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山積する社会課題解消へ―ハウスメーカーの取り組み
造園で生物多様性貢献 LCCM住宅を商品化
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積水ハウス「5本の樹計画」(イメージ) -
住友林業のLCCM住宅のモデルハウス
積水ハウスは年間のネット・ゼロ・エネルギー・ハウス(ZEH)供給が早くから90%を超えるなど、環境に優しい住まいづくりをリードしてきたハウスメーカーの一つ。その一方で、造園緑化事業でも2001年から「5本の樹計画」という地域の在来樹種を生かした庭づくり・まちづくりを推進している。21年度の年間の植栽本数は101万本で、01年からの累積植栽本数は1810万本(22年1月現在)になるという。
その生物多様性保全効果について、琉球大学などとその効果を検証。「計画」を推進しなかった場合に比べ高い環境配慮があったことを明らかにしている。さらに、生物多様性と健康に関する共同研究を東京大学大学院農学生命科学研究科と進め、地球環境への優しい住まいの在り方を同業他社とは異なる深度で追求している。
今、住宅の省エネ化に向け国が普及に力を入れているのはZEHだが、さらに環境負荷が少ないものとして注目されているのがライフ・サイクル・カーボン・マイナス(LCCM)住宅だ。これは建設時、居住時、解体時において省二酸化炭素(CO2)に取り組み、太陽光発電などの利用による再生可能エネルギー創出で、建設時も含めライフサイクル全体でのCO2収支をマイナスにする住宅のことをいう。
住友林業では22年4月、LCCM住宅を商品化し、同10月には鳥取県米子市内にモデルハウスを建設。LCCM住宅の実棟は国内にはまだ少なく、同社の普及に向けた注力の様子がうかがえる。光と熱をコントロールする設計の工夫、大容量の太陽光発電システムの搭載により居住時のCO2排出量を大幅に削減。炭素固定量は約19トン(CO2ベース)で、テニスコート約19面分の植林に相当するという。
スマート&防災―展開 早期復旧の仕組み運用
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豪雨に備える雨水貯留システムも備える(積水化学工業住宅カンパニー) -
旭化成ホームズ「ロングライフイージス」(イメージ)
温暖化の影響で豪雨災害への懸念も高まっている。そこで、地震なども含めた総合的な防災機能を持つ「レジリエンス性」にも注目し、省エネなどを高いレベルで達成するまちづくりを行うという機運が高まっている。積水化学工業住宅カンパニーのまちづくりが代表例で、同社は「リードタウン」などというブランドで全国各地の開発を推進している。
開発地の地下に積水化学工業の総合力を結集させた、豪雨災害対策などの地下インフラを設置。さらに、一戸建て住宅については太陽光発電、蓄電池などを導入した「スマートハウス」仕様とし、災害による停電などでも通常に近い暮らしを可能にすることで、居住者のみならず周辺地域の人々に安心・安全な暮らしを提供している。
大規模な災害発生に伴う復旧・復興活動をスムーズに行うためには、地域ごとの被災レベルを迅速に見極め行動することが重要になる。住宅の復旧活動は人々の不安を和らげるため特に重要だが、旭化成ホームズは防災情報システム「ロングライフイージス」を運用し備えている。同システムは23年2月から、21都府県をカバーする地震被害推定システムの運用も開始したと発表している。
ロングライフイージスのほか、防災科学技術研究所、東京ガスのガスネットワークを活用したもので、地震動情報と建物の構造データを掛け合わせ、地震発生後10分―2時間程度で同社が供給した一戸建て住宅と賃貸住宅について、建物別に被害レベルや液状化発生状況を即時把握して対応に当たるシステムとなっている。
賃貸住宅でZEH普及 桐―部材化で地域活性
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大和ハウス「トリシア(3階建て)」(イメージ) -
「KIRINOKA」のデザイン例(ポラスグループ)
ZEHの普及は新築一戸建てでは一定の進展が見られるが、そのほかの建物では現状、歩みが遅い状況だ。大和ハウスでは「すべての建物の脱炭素化によるカーボンニュートラルの実現」を重点テーマの一つとし、23年度には業界初となる「RE100」の達成、30年度までに国内でZEB・ZEH率100%とすることを目指している。そこで22年10月、ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス・マンション(ZEH―M)に対応した鉄骨造2階建て・3階建て賃貸住宅商品「トリシア」を発売するなど、取り組みを強めている。
建物全体の高断熱化に加え、省エネ設備の導入により、標準で「ZEH―M Oriented」(年間のエネルギー削減率20%以上)を実現。太陽光発電の搭載で政府が目指す水準(3階建て以下)であるZEH―M(年間のエネルギー削減率100%以上)と、「Nearly ZEH―M」(年間のエネルギー削減率75%以上)の普及促進を図る。
地域活性化に貢献することも持続可能社会の実現に欠かせない視点だ。埼玉県越谷市に本社を置くポラスグループの中央住宅では、同県の春日部桐箱工業協同組合や建材メーカーと協同で、地域の伝統手工芸品「桐箱」の住空間への転用と地域産業の活性化のための取り組みを展開。具体的な成果として、住宅の壁面に使う内装用無垢(むく)キリパネル「KIRINOKA」を開発し、自社分譲住宅に採用を始めている。
キリは軽さや断熱性、難燃性、防虫効果(タンニン、セサミンを多く含有)、調湿性などが高い素材。10年前から、前述の事業者とキリの住宅用パネルの開発に取り組み、キリ板の特性を最大限に引き出しながら、多様化する顧客のニーズに応えられるよう工夫し、商品化にこぎ着けた。
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住生活ジャーナリスト 田中 直輝
【執筆者】 住生活ジャーナリスト 田中 直輝
1970年、福岡県生まれ。早稲田大学教育学部を卒業。約10年間にわたって住宅業界専門紙に勤務。主に大手ハウスメーカーを担当、取材活動を行う。その後、独立し、現在は東洋経済オンラインなどで執筆している。