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業種・地域から探す
金融/中小支援に全力
地域の企業に寄り添い、発展を目指すのが地域金融機関の変わらない使命だ。特に中堅・中小企業は情報も経営資源も限られる中で、共に取り組めるパートナーを常に求めている。愛知県を地盤とする名古屋銀行と愛知銀行も顧客企業の課題解決のため、さまざまなコンサルティングを提供している。今回、名古屋銀行に健康経営支援について、愛知銀行にM&A(合併・買収)を軸にした事業承継と新事業展開支援について、それぞれキーパーソンに聞いた。
「健康経営」をサポート/名古屋銀行 企画役 宮田 愛美氏
―取引先への健康経営推進に力を入れています。
「おかげさまで『健康宣言』支援先数、健康経営優良法人(中小規模法人部門)認定先数は順調に増えている。健康課題に対する取り組み目標を発信する『健康宣言』の支援先数は2023年3月末時点で2127社。昨年と比較し約1000社増えており、まだまだ裾野は広いと実感している。健康経営優良法人2023(中小規模法人部門)では、コンサルティング契約先の173社が認定を取得した。これは愛知県での同法人認定先の約10%に当たる。さらに上位500位に該当する「ブライト500」認定企業もあり、お客さまと共に喜びを分かちあえたことがとてもうれしい。認定はきっかけに過ぎないが、健康経営の考え方を共有し、支援先の従業員様の健康増進や環境改善に向けた取り組みは必ずその企業の成長につながると考えている」
―名古屋銀行自身も健康経営に取り組まれていますね。
「当行も健康経営優良法人(大規模法人部門)は20年から毎年取得しているが、今年初めて上位500社に該当する「ホワイト500」を取得できた。総合順位は1―50位のグループにあり、公開されている評価点数を見る限り地方銀行では1位だ。こうした当行に対する評価は、よりお客さまに信頼と安心感を与えられるだろう。営業店にも『健康経営』が浸透してきており、取引先で健康経営と聞いたらすぐに本部対応だったものが、現在は営業店担当者が説明しコンサルティング契約まで至っている。健康経営が企業の成長にとってプラスとなることを当行自身が体現していき、同時に『お客さまのために』健康経営を推進していくような循環を生み出すことができると理想だ」
―実際にはどんな支援をするのですか。
「『健康経営という言葉は聞くけど、具体的に何をしていけばよいか分からない』というお客さまが多い。そのため、健康経営優良法人認定項目を参考に状況を確認しながら、活用できる自治体のサービスや簡単な取り組みを紹介する。一通り説明を終えると、やることが見えてホッとした表情をされるのが印象的だ。健康経営は後ろ向きに捉えられるとうまくいかない。『できそうだな』と思っていただくことを心掛けている。例えば禁煙の項目は経営者様が喫煙者の場合、優先順位を下げて対応する。型にはまったサービス提供ではなく、各社の状況に合わせて柔軟に対応している」
―健康づくりを突き詰めると各社各様の課題が見えてきませんか。
「そうした一面もある。例えば残業時間が多い企業の場合、特定の時期や部署などがあるか、残業が前提となった給与体系になっていないかなど聞かせていただく。その中で、例えばシステム化や一時的なプロ人材の投入、人事評価制度の見直しなど外部資源を活用する選択肢について紹介するケースもある」
「採用や社会的評価という面でもやはり『健康経営優良法人』のマークがあると有利に働くことはあるだろう。しかし、健康経営の推進は、むしろ今働く従業員のワークエンゲージメント向上や離職防止につながっていく。従業員がいきいきと働く会社には人は自然と集まっていく、それくらいの時間軸で考えてもらう方が成功につながりやすい。人的資源が限られた中小企業こそ健康経営は経営課題に直結する。できることを積み重ねて、少しずつよい循環を生み出していただきたい。その中で出てくる課題に対して名古屋銀行は多面的にサポートする体制が整っている。信頼して相談いただきたい」
地銀ならではのM&A/愛知銀行 調査役 中前 和久氏
―事業承継支援にはさまざまな方法があります。その中でM&A(合併・買収)には取引先の関心は強いですか。
「通常、事業承継は親族内承継という選択肢が選べない場合、残る選択肢は役員や従業員への社内承継か外部の第三者へのM&Aになる。当行にも親族に適任者がおらず、相談に来られる企業は多いが、そのほとんどは明確にM&Aを行うとは決めていない。M&Aは相手が見つからないことには具体的な話が進まないこともあり、社内承継とM&Aのどちらがいいのか、多くは漠然と悩んでいる。一方で現在はM&A専門会社からのアプローチが多くの企業に対し行われており、M&Aという方法の認知度は上がっている」
―M&Aを選択するのは、どのようなケースが多いですか。
「当行では、事業承継はもちろんだが、事業戦略上でM&Aを選択、検討されるケースの相談も多くある。『こういう分野に進出したいがそのための従業員は限られる。わが社単独では成長戦略を描きにくい』といった危機感を持つ40代、50代の比較的若い経営者が検討されるケースだ。一方でこの場合、『10年後に自社のありたい姿、ビジョンを実現できるか。自分の代でそれが実現可能か分からない』という関心や問題意識の強い売り手側の企業もある。こうした時には業務提携や資本提携も視野に入れたマッチングが非常に有効だ」
―マッチングが成立しやすい業種や業態はありますか。
「業種で言えばソフトウエアや電気工事、土木工事などだ。こうした業種の企業は人材(人財)が決定的に重要だが、その人財は専門的なスキルや資格、経験が必要なためすぐには育成できない。そのため非常にニーズが強い。また製造業で言えば、例えば自動車部品などの製造加工に汎用の工作機械を使用していて、建材や産業機械といった他の分野へも展開が可能な場合には有用なことが多い」
―マッチングを成功させるには、事業内容をよく把握していて、しかも幅広い企業情報が必要ではないですか。
「当行には愛知県を地盤とした113年の歴史がある。取引先と世代をまたぎ、長年にわたり信頼を得て、それをつないできた伝統がある。だから収集される情報の量と質には自信がある。加えて当行は、中京銀行と2022年10月に経営統合し、さらに25年1月1日に合併する。中京銀も80年の歴史があり、お取引先の重複もさほどなく、情報量は飛躍的に増加する。期待してほしい」
―愛知銀行の人財や体制面は十分でしょうか。
「当行が事業承継に本格的に目を向けたのは15年ほど前。地域金融機関の中では早い方だと思う。M&Aの実務も従来はノウハウが乏しく、外部の専門会社に依頼していたが、ここ4、5年で自行内で完結できる態勢を整えた。22年10月にはソリューション営業部に『事業承継・M&Aグループ』を設け、さらに機能を強化している。ここに営業店を含め、元々持っている情報や情報網をうまく組み合わせていく。メンバーもいろいろなコンサルティング会社などに出向して経験を積み重ね、また税理士や中小企業診断士など公的資格の取得者も在籍しており、個々人のレベルは高いと自負している」
―地域金融機関としての強みについて。
「我々はM&A専門会社ではないのでM&Aだけを勧めることはなく、一つの選択肢に限定しない。途中で方向転換してもらっても全く構わない。目的はこの地域の企業が事業を継続し、雇用を守り、ひいては地域経済の発展につながることだ。個々の状況をよくお聞きし、選択の“気付き”を提案する。そこがお客さまの安心感につながっていると思う」