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自動車/トヨタ、飛躍へ新体制 TOYOTA NEXT STAGE
トヨタ自動車が次世代へのさらなる飛躍に向け、大幅な体制変更を実施した。2009年から社長を務めてきた豊田章男氏が会長となり、新たに高級車ブランド「レクサス」などを率いてきた佐藤恒治氏が社長に就任。「モビリティーカンパニーへの変革」を強く打ち出し、未来志向の会社づくりや事業構築を加速している。脱炭素化やクルマの知能化など、対処すべきテーマは多い。東海・北陸エリアに大きな影響を及ぼす“新生・トヨタ”の動向に、ますます注目が高まっている。
モビリティーカンパニーに変革
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トヨタなどの商用車連合は、タイでカーボンニュートラル・モビリティーの試乗会を実施
1月26日。トヨタの自社オンラインメディアで突如発表された豊田氏の社長交代を、多くの関係者が驚きとともに見守った。豊田氏は交代の理由を「トヨタフィロソフィーを作ったことや体質改善など、バトンタッチの土台ができた」と説明。その上で「これまでは私の個人技で引っ張ってきた面があるが、トヨタの自律的に成長するには、私から離れた所でチームが適材適所でやっていくことにかけたい」と、経営をサポートする姿勢を表明した。
「若さと車好きであるほか、トヨタの思想・技・所作を車づくりの現場で体現してきた」との理由から後任に就いた佐藤氏は、豊田氏よりも一回り以上若い53歳。最大のミッションは「自動車会社からモビリティーカンパニーへの変革」で「継承と進化をテーマに創業の理念を大事にしながら新しいモビリティーの形を示したい」と意気込む。
佐藤氏が経営方針の一つに掲げるのが、経営陣が率直に意見を言い合い、個人の特性や役割を発揮しながら実行力や経営スピードを高めていく「チーム経営」だ。自身をチームの“キャプテン”と称する佐藤新社長を支えるのは、多彩な顔ぶれの役員らだ。
中型車と商用車カンパニープレジデントの中嶋裕樹氏と、チーフコンペティティブオフィサーで事業や販売を統括する宮崎洋一氏が副社長に。中嶋氏は最高技術責任者(CTO)を、宮崎氏は最高財務責任者(CFO)を兼務する。このほかデザイン担当のサイモン・ハンフリーズ氏が最高ブランド責任者に、小型車カンパニープレジデントの新郷和晃氏が最高製造責任者にそれぞれ就いた。
北米担当の小川哲男氏、中国担当の上田達郎氏、渉外広報担当の長田准氏も加えて、執行役員は社長以下8人。中嶋副社長は「『もっといいクルマづくり』にいそしむ若い開発陣を育成することに尽力したい」と、宮崎氏は「各地域の脱炭素化事情に合わせた商品展開に向け、各地のトップとのより密な連携を加速したい」と語る。
脱炭素化 コンセプト示す
スピード経営とモビリティーカンパニーへの変革の芽は、徐々に現れ始めている。新体制が正式に発足して1週間というタイミングで、経営方針説明会を開催。ここでは知能化や社会システムと融合したコネクテッドカー(つながる車)など、トヨタとしてモビリティーのあり方を定義し、方針を示した「トヨタモビリティコンセプト」を打ち出した。
その要素の一つが、脱炭素化だ。ハイブリッド車(HV)やプラグインハイブリッド車(PHV)、電気自動車(EV)、燃料電池車(FCV)のほか、カーボンニュートラル燃料の活用も含めて、地域に合わせて最適な選択肢を提供する「マルチパスウェイ」を進めるとあらためて強調。50年のカーボンニュートラル(温室効果ガス排出量実質ゼロ)達成に向けた中間目標として、35年に19年比で50%以上の二酸化炭素(CO2)排出量を削減することを示した。
クルマの未来変える
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トヨタの佐藤次期社長(中央)が自身の社長就任後の新体制について記者会見で説明した -
トヨタが発売した高級車ブランド「レクサス」初のEV専用車「RZ450e」。
このほかEVでは26年までにより適したプラットフォーム(車台)の刷新と、これを採用した次世代EVをレクサスで開発すると発表。同年までに新たに10モデルを投入し、EVの年間販売台数を150万台にする目標を掲げた。年内に新興国でピックアップトラックEVの現地生産を始めるほか、24年には中国で現地開発したEVを2車種投入。米国では25年に3列シートのスポーツ多目的車(SUV)型EVの生産を始める。宮崎副社長は「需要が積み上がればさらに現地生産を進めていく」との見通しも明かした。
EVでは専門部隊も新設する。5月の大型連休明けに正式発足する予定で、中嶋副社長は「しがらみを絶ち全く新しいことをやれるようにする」と力を込める。26年の次世代EVでは自動化やトヨタ生産方式(TPS)もフル活用して生産工程数を半減し、コスト競争力も高める。佐藤社長は「将来への仕込みを大胆に行い、普及期に向けた次世代EVを開発する」と話す。
EV・自動運転へアクセル
自動運転など先進技術の開発を担う子会社、ウーブン・バイ・トヨタ(東京都中央区)も動きを加速させる。走行性能や車載システムを一括制御する自社開発の車載基本ソフト(OS)「アリーン」について、26年の次世代EVへの搭載を発表。まずは次世代型のソフト開発基盤として25年に実用化する。また、静岡県裾野市で建設を進めている次世代技術の実証都市「ウーブン・シティ」では、25年に一部実証試験を始める。モビリティーサービスやエネルギー、物流、食・農業といった分野が対象になる予定だ。
佐藤社長は「クルマの未来を変えていこう。これが新経営チームのミッションだ」と強調する。次世代のクルマは「社会システムの一部として進化すべきだ」と断言。エネルギー関連など他社との連携も示唆しながら「クルマの新しい価値を提供する」と強調する。トヨタは過去十数年で、地域に密着して多様なニーズをくみ取り、それを商品に生かして市場にフィードバックする強みを培ってきた。その積み上げによる年間1000万台規模の販売台数と市場や製品の多様性は、正解のない時代の経営を支える基盤となる。