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モノづくりの革新担う 機能性化学
化学物質の持つ機能を応用し、独自の特性を生み出すことでモノづくりに貢献する機能化学品。海外との競争激化など市場環境の変化から国内化学メーカーは汎用品からの脱却を進め、機能化学品を中心とする体制に事業構造を転換してきた。各社が供給する製品は多様な産業製品の材料に使用され、そのユニークな特性を生かし、モノづくり分野の技術革新を支えている。
リチウム電池周辺―接着剤樹脂向け好調
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クレハのポリフッ化ビニリデン樹脂
クレハが国内で初めて工業生産を始めたポリフッ化ビニリデン樹脂(PVDF)。優れた性質と成形加工性を持ち電子材料や釣り糸、楽器の弦などに使われてきた。近年はリチウムイオン電池(LiB)や水処理膜などの分野でも注目される。
強い需要がみられるのがLiB電極用のバインダー(接着剤)樹脂の用途だ。PVDFは安定性や機械的強度の大きさなどから活物質を結着するバインダーとして使われる。クレハは高容量用途の正極活性物に対しても高密着性を発揮する製品開発などを続け、生産増強も計画し旺盛な電動化需要に応える。
DICもアクリル系合成樹脂を用いた新たな負極用バインダーを開発した。LiB高容量化に伴う技術課題克服への貢献が期待できる。国内外のLiBメーカーなどに提案・販売し、グローバルで供給体制を整える。
UBEは原料を含めた機能化学品のサプライチェーンを形成する。LiB電解液の原料として需要が高まる炭酸ジメチル(DMC)は、一酸化炭素(CO)を原料に製造する「C1化学」製品群の川上に位置する。DCMの誘導品は高級ポリウレタン原料や環境に優しい塗料原料などがある。同社は米国での製造を検討中で、高付加価値の化学品の展開による事業拡大に向けた土台づくり挑む。
自動車―電装・電子機器が堅調
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EVに使用される高圧ケーブル(イメージ)
電池だけでなく、電気自動車(EV)分野でも高機能素材が貢献している。東レはEVの電装部品などに使われるポリフェニレンサルファイド(PPS)樹脂を手がける。PPS樹脂は耐熱性や耐薬品性などが高くスーパーエンプラに位置付けられ、電装部品や電子機器など向けに需要が旺盛。今後も市場全体で年率6%以上の成長が見込まれ、同社は原料を含めた生産能力増強を計画する。
EVやハイブリッド車(HV)では性能向上のため駆動システムの高電圧・大電流化が進むなど、電動化関連の新たな材料需要が生じている。信越化学工業は車載用の高圧ケーブルに適した高耐電圧の成形用シリコーンゴムを開発した。絶縁破壊強度を同社従来品の約1・5倍に向上させ、被覆層を薄くしても性能を確保できる。被覆層の薄さはケーブルの柔軟性につながるため、軽量化に加え配線の作業性向上などに貢献する。
半導体・FPD―ターゲット材増産
電子・情報分野では最終製品に加え製造工程で不可欠な材料なども手がけ、製品供給を支えている。東ソーは半導体やフラットパネルディスプレー、太陽電池などの薄膜形成材料であるターゲット材を手がける。スパッタリング法による薄膜形成を行う材料で、米国では金属系ターゲット材の増産も計画する。また、次世代パワー半導体素材として活用が見込まれる窒化ガリウム(GaN)成膜向けターゲット材の開発も行う。
三菱ガス化学は半導体製造用の薬液や、半導体パッケージ基板材料を手がける。同社は独自技術でBT(ビスマレイミドトリアジン)樹脂を用いたプリント配線板用材料を開発し、耐熱性に優れ熱膨張性が低いなどの特徴から半導体パッケージやチップLED、高周波分野などで使用される。JNCはディスプレー製造に不可欠な材料を供給し、特に液晶材料では高シェアを持つ。青色材料など有機EL分野でもディスプレーの高性能化に貢献する材料を展開し、スマートフォンなどに採用されている。
OTHERS
三洋化成工業は再生可能エネルギーである風力発電の風車ブレードに使われる炭素繊維用集束剤や、自動車の電動化などで世界的に需要が高まるアルミ電解コンデンサー用電解液などの生産能力を順次増強している。安定供給できる体制を構築し、カーボンニュートラル(温室効果ガス排出量実質ゼロ)に貢献している。
岩崎通信機などを母体として22年10月に設立された岩通ケミカルクロス(東京都杉並区)の帯電防止材料は、車載エレクトロニクス部品の輸送時の静電気による不具合を抑える。導電塗料を透明ヒーター用途にも提案する。また機能性材料である同社の硫化ガス吸着剤は、銀や銅の腐食要因となる硫化水素を吸着。同ガスは段ボールから発生することもあり、引き合いが急増している。
