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脱炭素化の商機到来 エネルギー危機に挑む
ロシアのウクライナ侵攻による国際的なエネルギー市場の混乱や国内需給の逼迫、価格高騰などの課題が複合的に押し寄せている。かつて、日本は二度にわたるエネルギー危機をバネに省エネルギー大国への歩みを進めて存在感を発揮してきた。今回は、脱炭素化がピンチをチャンスに変えるキーワードとなりそうだ。中部の産業界から、新時代のエネルギーを目指した取り組みが始まりつつある。
再生エネルギー/産業界、PPA調達拡大
脱炭素化時代のエネルギーの代表格とされるのが再生可能エネルギーだ。中部電力は2030年ごろまでに、約4000億円を投じて合計200万キロワットの再生エネ電源を開発する。陸上・洋上風力や太陽光、水力、バイオマス、地熱発電の6種の電源開発を進める。30年の年間発電量は17年度末比で2倍に増える。
一方、需要家となる産業界では、PPA(電力購入契約)を活用して再生エネ電力を調達する動きが相次いでいる。電力会社などが需要家の土地や工場の屋根に太陽光発電(PV)設備を設置し、発電した電力をその場所に供給するなどの仕組みだ。供給を受ける側は、初期投資やPV設備のメンテナンスなしで再生エネ電力を調達できる。
ブラザー工業では23年2月に、名古屋市港区にある倉庫を使ったPPAを始めた。倉庫で消費する電力を上回る発電能力のPV設備を置き、余った電力を本社ビル(名古屋市瑞穂区)などに供給する。20年間の固定価格で調達する契約のため「電力料金の高騰に対し、相対的に安くなると考える」(伊藤敏宏常務執行役員)という。
中部電力ミライズ(名古屋市東区、大谷真哉社長)では22年中の契約件数が21年比2倍に増加。社会全体の再生エネを増やしているかを問う「追加性」が急伸する要因の一つだ。PPAの比較対象となる、発電時に二酸化炭素(CO2)を排出していないことを証明する非化石証書が付いた再生エネ電力の調達では「社会全体の再生エネが実は増えておらず、環境意識の高い株主や取引先から評価されにくい」(中部電力幹部)という。
OSGは太陽光パネルの下で農作物を作る「営農型太陽光発電所」からPPAで再生エネ電力を調達する取り組みを2月に始めた。愛知県東部の東三河地域の農業支援を図りながら、追加性のある再生エネ電力調達を進める全国的にも珍しい取り組みだ。
ほかにも、米半導体大手のマイクロン・テクノロジーなどは、中部電の水力発電所を増強する工事費を拠出し日本で使う再生エネ電力の確保に動き出した。脱炭素化した電源開発と電力調達の勢いは加速しそうだ。
水素・アンモニア/広域的社会実装へ前進
水素やアンモニアなどの次世代エネルギーへの期待も高まっている。中部圏の自治体や経済団体、トヨタ自動車などの企業で構成する「中部圏水素・アンモニア社会実装推進会議(会長=大村秀章愛知県知事)」は3月、50年の年間需要量を水素200万トン、アンモニア600万トンとすることを目標としたビジョンを策定した。サプライチェーン構築や需要創出などで取り組みの方向性を示して、世界に先駆けて広域的な社会実装の実現を目指す構えだ。
東邦ガスは知多緑浜工場(愛知県知多市)で天然ガスを原料にした水素製造プラントの建設を進めている。年産能力は約550トンで、24年度までに供給開始する。製造した水素は圧縮し、タンクローリーで出荷。工業炉やバーナーなどの熱分野、工業用原料、燃料電池車(FCV)での活用を見込む。
水素活用の機運について増田信之社長は「FCVを中心に需要があるが、近年は(熱分野での活用に向けて)試験的に導入したいという顧客がいる」と説明する。水素燃焼の導入を支援するための、燃焼試験サービスを拡充することで「地道に需要を開拓する」(増田社長)考えだ。
同社は都市ガスから水素への移行がしやすい水素燃焼バーナーの開発にも注力して、水素社会が到来した時に向けて、スタートダッシュできる体制づくりを着々と進めている。
アンモニアの活用では、JERAの碧南火力発電所(愛知県碧南市)が中心的な役割となる。石炭を燃料とする同発電所の4号機(出力100万キロワット)で、アンモニアを20%混ぜて発電する実証が23年度中に始まる。同社は40年代にアンモニア専焼の実現を目指す考えで、推進会議が掲げる50年の需要量600万トンは火力発電の燃料用が大半を占めることになる見通しだ。
市況改善で還元 中部電値下げ
エネルギー価格が高騰する中、中部電力は負担軽減策を始める。4月に約9.8%―11.1%値上げした、事業者向け電力の特別高圧と高圧の電気料金を対象に、約5.3%―6.9%割り引く負担軽減策を5月の検針日から5カ月間実施する。エネルギー市況や為替の改善を顧客に還元する狙いで、1キロワット時当たり2.09円を割り引く施策を期間限定で実施する。「現在の状況が続くのであれば、その後も負担軽減策を考えたい」(中部電幹部)としている。
エネルギー価格の見通しについて、林欣吾中部電社長は「至近を見ると安定している」とみるが「ボラティリティー(変動性)が高く、地政学リスクも残っている」と説明する。液化天然ガス(LNG)については、増田東邦ガス社長は「2022年秋から価格が上昇してきたが、今は少し落ち着いている。この状況が続く可能性は高いが、冬に向けては予断を許さない」と危機感を示す。