役を自ら担っていく」と所信を表明する。
豊田合成は斉藤克己執行役員(57)が社長に昇格する。小山享社長(63)は退任し、豊田合成ノースアメリカ(ミシガン州)の取締役会長に就任する。経営トップの若返りにより30年を目指した中長期の事業計画の策定などを進める。斉藤次期社長は「社会や自動車業界だけでなく人の価値観も変わっている。継続的な成長のため早期にありたい姿を決め、実行に移す」と決意を語る。
小山社長は38年ぶりの生え抜き社長として注目された。トヨタからの招聘ではなく内部から2代続けての昇格となる。
自動車業界は「100年に一度の大変革期」と言われており、エンジンだけでなくモーターを主な駆動源とした自動車も普及し始めた。世界一の新車販売台数を誇るトヨタもEVの分野ではその地位は盤石とはいえない。地域のエネルギー事情などに適した車両を展開する「マルチパスウェイ」を堅持しつつEVに適したモノづくりや事業モデルの構築に乗り出している。トヨタを支えるトヨタグループもさらされている市場環境は同じだ。トヨタの方針に呼応しながら新たな体制で新たな時代に挑む。