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飛躍の象徴「カイロス」
再々延期で8月打ち上げ予定―競合ひしめく宇宙ビジネス
カイロスは、射点での燃料充填が不要で、シンプルな構造の固体燃料式ロケットだ。全長18メートルは、同じ固体燃料のイプシロンと比べても4分の3程度と小型。東と南、両方の打ち上げ方角に海が広がる串本町に、専用の射場「スペースポート紀伊」を建設することで打ち上げ需要に即応できる体制を整えた。
スペースワンは、カイロスによって”宇宙宅配便”を銘打ち、超小型人工衛星を地球周回軌道まで届ける事業を構想している。契約から打ち上げまでが約2年と「世界最短」、打ち上げ回数は年20回の「世界最高頻度」を特徴としたい考えだ。
1月末に再々延期を公表した際、理由に海外調達部品の納入遅れを挙げた。半導体部品であるとの見立てもあるが、真相は定かではない。2022年末に射場を報道公開した際に同社は、初号機に係る部品調達を、ほぼ終えたと説明していた。ただ、乗り越えなければならない山がいくつかあると話し、準備が順調だとは言えないことも示唆していた。
延期が伝わっても、地元に悲壮感は漂わなかった。打ち上げ予定時期が目前になってもアナウンスがなく、延期を噂する声が広がっていた。日ごろからスペースワンの情報開示に対する消極的な姿勢に、不信感を抱く地元関係者も少なくない。
宇宙ビジネスは海外の競合が次々と実績を重ねており、将来に大きな市場が望めていても、出遅れれば致命的だ。後発事業者として汎用部品の活用でコスト競争力を高めるもくろみだが、調達に不安を抱えたことで「本当にコストダウンは実現できているのか」など心配の声も上がる。
さらに日本の商用ロケットはイプシロン、H3と打ち上げの失敗が続いている。カイロスは信頼回復とともに世界の顧客から選ばれるためにも、失敗が許されない状況にある。
カイロスはギリシャ神話で時や機会をつかさどる独特の風貌をした神。「チャンスの神は前髪しかない」の格言で知られる。好機は目の前に来た時すぐにつかまなければ、後から捕まえることはできないとの教訓だ。宇宙ビジネスを無事軌道に乗せられるか、時は悠長に待ってくれない。
見学客・学生受け入れ準備着々―地域挙げて機運高める
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ラッピングを施した特急くろしお「ロケットカイロス号」と誘客を訴求する串本町職員
射場の地元、串本町や那智勝浦町では、初号機の打ち上げに向けて、見学客の受け入れ体勢や土産物の開発など着々と準備が進む。多くの海水浴客が訪れる夏以外、通年の観光コンテンツとして来訪客の増加を見込み、地域活性化の起爆剤として期待を寄せている。
串本町では、旧古座分庁舎を改装して、ロケット関連資料や8K映像を楽しめる拠点作りに取り組んでいる。打ち上げは天候に左右されるため、来訪客が空振りに終わる可能性もある。宇宙関連施設を用意することで再訪につなげたい考えだ。拠点には将来の宇宙関連企業の進出を視野に、サテライトオフィスも整備した。ロケットと関連させた土産物も地元事業者が順次開発を進め、ラインアップが充実してきた。
24年度に開設する串本古座高校「宇宙探求コース」はこのほど、カリキュラムの素案が公表された。1年生で宇宙探求基礎、2年生では宇宙航空工学、宇宙ビジネス探求など、3年生で宇宙と国際理解など。3年間で宇宙に関する科目を7―11単位学習する計画だ。
地元、串本町には全国各地の志望者から問い合わせが相次いでいるという。岸本周平知事は「保護者が送り出しやすい受け入れ体勢を作る」とし、サポートに取り組む方針だ。
打ち上げに向けて地元以外にも機運を盛り上げていこうと、JR西日本は3月末から紀勢線特急「くろしお」の一部列車で車両先頭部にラッピングを施した「ロケットカイロス号」の運行を始めた。大阪市内の主要駅や京都に乗り入れることから、都市圏での認知度向上に寄与しそうだ。